アラクネノネドコいかがですか?
問題も解決したので再びイバラツカに向かい始めた。
ニャボルトはトラという存在がいたから人里近くまでやってきていたけれど、基本的に魔物は人が多くいる場所には現れない。
道を通っていれば魔物に遭遇することも多くはないのである。
特に荷車を引かせているのはジョーリオやケフベラスといった強めの魔物なので弱い魔物は寄ってこない。
なので魔物と遭遇することもなくイバラツカの町まで到着した。
イバラツカは南の国からの交易の中心でもあるが、同時に南の国からの侵攻があった時に防衛の前線ともなる場所なので高い壁に囲まれている。
だから一応イバラツカに入るのにもチェックを受ける。
ジケはフィオス商会として商人ギルドが保証してくれる身分がある。
目的は商売。
怪しさもない真っ当な商会なので他のみんなの分もフィオス商会で身分を保証する形で通してもらった。
こうした時にちゃんとした身分を保証してもらえているのはありがたい話である。
別に身分保証がない人だって普通にいるので怪しくない限り通してもらえる
身分保証が有ればスムーズという話なのだ。
「それじゃあまず宿だな」
人の往来が多い町である。
日が暮れてから慌てて宿を探しても良いところは押さえられている可能性がある。
着いたら早めに宿を押さえておく。
これが賢い旅人のやり方というものだ。
「失礼、フィオス商会の方々ですか?」
「あ、はい」
こうした大きな町には案内なんかで小金を稼ぐ人がいる。
そうした人に良い宿でも聞いてみようかと周りを見ていると声をかけられた。
「私シャデルーンのクレモンドと申します」
「シャデルーンって……」
「はい、フェッツ会長のご指示で今回の件を手助けさせていただきます」
シャデルーンとはフェッツが会長を務めている商会の名前であった。
今はほとんど息子に譲っていて、フェッツそのものは商人ギルドのギルド長の方に注力している。
それでもまだフェッツの商会であることに変わりはない。
今回のお仕事はフェッツからの紹介である。
そのためにジケの方に不便がないようにと配慮してくれていたのである。
ジケの到着だって確実なものではなくていつ来るかも分からない。
なのにこうして待っていたということを考えるとずっと待機していたのかもしれない。
頭の下がることである。
「先に宿を探そうと思っているのですが」
「それでしたらご心配無用です。宿も押さえてありますので」
「本当ですか?」
「ええ、ご案内いたします」
ひとまずシャデルーンについていく。
「こちらのお宿の部屋をお使いください」
「ここって……」
「ええ、我々の方で経営している宿になります」
案内されたのはシャデルーンで経営している宿だった。
フェッツはかなり手広く商売を展開していて大きな都市にはこうした宿も経営していたりする。
「いいんですか?」
「ええ、もちろんです」
ジケがこう聞くのにはワケがある。
フェッツが経営しているのはただの宿ではなく、普通の宿よりグレードの高い高級宿なのである。
ジケはこんな高い宿に泊まるつもりはなかった。
安宿ではないが高くもないセキュリティはちゃんとしていそうな宿を探す気だった。
「お代は結構です。お好きなだけ泊まってください」
「持つべきものは良い商人の知り合いを持つ弟子だな」
グルゼイは馬車から飛び降りるとさっさと宿の中に入っていく。
「馬車は裏手に置けますので」
「まあ……お世話になろうか」
きっとジケたちのために部屋も空けてくれていたはず。
少し過分なもてなしのようには思えるけれどここまでしてもらって断るというのもまた失礼である。
一度馬車を建物裏のスペースに置いて荷物を部屋に運び込む。
「お布団ふかふか!」
「気持ちいい〜」
さすがの高級宿なので布団の質も高い。
実は宿のマットレスもアラクネノネドコを使っているのだが布団そのものもアラクネノネドコに負けないぐらい質の良いものである。
ジケたち男性陣とエニたち女性陣で分かれて一部屋ずつ使う。
それぞれの部屋もかなり広くて、宿の中でも良い部屋を使わせてもらっているみたいであった。
「思わずして良い宿に泊まることができたな」
「そうですね、師匠」
最初はボロテントの前で座っていたグルゼイであるが良い寝具は好きである。
いつもと同じ仏頂面にも見えるが、ジケにはちゃんと機嫌が良さそうなのが分かっていた。
「お気に召していただけましたか?」
「ええ、ありがとうございます」
「今日はどうなさいますか?」
「そうですね……今日はこのまま休んでしまおうと思います。相手の方と約束取り付けたいのですがお任せってできますか?」
町に着いたからすぐさまお仕事とはいかない。
フェッツから仲介された相手も貴族であるのでいきなり訪ねていくわけにもいかない。
予定というものがある。
「分かりました。こちらの方でスケジュール調整いたします。ジケ様の方はいつでもよろしいですね?」
「大丈夫です」
フェッツが仲介するということはフェッツの方で交流なり取引がある相手になる。
ジケが訪ねていくよりクレモンドを挟んだ方が円滑にいくだろう。
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