ドレス作りも大変なんです2

「どうぞ」


「ふふ、ありがと」


 ジケが先に馬車を降りてミュコに手を差し出す。

 ミュコは嬉しそうに微笑むとジケの手をとって降りる。


「すごい家だよね〜」


「俺の家比べものにならない」


「ジケの家も好きだよ。何だかあそこはあったかいからね」


「パロモリ液塗ってるからな」


「そーいうことじゃないんだなー、どんかーん」


「ぬぁ……また鈍感って言われた……」


「ふふふ、みんな分かってるんだよ」


 渋い顔をするジケをミュコはクスクスと笑う。


「ジケ、あ、ミュコ!」


「リンデラン」


「リンデラン、久しぶり〜!」


 大きなお屋敷からリンデランが出てきた。

 ジケの隣にミュコがいることに気がついてちょっと驚いた顔をした。


 ミュコは満面の笑みを浮かべてリンデランに駆け寄ってギュッとハグをする。

 こんな感じの人懐っこさも双子ちゃんっぽさがある。


 話によると母方のルーツが同じようなところがあるのでそうした気性を受け継いでいる可能性もある。

 ミュコの場合は旅をしていろんな人と接することが多かったから身につけた技なのかもしれないとジケは思った。


「よかったらミュコの相手してやってくれ」


「あっ、うん。じゃあ……」


「では私がご案内いたしましょう」


 少し遅れてヘレンゼールもやってきた。

 おなじみの顔である。


 相変わらずどこ見ているのか分からない細目をしている。

 今回ヘギウス家に来たのはリンデランに呼ばれたからではない。


 それでもリンデランはジケが来るというので出迎えてくれた。


「ミュコ様はお休みなので?」


「しばらく劇団は町に滞在です」


「そうなのですか」


「タミとケリも連れてくればよかったですか?」


「2人がお元気なら私はどちらでもよろしいですよ」


 ヘレンゼールがタミとケリを気に入っていることは知っている。

 娘にするならあんな子がいいと思っていると漏らしたこともヘギウスの騎士から聞いているのでちょっと聞いてみた。


 流石にミュコがヘレンゼールの懐に入るのは難しいと思うのでやはりタミとケリの方が愛され力は高い。


「ジケ様をお連れしました」


「入ってください」


 部屋の中から聞こえてきたのは女性の声。

 ヘレンゼールがドアを開けてジケが中に入るとソファーに座って紅茶を優雅に飲んでいるリンディアがいた。


 リンディアはリンデランの祖母でパージヴェルの妻である。

 部屋の中にはパージヴェルはいない。


 今回ジケを呼んだのはリンディアであった。

 穏やかに笑みを浮かべるリンディアが座るようにと促したのでジケは正面に座った。


「いきなり呼び立ててごめんなさいね」


 メイドがジケの前にもカップを置いて紅茶を注ぐ。

 フワッと香りが漂ってきて、さすがは良いものを使っているなとジケは思った。


「本日は何の用事でしょうか?」


 ジケはまだ何のために呼び出されたのか知らない。

 いきなり家の方にヘギウスの騎士が訪ねてきて話したいことがあると伝えられた。


 何の用件ですかと聞いたのだけど重要なことで直接話したいからと教えてもらえなかったのだ。

 パージヴェルならともかくリンディアとジケの交流は薄い。


 どうして呼ばれたのか考えてみても思い当たる節もない。

 パージヴェルは良い意味で貴族っぽさがなくて緊張もないのだけど、リンディアは上品であり貴族らしい凛とした感じがあるので少し緊張する。


 ただ穏やかな笑みを見ているとやはりリンデランとよく似ている。


「あなたの商会の方から注文があったの」


「注文……ですか?」


「ええ、ドレスに使う高級な布をね」


 リンディアはヘギウス商会で服飾関係の事業を担っているデザイナーである。

 リンディードレスといえば上流階級の女性たちの間で憧れのドレスとなっている。


 もちろん完成品だけではなくドレスの素材となる布などもヘギウス商会では直接扱っている。

 シェリランがエニたち女性陣のドレスを作るのにヘギウス商会に布を注文していた。


 王族のパーティーに着ていくものなのだからデザインだけでなく布そのものも質が良いものを用意せねばならない。

 だから国内でもトップクラスの布を扱っているヘギウス商会を選んだ。


「……それがどうかしましたか?」


 布を買うこと自体別におかしなことでも何でもない。

 それで呼び出される理由にはならない。


「そう警戒しなくても大丈夫。今回来てもらったのはその布のことなの」


「布がどうかしたんですか?」


「実はうちで売っている布の一部は買い付けているものじゃないのよ」


「ん? どういうことですか?」


「魔物から素材を集めてうちで作って売っているの」


「あー、そうなんですか」


 要するにジケのクモノイタみたいなものである。

 どこかに売っているものを加工したりして販売しているのではなく自分のところで魔物を倒したり、魔獣から集めたりして販売しているのだ。


「今回注文されなもののほとんどがそうしたうちで作ってるもの……誰が担当者か知らないけれど布の目利きは確かな人のようですね」


 さすがはシェリラン、服の素材にまでこだわり尽くす乙女である。


「ただ問題があるの」


 紅茶のカップを置いたリンディアはジケの目を真っ直ぐに見つめた。

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