呪いの宝石3

「もう一つの方もそろそろ終わると思います」


「何もかもありがとうございます」


「いやいや、馬車事業の出資でこちらも稼がせてもらいました。ジケ会長の頼みとあらばこちらも断れませんよ」


 フィオス商会を始めるにあたってウェルデンにはお金も出してもらったし職人も紹介してもらった。

 今は儲かった分からしっかりと出資額以上お返ししたし今もヘギウス商会経由で馬車の依頼が来ることがあった。


 ウェルデンも今回の出資は大成功だと思っていた。

 お金もそうだがフィオス商会、あるいはジケと繋がりを持てたことは大きかった。


「それでは私はお先に。声をかける先をリストアップします。……あとは妻にも説明しなければ」


「ついでにヒルキンスに調査が終わったか尋ねてほしい」


「分かりました」


 バーヘンがピンクダイヤモンドを布で包んで大切そうに抱えて部屋を出ていった。


「リンデランとは……どうですか?」


「リンデランですか? 仲良くさせていただいていますよ」


 手持ち無沙汰になってウェルデンが話題を振った。

 ウェルデンはパージヴェルの弟になる。


 つまりリンデランとの関係で考えると大叔父という関係性になる。

 割と若く見えるウェルデンではあるがそれでも年齢的にはそれなりにいっているのだ。


「あの子は……大変な子だ。あの子の両親が死んで、しばらくあの子は塞ぎ込んでいた。それが最近楽しそうだ……笑顔が増えて、日々を活力的に生きている」


 ウェルデンはテーブルを見つめているようでどこか遠くを見ていた。


「ジケさん、君と出会ってからリンデランは明るくなった」


 穏やかに笑うとウェルデンの目尻にもシワが寄る。


「ぜひともあの子と仲良くしてやってほしい」


「……もちろんですよ」


 リンデランは愛されているのだなとジケは思う。

 ウェルデンにも息子がいるけれどリンデランのことも娘のように考えてくれているのがよく分かる。


「失礼いたします。ヒルキンスです」


「ああ、入ってくれ」


 ややしっとりとした空気が流れている部屋に控えめにノックが聞こえてきた。

 部屋の中に頭の禿げ上がった中年の男性が入ってくる。


 その手にはジケがパルンサンの宝物庫から持ち帰ってきた盃があった。

 こちらのものも価値が分からない。


 謎の液体のことも分からないし盃そのものもなんなのか謎である。

 魔力のようなものを感じるので魔道具ではないかと予想を立ててヘギウス商会にある魔道具部門に調べてもらったのである。


 ジケの体調はあの時以来かなり良くなっていた。

 さらには魔力を体の中で動かすのが非常にスムーズになって盃が一体なんなのかとても気になっていた。


 ヒルキンスは魔法使いであり、魔道具の専門家であった。


「結論から言いまして……こちらが何かは分かりません」


「……そうですか」


「確かに魔力を感じるので魔道具である可能性は高いでしょう」


 ヒルキンスは盃をジケの前に置いた。

 長いこと地下にあったのに盃はピカピカである。


「しかし魔力を込めてみたりしましたがなんの反応もありません。不思議な液体で満たさられていたということで水を注いでみましたが、変化もありませんでした」


 ジケがピンクダイヤモンドの話を聞いている間にヒルキンスは盃について調べてくれていたのである。


「さすが傷つけるような行いで調べることはできませんので限界はありますが、今のところこちらの品をどう発動させて、どのような効果を持つのか私どもでも分かりません」


 調べてはもらったものの盃がどんな効果を持つ魔道具なのかは特定できなかった。

 ジケが飲んだ液体も残っていないので調べようもない。


 魔道具らしいことだけは確かなのだけれど使用方法も分からない。


「刻印や特徴的なマークなどもなく、いつ誰が作ったものかも分かりません。他のところに持ち込んでも使い方が分からない以上綺麗な盃という以上の値段はつかないと思います」


「ふーむ……」


 パルンサンが盗み出したものであり、部屋の中央に安置してあった。

 このことから考えると絶対に貴重なものなはずなのだけどその価値を知る人が誰もいない。


 魔道具というのは複雑なもので使い方を知る人がいないとただの置き物と化してしまうことも珍しくはない。


「もしかしたら特殊な液体を入れておいたり、水を入れたまま長時間放置するなど別の方法で使うのかもしれません。何か使い方などを残したものはなかったのですか?」


「いや……」


 情報を残そうとしていたと思われる石板は壊れてしまっていた。

 石板に書いてあったのかは定かではないが、何かの情報があったことは間違いと思っている。


「あっ」


「何かありましたか?」


「もしかしたら、っていうものは」


 そういえばパルンサンが遺した泥棒日記があったなとジケは思い出した。

 もしかしたらそこにこの盃を盗み出した時のことが書かれているかもしれないと思ったのだ。


「何か分かりましたらお教え願いたいです」


「……そうですね。何か分かったら連絡します」


 結局盃はなんなのか謎のままだった。

 ひとまずジケが手元に残しておくことにしてジケは家に帰った。


 以前のソコの件で盗掘団のお宝がいくつか手元にある。

 それも大切に保管してあるので盃も一緒にそこに入れておこうとジケは思ったのであった。

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