そんなところも君らしい

「助かりました。まさか魔物を全て倒してくださるとは」


 村に戻ったジケは依頼主でもある男の子に報告に行った。

 もちろん子供なのでちゃんと保護者である男の子の父親もその場にはいる。


 ニャボルトもトラも倒した。

 話に聞いていたよりも大変な依頼となってしまったが、想定外の出来事が起こるのはありがちな話である。


 ジケたちの方に大きな被害もなかったのだしわざわざそのことを押し付けがましく伝えることはない。


「しばらく魔物が出ることはないと思いますが気をつけてくださいね」


「本当になんとお礼を言ったらいいか……」


 どうしてジケたちが魔物討伐に行ってくれたのか。

 それを父親は男の子から聞いていた。


 受ける必要もない話なのに快諾してくれたジケたちに頭が上がらない。

 本来なら謝礼を支払うべきであるのだが村で集めたお金はすでに冒険者ギルドに預けられて依頼料となっている。


「村長に伝えて依頼を遂行してくれたことを証明する書類を書いてもらいましょう」


 だから今すぐ払えるお金はない。

 多少の手間にはなるけれど村の方でジケたちが依頼をこなしたのだと証明して依頼料を受け取ってもらうほかにお礼をする方法はない。


「……いえ、そのお金は受け取れません」


「どうしてですか?」


「足りないとおっしゃられるのなら……」


「そうではありません」


「では……?」


 ジケは元より村からの依頼料を受け取るつもりはなかった。

 おそらくこの村全体からかき集めただろう依頼料。


 村での生活は貧民街にも近いようなものがある。

 まだ村の方がマシではあるが、何か少しでも問題が起こればあっという間に生活が苦しくなるのだ。


 決して余裕のあるところからお金を出したのではなく、苦しい中で色々と生活を削って捻出したものなのである。


「依頼主はこの子です」


「ぼ、僕?」


 ジケは男の子のことを見た。

 今も依頼主である男の子に報告に来ているのだ。


「でも僕……お金なんて」


「最初に出してくれたのがあったろ?」


「う、うん」


 男の子は慌てたように自分の部屋に走っていくとすぐに戻ってきた。

 グッとジケに向かって差し出した手にはいくらかのお金と綺麗な石。


「じゃあ……依頼料として、貰っていくね」


「あっ、でもそれ……」


 ジケが男の子の手から取ったのはお金でもなく石だった。

 青い綺麗な石。


 丸くてちょっとフィオスみたい。


「これで依頼の取り引きは終わった」


「……いいの?」


「依頼を受けた俺がいいってんだ。いいに決まってるだろ」


 男の子の目が驚きに見開かれる。


「お父さん、大事にしろよ?」


「うん!」


 カッコいい。

 そう男の子は思って、感動と憧れに頬を赤らめて大きく頷いた。


「依頼は取り下げにしてお金は村で使ってください」


「そんな……」


「いいんです。依頼料は受け取りましたから」


「…………ありがとうございます!」


 これ以上食い下がってはジケに恥をかかせてしまう。

 男の子の父親は言葉を飲み込んで深々とジケに頭を下げた。


「かぁー! やることがカッコいいねぇ!」


「う、うるさい!」


 男の子の家を出てリアーネが我慢できずに笑う。


「そー照れるなよー」


 リアーネは満面の笑みを浮かべジケの頭をわしゃわしゃと撫で回す。


「ほんと、カッコつけて」


「カッコよかったろ?」


 エニにもいじられて珍しくジケの耳が赤くなっている。

 我ながらキザなことをしたものだと思う。


 せめて男の子からはお金ぐらい受け取ればよかったと今更ながら思うけど、またもう一度同じ状況になっても同じ決断をするだろう。


「ま、ジケらしいけどさ」


 あそこでちゃんとお金を受け取っても別に何とも思わない。

 けれどあそこでお金を受け取らないという選択をするのがジケらしいなとエニは思った。


「それどうするの?」


「……フィオス、いるか?」


 ジケは抱えているフィオスに石をあげた。

 ピンクダイヤモンドを体の中でコロコロさせるのもフィオスは好きだった。


 宝石と比べ物にはならないけど確かに男の子の宝物であった石である。

 フィオスは石を体の中に飲み込むとゆっくりと回転させる。


 フィオスの気分的には案外気に入っているみたいだ。


「まああんなこと中々できるもんじゃない」


 たとえお金に余裕のある人だって村の事情を汲み取ってお金を受け取らないなんてことはしない。

 ジケの度量の大きさは常人にはないものである。


「カッコよかったぞ」


「カッコよかったわよ」


「う……や、やめてくれよ!」


 2人にからかわれてジケは顔を赤くした。

 こんなことなら1人でこっそり報告に行けばよかった。


「くくく」


「ふふふ」


「もう、2人して……」


 リアーネとエニは顔を見合わせて笑う。

 ジケはそんな2人にため息しか出ないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る