招待状、準備が必要そう2

「とりあえずニージャッドのところに行こうか。あとは彼にも会いたいしな」


「彼?」


「ああ。エニは……会ったことないかな?」


「また変な仲間いるのかな?」


「あー……そうだな」


 招待状を綺麗に折りたたんで封筒に戻す。

 ユディットに部屋の机にでも招待状を置いておくように頼んでニノサンを護衛にニージャッドのところに向かう。


 エニとミュコもジケについていく。

 ジケの後ろについていきながらどこで何をしていたのか2人で話している。


「ご招待には応じるのですか?」


「ああ、そのつもりだ」


 場所が遠いわけでもない。

 王家の正体を断るなんて事しない。


「ただ色々考えることは多いな」


「考えることですか?」


「招待は祝いの席だ。お祝いの品を持っていかなきゃ失礼になる」


「はぁー、なるほど」


 アユインや王様が祝いの品を持っていかなかったからといって怒りはしないだろう。

 しかし周りの目というものがある。


 流石のジケも手ぶらなわけにはいかないのである。

 何を持っていくか考えねばならない。


 ただ何を持っていくかも意外と大事。

 他を圧倒するような必要はないが見劣りしないぐらいのものは必要だ。


 それを考えるのはなかなか難しい。

 ジケの商会の主力商品は馬車であるが最初に馬車は買っていただいているし、少し前にも妊婦のための極限まで揺れを抑えた馬車も注文していた。


 ここから馬車を贈る意味は薄い。

 あまり過分な贈り物もアユインの負担になってしまう可能性がある。


 ジケは抱えているフィオスに視線を落とした。

 フィオスぬいぐるみなんてどうだろうかと思考が明後日の方向に走っていく。


 ジケ個人的にはすごく欲しいけれど王族に対するプレゼントとするのはどうだろうか。

 フィオス商会の方にいくつか置いてみてもいいかもしれない。


 難しいなぁと思いながら歩いて行って平民街にあるフィオス歌劇団が拠点としている建物までやってきた。


「お邪魔しまーす」


「おや、商会長殿。どうなさったんですか? またミュコが何か迷惑でも?」


「またって何さ! ジケに迷惑何でかけてませんー!」


「帰ってきてすぐにジケに会いにいくって飛び出して行ったから心配でね」


「もー! そういうこと言わないでよ!」


 入ってすぐがみんながくつろげる場所となっている。

 そこでミュコの父親であるニージャッドが劇中で使う小道具を直していた。


 ミュコとニージャッドの間で繰り広げられる親子の会話にミュコは顔を赤くしている。

 回帰前にはあまりニージャッド本人と交流がなかったジケであるがこんな感じの人ならもっと話しかけてみてもよかったなと思う。


「エニさんにも会えてよかったな。うちの娘を頼みますよ」


「あ、はい」


 エニはミュコの数少ない同年代の友達なのでニージャッドは柔らかな笑みを向けて軽く頭を下げた。

 エニも慌てたように頭を下げ返す。


「それで今日は何のご用で? 公演の利益報告はもう少し待っていただければ」


「いえ、そうじゃないんです」


「そうですか? ひとまずお座りください。立ったままでは何でしょうから」


 ジケがニージャッドの正面のソファーに座るとジケを挟むようにしてエニとミュコも座る。

 その様子を見てニージャッドは穏やかに微笑んでいる。


「そうですねぇ、少しお茶を入れてきましょう」


 一応ジケはニージャッドの雇い主となる。

 そのまま話し始めてもいいがニージャッドは思い出したように席を立って台所に向かった。


 戻ってきた時手にはトレーを持っていてお茶の入ったカップを持ってきていた。


「公演に行った町で見つけたものです。果物の香りをつけたお茶でなかなか面白いですよ」


 立ち上る湯気と一緒にふわりと香りも漂ってくる。

 ジケは何の香りだろうと思っていたけれどニージャッドが淹れていたお茶の香りであった。


「どうぞ飲んでください」


「ありがとうございます」


 カップを手に取って香りを嗅いでみる。

 甘めの果物のような香りがする。


 一口飲んでみると香りが口いっぱいに広がって鼻から抜けていく。

 味そのものは普通の紅茶なのだけど甘い香りのせいかそれだけ少し甘く感じるようだった。


 ニージャッドが大人だと思うのはしっかりとフィオスの分までお茶を用意してくれていることだった。

 ジケがフィオスをテーブルに置いてやるとフィオスもお茶に体を伸ばす。


 熱いお茶が好きなところは過去だろうと今だろうと変わりないのだなと微笑ましくなる。

 エニは熱いものも平気なのだけどミュコは苦手でよく冷ましている。


「なかなか美味しいですね」


「そうでしょう? 香りを嗅いでいるだけでも気分が落ち着きます」


 ニージャッドもゆっくりとお茶の香りを吸い込む。

 旅している時と比べてニージャッドの顔色がいい。


 予定を詰め込んでお金の心配なんかもニージャッドが全て担っていたけれど今は余裕ができたので顔色も明るくなっている。


「それでご用事は?」


「ああそうだ。この先どこかに公演に行く予定はありますか?」


「公演ですか? お誘いや行こうと思っている都市はありますがどこか決まっている予定はありません」


「それならよかった。実は王様から招待状が届きまして、フィオス歌劇団に公演をお願いしたいと」


 ジケは簡単に事情を説明する。

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