秘密拠点と秘密の魔物3

「へっ?」


 グルゼイは唐突にジケの服を掴むと持ち上げる。


「ええっ!?」


「うわぁっ!?」


 そして盾さながらに迫る火の玉に向かってジケを差し出した。


「ぐっ、えいっ!」


「あ、あっつ!」


 エニはとっさに火の玉の軌道を曲げてジケに火の玉が直撃することはなかった。

 しかしかすめるように飛んでいったので結構熱かった。


「この!」


 ジケは体をねじって勢いをつけグルゼイを蹴りつける。


「ふっ、こうして仲間を盾にされることもある。ちゃんと攻撃のタイミングを見極めることだな」


 グルゼイは蹴りをかわすと軽くジケを放り投げる。


「あんたの師匠容赦ないわね」


「あれでも丸くなったんだ」


 エニが軌道を曲げなきゃジケに当たっていたかもしれない。

 自分で火傷させて自分で治すなんてことにならなくてよかったとエニは思う。


 なかなかどころか、かなりキツイやり方している。

 けれど出会った最初の頃なら軽く投げるのではなく地面に突っ伏すぐらいに投げられていたことだろう。


「……でも、ムカつく」


「ふふ、師匠に一発決めてやろうぜ」


 ここでくじけないのがエニの良いところ。


「次はジケごと燃やすから」


「……やめてくれ」


「それじゃあいくよ!」


 後ろに立つエニから魔力と熱が放たれるのをジケは背中で感じていた。


「ほほぉ……俺を殺す気か?」


「いつも殺す気で来いって言ってるじゃないですか」


 無数の炎の槍がエニによって生み出される。

 切先は全てグルゼイの方を向いていて、作業をしていたリアーネたちも思わずその光景に目を向けた。


「いけ!」


 エニが杖を振り下ろすと炎の槍が一斉にグルゼイの方に飛んでいく。


「恐ろしい彼女だな……」


 魔法もそうだが、燃え盛る炎のような闘争心も持ち合わせている。


「だがまだまだだ!」


 何とグルゼイは下がるのではなく前に足を踏み出した。

 最小限の動きで炎の槍をかわし、回避できないもの剣を振るって切り裂く。


 視覚ではなく魔力感知で全ての炎の槍を把握しているからこそ次の動きに無駄なく移り変わっていける。


「食らえ!」


 全部かわされてしまった。

 しかしエニの攻撃はそれで終わりではない。


 地面に突き刺さった炎の槍が突如として爆発を起こして地面が揺れる。

 容赦ないのはどっちだと思わざるを得ない。


「あれでも無傷なの!?」


 立ち上る土煙の中からグルゼイが飛び出してきた。


「ふっ!」


 ジケとグルゼイが切り合う。

 同じ剣を修練しているので互いに鏡合わせのように剣を合わせていく。


「やるようになったな」


「師匠の弟子ですから」


 それでもやはり大人と子供の力の差はある。

 同じ剣でも熟練度の差というものも存在している。


 切り合いに変化を持たせ、ジケはグルゼイの懐に飛び込むように距離を詰めた。

 それでもグルゼイは軽くジケの剣をかわして脇腹を木の枝で突こうとした。

 

「どりゃ! エニ、今だ!」


 ジケはギリギリ木の枝をかわすとグルゼイの腕を抱え、服を掴んで引き寄せる。

 何もジケは1人ではないのだ。


 今はエニと共に戦っている。


「おりゃー!」


 エニがグルゼイの背中に向かって火を放つ。


「考えたものだな」


 流石にこれならグルゼイも逃げられないだろう。

 そう思っていたジケだったがグルゼイはわずかに口の端を上げて笑っていたのであった。


 グルゼイは手首のスナップをきかせて手に持った木の枝を投げ飛ばす。


「げっ!」


「相手の武器も考えないとな」


「うぐっ!」


 グルゼイは自由な左手で木の枝をキャッチするとジケの首を殴りつけた。

 なんとかグルゼイのことは放さなかったけれど押さえておく力は緩んでしまった。


 その隙に体を回転させ、エニの魔法を切り裂いた。


「うっ!」


 けれどもジケだってただでやられなかった。


「一発、入れましたよ!」


 グルゼイが魔法に気を取られた一瞬の隙を狙った。

 ジケの頭突きが胸に当たってグルゼイは思わず小さくうめき声を上げた。


「…………」


「師匠? えへへ、師匠?」


 さぁーとグルゼイの目の温度が下がっていく。

 これはヤバい。


 ジケは本能で危険を察した。

 そっとジケはグルゼイから離れるが、棒で手を叩いてパンパンさせている様子に目を逸らすしかない。


 卑怯とは言わせない。

 何がなんでも一撃入れてみせろというのはグルゼイなのに入れたら入れたで怒られるなんて納得はいかない。


 チラリとエニの方を見てみるけどエニもジケから視線を逸らす。

 薄情者! と叫びたくなる。


「確かに一撃は一撃だ。仕切り直してもう一度やろうか……」


「ええと……嫌です」


「ふっ、それはできないな」


「ちょっと……休憩しませんか?」


「体が冷える前にもう一度ぐらいやっておくべきだ」


 逃げれない。

 次はパシパシしている木の棒で手ひどくやられるに違いない。


 エニのお世話になることになりそうだとジケは思った。


「…………! ジケ、感じるか?」


「……何をですか?」


 師匠のお怒りなら感じていますと思うがそんなこと口にできない。


「魔力感知を広げろ」


 だがよく見ると怒りや冗談の表情をグルゼイは浮かべていない。

 むしろ緊迫したような雰囲気がある。


 ジケも魔力感知の範囲を広げて周辺の状況を確認する。

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