君の隣に剣で立つ2

「私も本気になるよー!」


「おっ?」


 ミュコの攻撃の変化をジケは感じ取る。

 手数がやや減ったが攻撃の威力が急に増した。


 何が原因かミュコの攻撃を防ぎながら観察していてようやく分かった。

 回転である。


 腕ではなく体を回すようにミュコは剣を振っていた。

 だから威力が増した。


 動きそのものは大きくなるので攻撃の速度は落ちるのだが2本の剣が連続して攻撃してくるので手数の減少はあまり気にならない。

 戦いながらまるで舞を踊っているようだとジケは思った。


 ステップを踏み、舞が乗ってくるとさらに攻撃の速度と威力が上がってくる。

 それでもジケはミュコの攻撃を防ぐ。


「ほいっ」

 

「ふぇっ!? あっ、にゃ!」


 筋は悪くない。

 剣を習い始めた頃のジケならばなす術もなくやられていた。


 しかし今のジケは結構経験も積んでいる。

 ミュコの致命的な弱点を見抜いていた。


 ジケがサッと出した足を出す。

 避けることができなくてミュコは思い切り足を引っ掛けてバランスを崩した。


「わわわわわわっ!」


「ほら」


「フェッ!?」


 ミュコは剣を持った両手をぶんぶんと振ってバランスを取ろうとするがそのまま倒れそうになった。

 ジケはミュコの前に腕を差し込んで受け止める。


 倒れるのをなんとかしようとグルンと回転した結果ミュコはジケに抱きかかえられるような形になった。


「経験不足、だな」


 それでも想像よりも遥かに強かった。

 ニカッと笑うジケの顔を近くで見てミュコは顔を赤くする。


 ミュコの弱点は経験不足なことだった。

 技や動きそのものは悪くないのだけど変化に乏しくリズムが一定なのである。


 ジケはミュコの動きのリズムを見抜いて足を出したのだ。

 押しきれなかったどこかの時点で変化を持たせて相手にリズムを見抜かせないようにしなければならないのだけど、そうしたところまで至っていない。


「でも合格だ」


 無理をしなければ魔物と戦えるだけの実力はある。

 魔物が相手のリズムを読んでくるなんてことしない。


 それにあれだけ戦えれば魔物相手なら読まれる前に倒せることだろう。


「いつまで女の子抱いてんのよ!」


「あでっ!」


 ちょっと不機嫌そうなエニがジケの頭を杖でコツンと叩く。


「ごめん、ミュコ」


「あっ、うん。ま、別に嫌じゃないから」


 ジケの合格ももらえてミュコは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 そんな様子を歌劇団のみんなは生暖かい目で見ている。


「足は大丈夫か?」


「大丈夫! それより合格ってことは……」


「ああ。だけどニージャッドさんの許可はちゃんともらうんだぞ?」


「あっ……」


 どうせそんなことだろうと思った。

 ミュコはニージャッドの許可を得てからジケのところに来たのではない。


 とりあえず話聞いたから一緒に行きたいと言ったのであって一番の壁のことは忘れていたのである。


「なんの話かな、ミュコ?」


「あ、あははっ……えーとねぇ……」


 また何かしたのか。

 穏やかそうな笑みを浮かべる父親ニージャッドをどうやって説得しようかなとミュコはひきつった笑みを浮かべているのだった。

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