大泥棒が休む場所4

「パーシェ、お願いしますよ!」


 モロデラは大きなパーシェを抱えて持っていた。

 勢いをつけて秘密拠点の入り口に放り投げる。


「おー……おー?」


 するとパーシェは貝殻の隙間から水を吹き出し始めた。

 そしてぐるぐると回転して壁に水を吹き付けながらグングンと奥に飛んでいってしまった。


 一見すると中の通路の清掃作業のようだ。


「これで大丈夫です。行きましょう」


 モロデラはみんなの方を振り返って笑う。


「本当に大丈夫なのかよ……?」

 

 びしゃびしゃになった通路を見て不安になったのはジケだけではなかった。

 ひとまずリアーネが先頭を切ってくれることになって秘密拠点の入り口に入っていく。


 パーシェの吹き出した水が床に溜まって歩くたびにぱしゃぱしゃと音を響かせる。

 秘密拠点の中は明かりなどないのでエニが火の玉を飛ばしてくれている。


「おっ、これは!」


 入り口を入って通路を進んでいくと壁に鉄の針が突き刺さっていた。

 どう見ても発動後の罠である。


「どうですか? これがパーシェの力です」


 後ろから顔を出してモロデラが誇らしげに笑顔を浮かべている。

 モロデラとパーシェがやったことはただ通路を綺麗にしただけではなかった。


 水を壁に吹き付けながら飛んでいくことで水がスイッチを押して罠を作動させていたのである。

 パーシェそのものは硬い殻で覆われているし罠が当たってもやられることはない。


 なんとも力技で攻略していたのだなとジケは驚いた。

 そしてやっぱり罠があったか、という感想であった。


「実は以前に似たようものを見つけていまして」


「そうなんですか?」


「そこは……ダミーだったようで。そこにも罠があって死にかけました。その時にこの方法を思いついたんです」


「ダミーなんてものまで?」


「分かりやすい場所にあったので怪しいとは思ったのですが、奥まで行ってみると行き止まりで残念と」


 なんとも性格の悪いことをするとジケは苦笑いを浮かべた。


「リアーネ、ストップ」


「ん、なんだ?」


「多分そこに罠がある」


 ただパーシェも万能ではない。

 水を噴き出しながら高速で移動する関係上罠を見逃してしまうこともある。


 魔力感知で壁や床を警戒していたジケは床の小さい違和感に気がついた。


「ここか?」


「もうちょい右……」


 リアーネは剣を抜いてジケの指示の下、スイッチを探す。

 剣の先で罠を発動させようというのである。


「ちょっと奥」


「あいよ」


 リアーネが床を剣で押すとカチッと音がして天井から槍が降ってきた。


「相変わらず殺意高えな」


 巻き込まれたら重傷、下手すると死んでしまうような凶悪な罠が仕掛けられている。


「あはは……過信は禁物ですね」


 本当どうやってモロデラが無事に罠を乗り越えたのか気になって仕方ない。

 パーシェによる罠発動作戦も完璧ではないことが分かったので慎重に進んでいく。


 幸いジケたちにも一度宝物庫での経験もあるので罠を見つけることもできた。

 大きな岩が落ちてきて追われるようなとんでもない罠もなさそうだ。


「なんか先が開けてるぜ」


 先頭を歩いていたリアーネには少し先の壁が途切れているのが見えた。


「……罠はなさそう」


 魔力感知で丁寧に先をチェックしたがスイッチのようなものは見当たらない。


「行くぞ」


 リアーネがそっと進んでいく。


「……大丈夫そうだ」


 先に進んでみても平気だったリアーネが声をかけてみんなも後に続く。


「なんだろ、ここ?」


 リアーネの言う通り通路の先は開けていた。

 広い空間で人の手も加わっているけれどほとんどが自然にできた洞窟のように見えた。


 想像していたのと違う雰囲気にモロデラも呆けたように周りを見回している。


「ここが秘密拠点?」


 拠点というには拠点らしくない。

 ずいぶんと落ち着いた雰囲気のある場所である。


「思ってたより……明るいな」


 リアーネが天井を見上げる。

 天井には大きな穴が空いていて光が差し込んでいた。


 どうやら上の穴は地上のようである。


「奥にあるのはなんでしょうか?」


 ジケたちから見て奥の方に大きな石の箱のみたいなものがある。

 石の箱は2個並ぶように置いてあって、ちょうど天井からの暖かな光が石の箱にさしている。


 罠を警戒しつつジケたちは石の箱の近くまで移動した。

 その途中で転がっていたパーシェはモロデラが逆召喚してちゃんと戻した。


「なんだか棺みたいですね」


 縦長の長方形の石の棺は人が寝て入れそうなほどの大きさがあった。

 まるで棺のようだとユディットは思った。


「なんか書いてあるな」


 より近づいて石の棺を見てみると文字が刻んであった。


「どれどれ……ええと、パルンサン・ゴジゲモンここに眠る…………ってことは!」


「ここは秘密拠点じゃなくてパルンサンのお墓……なのか」


 石の棺に刻まれた文字を読み上げてモロデラは息を呑んだ。

 てっきり何かを隠してある秘密拠点だと思ったらここはパルンサンが眠るお墓なのであった。


 石の棺はユディットの言う通り棺なのであったのだ。


「じゃあこっちは?」


 一つがパルンサンのものだということは分かった。

 となると隣にある石の棺は誰のものなのか。

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