大泥棒が休む場所5
「トルシア・ゴジゲモンここに眠る……」
「これって……」
「ああ、パルンサンの墓じゃなく夫婦の墓だったんだな」
二つ並んだ石の棺。
ゴジゲモンというファミリーネームからも分かるようにパルンサンとトルシアは夫婦なのだ。
「トルシア……」
「知ってるんですか、モロデラさん?」
「前に言っていた協力者がトルシアという人でした。男性か女性かも書いてはいなかったのですが、2人はそういった関係だったのですか……」
下手するとモロデラのご先祖様の可能性まである。
「……流石に棺開ける気にはならないな」
いかにパルンサンの遺品がありそうと言ってもお墓を暴く気にはならない。
「でもあそこに箱あるよ」
「あっ、本当だ」
石の棺の影に隠すように木の宝箱のようなものが置いてあったのをエニが見つけた。
「モロデラさん、開けてください」
「わ、私でいいんですか?」
ジケは頷いて答える。
何が入ってるのかは知らないけれどこの場で開けるのに一番ふさわしいのはモロデラである。
モロデラは緊張した面持ちで宝箱に手を伸ばす。
手を添えてゆっくりと力を入れると宝箱が軋んだ音を立てながら開く。
鍵などはかかっていない。
「これは……」
罠もなく宝箱を開くことができた。
中に入っていたのは二冊の手記であった。
石の棺と同じように並べられている。
「パルンサンの手記のようですね……」
モロデラが一冊を手に取って開いてみる。
相変わらず独特の癖がある難解な文字が書かれている。
間違いなくパルンサンの手記であった。
「こっちは?」
「こちらは……あれ、読めますね」
エニが指差したもう一冊の方をモロデラが手に取る。
どうせまた読めないだろうなんて思いながら開いてみるとちゃんとした文字が目に飛び込んできた。
普通に読める。
パルンサンの手記ではなさそうである。
「どうやらこちらの方はトルシアが書いたもののようですね」
パラパラと中身を読み進めたモロデラは納得したように大きく頷いた。
序盤はいわゆる遺書のようなものだった。
パルンサンへの想いや死んだら子供がこの場所に棺を安置してくれることなどが書いてある。
そのあとはパルンサンの出会いやトルシアの人生が綴られていた。
「どうかしましたか?」
モロデラが難しい顔をしてトルシアの手記を読み込んでいる。
「心配事があると書かれているのです」
「心配事?」
「パルンサンの魔獣はパルンサンが休止してしまったために逆召喚されることなくパルンサンのそばに呼ばれたままになっていたそうです。それだけならあとは魔獣の自由にすればいいのですが、お墓から離れないと書いてあるのです」
「……もしかして」
「もしかするかもしれません」
透明化する魔物がパルンサンのものだったりして、などと冗談混じりに話していたけれどもにわかにその可能性が高まった。
「……とりあえずここを出よう。なんだか嫌な予感が……」
「ジケ!」
「…………嫌な予感がすると思ったんだ」
ジケとグルゼイには視えていた。
天井に空いたから大きなものが入ってくるのが。
手記の中でパルンサンは己の魔獣をこう呼んでいた。
“オオカスミ”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます