君の隣に剣で立つ1

 リンディアのお願いを受けてシルウォーという魔物を守ることになったジケ。

 それはいいのだけど当然ジケ1人にされたお願いというよりもジケも含めたジケ周りの人も一緒にということである。


 ジケがいくのだしもちろん護衛となる何人かもついてくる。


「私も連れてって!」

 

 他にも誰か連れて行くべきかと悩んでいたジケを真っ直ぐな目で見つめてミュコが訴えた。


「ミュコが?」


「うん!」


「でも……」


「ふふふぅ〜ん! 私も戦えるんだよ!」


「えっ? そうなのか?」


 ミュコに伝えたのはリンディアに頼まれて魔物と戦いに行くというざっくりした情報である。

 そしたら自分も行きたい! と言い出したのだ。


 ただジケはミュコの身を案じて渋い顔をした。

 それに対してミュコは自分も戦えるのだと主張したのである。


「旅芸人はただ舞えるだけじゃダメなんだよ」


 驚くような表情を浮かべるジケにミュコは微笑んだ。

 世の中は甘くない。


 歩いていれば魔物もいるし盗賊なんかもいる。

 今はフィオス商会として保護されているけれど以前のテレンシア歌劇団としては守るものはいなかった。


 仕事を選り好みすることなんてできず厳しいスケジュールで移動することもあった。

 少し危ない道を行くことも時として必要なのである。


 そのために戦う心得も生きていくためになければいけないのだ。

 ただジケの記憶ではミュコは戦えない人だった。


 過去の記憶によるものではあるがミュコは剣を血で濡らすことを嫌って戦わなかったのである。

 もしかしたら戦いの心得もあったのだろうけど戦う感じではなかった。


「私も戦えるように頑張ってるんだ!」


 だがジケは知らなかった。

 今回の人生においてミュコが努力をしていたことを。


 ジケと一緒にいたいとミュコは思った。

 けれどジケは強くて戦いにも身を投じるしジケの周りにいる人はみんな強い。


 特にエニは一緒にいながら魔法も使えるすごい子だとミュコは感じていた。

 負けないように、一緒にいられるように、もっと自分を見てもらうためにとミュコは歌劇団のみんなに頼み込んで剣の扱いも習っていた。


 ミュコの考えが過去とは違っている。

 そのことに驚きつつもただ守られるだけの存在でなくなったミュコは過去よりも頼もしくなったようにジケの目に映った。


「……分かった」


「じゃあ!」


「俺と戦おうか?」


「へっ?」


 ミュコが自分の身を守れるようになったのはいいことだ。

 だが戦えるようになったということと戦えることはまた違う。


 行きたいというのなら連れて行ってあげたい気にはなるものの今回の目的を考えるに軽く戦えるだけではなくてしっかり戦える必要がある。


「実力、見させてもらうぞ」


「……うん!」


 ダメと言われると思っていた。

 けれどジケは頭ごなしには否定せずにちゃんとミュコのことを見て決めようとしてくれている。


 こういうところもジケの好きなところとだとミュコは思う。


「武器持ってくるからちょっと待ってて!」


「いや歌劇団の家の方でやろう」


 ーーーーー


 ジケとミュコが何かをする。

 そんな気配を嗅ぎつけたエニもついてきた。


「朝から元気ですね」


 護衛としてついてきたニノサンも驚くほどの速さでジケたちは町を駆け抜けて歌劇団が拠点している家まで走ってきた。

 魔法使いならエニだけど体力もあって全く遅れることもなかった。


「ふふん! この私の実力を見てビビるなよ〜!」


 ミュコは髪をまとめてより動きやすい格好に着替えてきた。

 腰には2本の剣を差している。


「双剣?」


「ソリャン流双剣術をご覧あれ!」


 歌劇団が練習なんかを行う広い部屋でミュコは剣を抜いた。

 かなり細身の2本の剣を両手に持つ。


 聞き手である右手に持った剣よりも左手に持っている剣の方が少し短い。


「それじゃあどんなもんかね」


 ジケはフィオスを出して武器の形にする。

 今回は剣の形ではなく丸みを帯びた棒のような形になってもらった。


 さすがに刃のついた剣では危険なので殺傷能力を抑えた形にしたのである。

 ミュコの方は真剣だが相手に遠慮して真剣を振れないようでは実戦でも危うい。


 最悪の場合はエニもきてくれているので治療はできる。


「行くよー!」


 歌劇団の人たちも見学に集まってジケとミュコの手合わせが始まった。

 ミュコは床を蹴って走り、ジケと一気に距離を詰める。


 さすがの軽やかさでスピードがある。


「はっ!」


 ミュコが剣を振ってジケはそれを上手く防御する。

 2本の剣から繰り出される攻撃は素早くて手数も多いけれどその分一撃一撃は軽い。


「これが本気か?」


「まだまだ!」


 ジケが余裕の表情を見せるとミュコは悔しそうに回転を上げた。


「モンスターパニックも乗り越えてきていたとは聞いていましたが……」


 ニージャッドはむしろジケの実力に驚いていた。

 ミュコはまだ剣を習い始めて日が浅い。


 けれど持ち前の運動神経の良さとセンスであっという間に武器の扱いを吸収している。

 ミュコのために見つけた軽い剣はミュコの力でも扱えて同年代の子では双剣の手数に対処することは厳しいと考えていた。

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