魔獣も仲良しこよし1
数日の準備期間の間に食料とか色々必要なものを揃えた。
今回向かうのはジケたちだけではなくヘギウス商会からの追加の人員も同行している。
「お出かけだ〜!」
ミュコも一緒に行く中に入っていた。
ニージャッドはミュコが危ないところに行くということにかなり渋った。
けれど娘に弱いのが父親というものである。
周りの人のフォローもあって最終的にはニージャッドが折れることになった。
ただ手放しで行ってこいとはいかなかった。
フィオス歌劇団の中でも腕が立つ団員が一人お目付け役としてついてくることになったのである。
サビオールというややいかついオッさんがお目付け役で、元々は冒険者で今は歌劇団の演奏や道具係、護衛をやっている。
元冒険者なので結構強いようで戦いの方でも期待はできる。
劇団以外の用事で外に出ることが少ないミュコはぴょこぴょこと跳ねるように歩いている。
「一応お仕事みたいなもんだからはしゃぎすぎるなよ?」
「分かってるよ」
そうは言いながらもミュコはニコニコだ。
いつもはおろしている髪を動きやすいように一つにまとめていて、ミュコが跳ねるたびにまとめた髪も一緒に跳ねている。
「まだまだ子供だね〜」
ちょっとお姉さんぶったようにエニが言う。
「ふふふ〜、嬉しいからね〜」
旅としての経験値はミュコの方が上である。
でもこうしてジケと行動することはエニの方が多いのでエニの方が今はちょっと落ち着いている。
「こうして歩きでどっか行くのも久々だな」
最近はもっぱら馬車での移動が多かった。
揺れの少ない馬車は快適だったので遠出をするのなら使用頻度も高かった。
ただシルフィーが馬車なども警戒してしまう上に近くに馬車を預けておくような町がないので今回は最初から徒歩での移動となっているのである。
「こうしてのんびりと景色を見ながら歩くのも悪くないですね」
馬車移動だとお留守番になりがちなニノサンも護衛として同行している。
久々の広い場所にニノサンは自身の魔獣であるイレニアも出していた。
イレニアはユディットの魔獣であるジョーリオの上に乗るフィオスの上でうつ伏せになって寝ている。
人通りがある道ではないし歩きなので魔獣たちも出している。
契約者のそばで自由に魔獣を出してあげることも時としては必要なことである。
エニの魔獣であるシェルフィーナはジケたちの上空を飛んでいる。
「……私も呼んでいいかな?」
仲の良さそうな魔獣たちを見てミュコがポソリとつぶやいた。
「もちろん」
ジケが笑顔で答える。
過去ではあまり魔獣を交流させるということも考えなかったけれどこうして一緒に出していると全く異なる魔獣同士でも意外と仲良くする。
「じゃあ……おいでスイット。えっ!」
「んぶっ!?」
そういえばミュコの魔獣見たことなかったななんて思っていた。
ミュコが呼び出したスイットと名付けられた魔獣は白いウサギであった。
しかしただのウサギではなく首回りの毛が水なのである。
澄んだ美しい青色の水が首に巻かれている。
首の毛がまるで水になってしまったようにも見えた。
目は濃いブルーで青と白のコントラストが可愛らしい魔獣だった。
しかしよく観察する暇もなくミュコの腕に抱かれたスイットは急にジケの顔に飛びついた。
頭よりも一回りほど大きなウサギが飛びついて来て一瞬首が持っていかれかけた。
「ス、スイット!」
スイットはスリスリとジケに顔を擦り付けている。
どうやら好かれているらしいということはジケも周りのみんなも分かっていた。
ミュコが恥ずかしそうに顔を赤らめてスイットを引き剥がそうとするけれど、スイットはがっしりとジケの顔にしがみついている。
多少息苦しいけどお腹のもふもふが気持ちいいなとジケは思っていた。
「シェルフィーナ?」
「スイット?」
「「ああー!」」
何を思ったかやや鋭い目をしたシェルフィーナがガッとスイットを足で掴む。
そしてそのまま飛び上がる。
ユディットはその光景を見て“捕食”と思った。
「シェルフィーナ、降ろしなさい!」
「スイットー!」
「まあ……仲良しだな」
スイットを掴んだままジケたちの上を二周ほど回ってシェルフィーナはスイットを地面に降ろした。
「なんか……ミュコみたいだな」
「どゆことよー!?」
ただスイットは飛んだのが楽しかったらしく元気いっぱい。
その明るい様子を見ているとミュコに似ているなと思う。
ジケがスイットに手を伸ばすとむしろスイットの方から頭を擦り付けてくるぐらいに懐っこい。
スイットが撫でられているのを見てフィオスも跳ね寄ってくるのでジケはフィオスを抱えてスイットに近づけてみる。
スイットの青い目がフィオスを見つめる。
「気に入ってくれたようだな」
しばし見つめあった後スイットは目を細めてフィオスにも顔を擦り付ける。
フィオスとも仲良くなれそうだ。
大きなジョーリオをの上でフィオスを含めた魔獣たちがまったりとしている。
スイットは直接的に戦うのは苦手そうだけど魔力はありそうだった。
フィオスは体を伸ばしてスイットの首回りの水に触れていた。
似ているとでも思っているのかもしれない。
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