大泥棒が休む場所3

「それにしてもよく分かりましたね」


 改めてお昼を食べながらユディットが感心したように秘密拠点の入り口を見た。

 あんなところにスイッチがあるだなんて思いもしなかった。


 モロデラに従って石をいじって探していたら一生見つからないところだったと思う。


「考えてもみろよ。あんな地面に落ちてる石をスイッチにしたら誰かが蹴飛ばした拍子に開いちゃうだろ?」


「……確かに」


「なら簡単には触れないところにあるんじゃないかって思ったんだよ」


「なるほどねぇ〜言われてみりゃ確かに。地面に落ちてる石ころがスイッチなわけないか」


 秘密の拠点にしようとしている相手の立場に立ってみたら分かることだ。

 ただ水が滲み出るところも何箇所かあるのでまさか一発で当たるとは思わなかった。


「ジケの頭の柔らかさに救われたな」


「そうですね」


「んじゃ……あん中に入るの?」


 エニが秘密拠点の入り口を覗き込んでみるが光が当たる浅いところしか見えない。

 石を削り出したような壁や床が見えるのみで中の様子は一切うかがえない。


 こんなところに入り口を隠す人なのだ、まともなはずがないとエニは思う。

 入って大丈夫なのか少し心配している。


「まあ……前の経験からいくと罠あるだろうな」


「えっ、なにその前の経験って?」


「あれ、話してなかったっけ? 前にさ……」


 ジケは以前にパルンサンの宝物庫に偶然迷い込んだことをエニに説明した。


「ひふぁいぞ?」


「まーた、危ないことしてる」


 ジケがエニに内緒で宝物庫なんて危ないところに行った。

 拗ねたようなエニはジケの頬を掴んで引っ張る。


「行きたくて行ったんじゃないよ……」


 地面が陥没したので落ちてたまたま宝物庫にたどり着いた。

 冒険しようなんて気はさらさらなかった。


「ちゃんと言いなさいよ」


「色々あったから話すの忘れてたよ……悪かった」


「まあいいけど。じゃあその宝物庫のことから考えると罠があるかもってこと?」


「その可能性が高いと思ってる」


「あぁ……あんなもんあったら危なすぎるって」


 なんせ凶悪な罠だった。

 リアーネとユディットもその時のことを思い出して苦笑する。


 というか、過去でも罠はあったはずだ。

 モロデラはそれらを無事に乗り越えて行ったということになるが、どうやって乗り越えたんだろうとジケは不思議に思った。


 魔物から走って逃げるなんていう健脚の持ち主なので運動神経は悪くないのかもしれない。

 どうにかこうにか罠をうまくかわし続けて無事に先に進めたとしても宝物庫の方はケントウシソウがいる。


 そこは運じゃどうしようもない。


「まあいっか」


 もしかしたらモロデラに秘密兵器でもあるのかもしれない。

 罠の解除方法を知ったとか別の入り口があったとか考えられる可能性は他にもある。


 過去のことは知りようもないのでジケは考えるのをやめた。


「それじゃあそろそろ行こうと思うんだけど……師匠、モロデラさん後どれぐらいで起きますか?」


「毒も弱いし量もさほど打っていない。もう起きるだろう。起こしてみろ」


「起きてくださーい」


 ジケはモロデラのことを揺すってみる。


「くわっ……」


「モロデラさーん?」


 変な鳥みたいな声を出しただけでモロデラは起きない。

 ジケはさらに激しくモロデラを揺する。


「ンゴ……ンガ……」


「顔ぶん殴ってみりゃいいんじゃねえか?」


「軽く炙ってみようか……?」


 口を半開きにしてだらしなく眠り続けるモロデラに若干の苛立ちが募る。

 リアーネもエニもジケには優しいけどモロデラにその優しさを向ける必要はないので厳しさがある。


「起きないと燃やされちゃいますよー?」


「ぬぁ……」


「あっ、パルンサンの秘密拠点!」


「ぬぁにぃ!」


 これでダメだったらエニに軽く刺激でも与えてもらおうかと最後の声かけをしてみた。

 見事に作戦成功してモロデラは飛び起きた。


「あれ? ここは……?」


「秘密拠点、見つけたんですよ。これどうぞ」


「あっ? ……ああ!」


 寝ぼけたようなモロデラにジケが水を渡してあげる。

 半分口の端からこぼすように水を飲んでいたモロデラも頭がハッキリとしてきて眠そうだった目に光が宿る。


「秘密拠点の入り口……見つけたんでしたね! あれ? なんで寝てしまったのでしょうか?」


「まあなんでもいいじゃないですか」


「そうですね! 大切なのは秘密拠点です!」


「ちょちょちょ、待ってください!」


 覚醒したモロデラは早速秘密拠点に入っていきそうだったのでジケが止める。


「なんでですか?」


「さっき自分でも言ってたじゃないですか。これを作ったのは罠を作るのもできる人だって。中に罠があるかもしれません」


「…………それは確かにそうですね」


 モロデラは自分でその可能性があることを口にしたのに罠があるかもしれないことをすっかり忘れていた。


「とりあえず私が先に……」


「いえ、ここは私にお任せください!」


 先に行ってくれようとするリアーネを制してモロデラが前に出る。


「パーシェ!」


 モロデラが自分の魔獣を呼び出した。


「貝?」


「そうです。これが私の魔獣のパーシェといいます」


 モロデラの魔獣は人の胴体ほどの大きさがある丸い形をした二枚貝の魔物であった。

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