ドレス作りも大変なんです3
「素材となる魔物は魔獣ではなく自然に存在しているもので素材を取ってこなきゃ布は作れないのだけど……その魔物に今問題が起きていてね」
ジケはなんとなくだけど話の流れが少しだけ読めたような気がする。
「布が欲しいなら手伝ってはくれないかしら?」
「話を詳細に聞いてから判断します」
「ふふ、冷静なのね? 私に恩を売る機会なのよ?」
「売られる恩を押し付けられてはいけませんからね」
「賢い子」
リンディアは再び微笑む。
何も言わずに簡単に引き受けるだなんて思ってもいないけれど、やはり良い意味で子供らしくないジケにリンディアは嬉しさを覚えている。
これぐらいしっかりしていてくれないとふさわしくないと思っている。
「高級な布が何からできているか知っているかしら?」
「……いえ、勉強不足で」
たとえ人生二度目でも知らないことは知らない。
ジケは過去の一生でも高級な服など縁がなかった。
関わることもなければ興味もなかったので何からできているかなど知る由もない。
過去では知ったところで虚しくなるだけである。
「シルウォーという魔物はご存じ?」
「いえ、知らないです」
「知らないことを素直に認められるのは美徳よ。シルウォーは虫の魔物なのだけど特定の植物しか食べない種類の魔物なの。そして自身が成長して幼虫から成虫、あるいは成虫でも一定期間ごとに大きくなるために糸を吐き出して繭を作るの」
へぇとジケは思った。
知らないことを知れるというのは結構楽しい。
高級な布が魔物の素材からできていたなんて知らなかった。
「シルウォーはその生涯で10回繭を作り大きくなっていくのよ。その繭を次の時に邪魔にならないように回収して利用しているのが私たちなの」
「その回収作業に問題が?」
「大きく言うとそうなるわ」
大きく、という言い方をするからには直接回収する作業には問題がなさそうだと予想できた。
「本来シルウォーはか弱い生き物なの。ストレスや環境の変化でも弱っていくし、外敵にも狙われやすい。特に繭にこもって脱皮するたびに他の魔物にとっては魅力的なエサともなるの」
「魔物に狙われるってことはまさか?」
「あら、さすがね? その通り、魔物に狙われるから守るのを手伝ってほしいのよ」
「……なんで俺なんですか?」
まあ話としては理解できるとは思う。
シルウォーという魔物から狙われやすい魔物がいて、布の素材になるから守る必要がある。
というところまではいいのだがどうしてジケに手伝ってもらおうとするのか理解ができない。
布を必要としている相手だからで選ばれたと考えるのはちょっとこじつけすぎる。
ヘギウス商会ほどの規模があればジケに頼らずとも人を用意できるだろう。
「……シルウォーのことは一部の人しか知らないのよ」
シルウォーはストレスに弱いということや高級な布の素材になるということもあってリンディアが信頼している商会員しか存在を知らない。
「ただ今回は少し大変なことになっていて……信頼ができて強い人、その上ですぐに動ける人となると選択肢は意外と少なくなってしまう」
問題が起きた時の人員ももちろんいるのだけど今は1人でも助けが多い方がよかった。
そのような時にジケの商会から布を買い付けたいと要請があったのだ。
ジケならば信頼できるとリンディアは思った。
強さに関してもジケのみならずその周りにいる人も強いことは知っていたのでちょうどよかった。
「どうかしら? 布も特別価格で用意するわ」
「……分かりました。お手伝いさせていただきます」
今の話を聞いて何を思うか。
少なくともリンディアはそうした秘密をジケに打ち明けて助けを求めてもよいと信頼してくれているということである。
ヘギウス家やヘギウス商会にはお世話になっている。
リンデランの祖母であるし信頼を向けられて断ることもできない。
仮にそれがリンディアの作戦だったとしてもジケには断る選択肢もないようなものなのだ。
リンディアが扱う高級な布は決して安くない。
それが特別価格で安くなるのなら十分な見返りがある。
「ありがとう。あなたなら引き受けてくれると思っていたわ」
「他でもないリンディアさんのお願いですからね」
「ふふっ、他でもないジケさんはお優しいのね」
やっぱり最初からリンディアの手のひらの上で転がされていたのだとジケは感じた。
ジケとリンディアは互いに視線を合わせて笑う。
だけどジケに厄介ごとを押し付けたわけでもない。
ちゃんと布もお安く売ってくれるようなのでジケに利益もある。
見た目はリンデランにも似てるけど中身はジケよりもよほど熟練した商人のようだ。
「それとトードスマイル……これまでは出どころ不明だったけど最近あなたのところで捕まえたわね?」
ジケは見た。
穏やかに見えるリンディアの目の奥がギラリと光ったのを。
「今回の布のこともトードスマイルが関わっているからかしら?」
「はは……」
豪快すぎるぐらいのパージヴェルだけではヘギウス家がトップの貴族としてやっていくのは難しかっただろう。
しかしこうして今でもトップにいるのはパージヴェルの手綱をコントロール出来る強かさを持った女性の力があったのである。
ーーー後書き
なんと2巻の予約が始まりました!
2巻も頑張って加筆したのでよかったら予約して買ってくださいね!
コミカライズ企画も順調に進んでいるらしいのですいつかしっかりご報告できたらと思います。
あとラノベニュースオンラインの5月の投票が始まりまして、私の小説も投票先に加えていただきました。
もし投票してくださる方がいらっしゃいましたらよろしくお願いします!
投票していただけたら私がすごく喜びます!
いつも応援していただいたり小説読んでいただいてありがとうございます!
皆様に支えられてこうして小説続けていられています。
読者の皆様に感謝感謝です!
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