アラクネノネドコいかがですか?2

 だから細かなことはお任せしてしまう。


「あとは美味しいご飯食べられるお店をいくつか教えてほしいんですが」


「分かりました。少し時間いただければ地図にまとめてまいります」


「わざわざありがとうございます。後、バラス地区というところを知っていますか?」


「バラス地区ですか?」


 クレモンドは驚いたような表情を浮かべる。

 どうしてだろうとジケは思った。


「ええ、知っています。あそこは首都でいう貧民街のような場所です。公に貧民街とは呼ばれていませんがほとんど変わりありません」


 ジケがそんな場所のことを知っているということにクレモンドは驚いていた。

 普通そんな場所について聞きはしない。


「治安としてもあまり良い場所ではないので……観光に行くようなところではありません」


「人を探していまして。バラス地区に住むモロデラという人なんですけど」


「モロデラさん、ですね。こちらの方で調べておきましょう」


 何もかもやってくれる。

 このままここにいたらダメになってしまいそうだとすら思うが、イバラツカの町のことも分からないのでモロデラのことも調べてもらうことにした。


 手紙を届けたのだから多分すぐに調べがつくはず。


「あとは大丈夫です」


「ではごゆっくりお過ごしください。何かありましたらいつでもお申し付けください」


 クレモンドは頭を下げて部屋を出ていった。

 モロデラについてはさほど時間もかからないだろう。


 アラクネノネドコを売りに行く方も相手の貴族の都合がつけばジケはいつでも動ける。

 急にちょっと手持ち無沙汰感が出てしまったけれどものんびりできると思うと悪くない。


「このあとはどうするんですか?」


 フィオスをまくらにフカフカベッドに寝転んだジケにユディットが声をかける。


「今はオススメのお店でも聞いたら食べに行こう。用事の方は商談優先だな。時間があるようなら先にモロデラのほうに行くけど」


 商売優先というわけでもないけど個人的な用事を優先して行けませんなんてことになると相手に失礼。

 相手の貴族のスケジュールを聞いて時間があるならモロデラのところに行き、すぐに来てくれというのなら商談に向かおうと考えていた。


 その前に美味しいご飯は食べたい。


「しかしこうなるともう少しクモの魔獣の人増やしたいよな」


 一時期木材が足りなくて止めてた馬車の生産も再開した。

 馬車の方は少し落ち着いてきたけれどまだそれでも注文は入っている。


 アラクネノネドコについてはあまり表立って売らず、フェッツやヘギウスなどの仲介があるところに売るようにしている。

 それでもじんわりと話が広がっているようだ。


 みんなにあまり負担もかけられないので生産能力の向上のためにクモの魔獣探さなきゃなとジケは思った。


「失礼します。お店のオススメ、地図に記しておきました」


「あっ、ありがとうございます」


 ダラダラとしているとクレモンドが地図を片手にまた部屋を訪ねてきた。

 地図はイバラツカの町のものでオススメのお店の場所と何がオススメなのかが書き込んである。


「ほれ、どこがいい?」


 なぜかジケのベットで一緒に寝転がっているタミとケリに地図を渡す。

 女性部屋は隣の部屋なのになぜかそのままジケについてきているのだ。


「んー」


「どこも良さそう……」


 2人で地図を眺めてどこのお店がいいか悩んでいる。


「じゃあ……」


「ここ!」


「よし、決まりだな」


 以心伝心。

 タミとケリが同時に同じ店を指差した。


 ということでタミとケリが選んだお店にみんなで行って色々と頼んでみて食事を楽しんだ。

 その後は少し町中を見て周り、日が暮れてきたので宿に戻ってゆっくりと休んで体力を回復させた。


 ーーーーー


「早かったですね」


「そうだな。ま、ありがたいけど」


 クレモンドの方で商談相手である貴族に連絡を取り、次の午後という返事がすぐさま帰ってきた。

 どうやら相手の方も待ちわびてくれていたようである。


 想像していたよりも早いなとは思うが早くて悪いことなどない。

 モロデラの方は午前中だけで話が終わるかも分からないので後回しにして商談を先に済ませることにした。


「どう? もうだいぶ慣れた?」


「まだ……慣れないですね。一生慣れないかもしれません」


 ジョーリオが引く馬車に揺られながら少し顔色の悪いメリッサに視線を向ける。

 ここまでフィオス商会の商談を引っ張ってくれていたメリッサであるが貴族との交渉は何回やっても慣れない。


 いつも緊張してしまう。

 財務の担当のはずなのにいつの間にか普通に商人みたいになっている。


「慣れなくてもいいと思うぞ」


 ジケは笑顔を浮かべる。

 慣れてくれるならもちろんいいけど慣れなくても常に緊張感を持ってやってくれるということだからいいだろうと思う。


 変にこなれて調子乗って失敗する人もいる。

 その点でメリッサはそんな心配がないからいい。


「それに失敗してもいいんだよ。多少失敗したところでフィオス商会は潰れないからな」


 もう結構稼いでる。

 多少の失敗ぐらいなんともないし、失敗を恐れていたら力を発揮できない。


「会長……ありがとうございます」


「失敗したら俺のせいでいいんだよ」


「そうはいかないですよ!」


「俺がメリッサを信頼して任せてるんだからな。メリッサが失敗しても俺が責任取るから」


「……そんなことさせないように頑張ります」


 過去では一つのミスでも叱責して全ての責任を負わせるひどい商会長もいた。

 ジケはそんなことしたくはない。

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