呪いの宝石1
魔剣の持ち主は決まった。
レーヴィンのような銘がない剣らしいので名前を付けてやってくれというとライナスは頭を悩ませていた。
魔獣の名前は不思議なもので出会った瞬間に名前が思いつくのだ。
事前にある程度考えているような人も多いのだけど全く考えていない人でも契約時にパッと浮かぶのである。
だから魔獣の名前がパッと浮かぶといっても他のものの名前がパッと思い浮かぶとは限らないのである。
レーヴィンに負けない名前を! と言っていたけど中々考え付かなくて大変なようだ。
黄色くてライナスみたいなんてジケが言ってしまったものだから余計に半端な名前をつけられなくなった。
とりあえず剣はライナスにあげた。
使いもしないのに手元に残しておくのが怖いものの一つがちゃんとしたところに渡った。
残るはピンクの宝石である。
貧民街の粗末な家に大きな宝石を置いておくのはちょっと不安である。
ジケの家に泥棒に入るような人がいるとは思えないが、最近それなりに安定した生活も送っているので狙われないとも言い切れない。
価値がどれぐらいあるのか分からないし一度見てもらう必要があると思った。
価値があるなら売っちゃうことだって別に構いやしない。
ただこうしたものを持ち込むのは難しい。
そこらへんの宝石店に持ち込もうものならおそらく買い叩かれる結果になる。
信頼もできないところで見てもらうのはジケにとってもリスクがある。
イスコも宝石は専門ではない。
そこでジケは信頼できる商人を頼ることにした。
ヘギウス商会のウェルデンである。
後援のフェッツも考えたのだけどフェッツも宝飾品の扱いはない。
対してヘギウス商会には宝飾品を扱う部門があった。
なので事前に連絡して内密に宝石を見てほしいことを伝えた。
ジケが内密になんて珍しいことを言うものだからウェルデンも期待をしてジケの要請に応じてくれた。
ヘギウス商会の建物で会うことになって、宝飾品を担当する目利きのベテランのバーヘンも連れてきてくれた。
ジケは宝石が傷つかないように布で包んで持ってきた。
宝石を布から取り出した瞬間ウェルデンとバーヘンが息を呑んだ。
静かな部屋にはバーヘンが生唾を飲み込む音まで響いた。
「こ、こちら……触れてもよろしいですか?」
「ええ、大丈夫です」
バーヘンの目つきが変わった。
懐から白い手袋を身につけると宝石を鑑定するためのルーペを取り出した。
やや震える手で宝石を手に取ると目にルーペを当てて宝石を鑑定する。
その様子をウェルデンも固い表情で見守っている。
「……失礼ですが、これはどちらで手に入れられたものですか?」
バーヘンはゆっくりと宝石を布の上に置くと息を吐き出した。
「絶対に秘密にしてくれますか?」
「もちろんお客様の秘密は守ります」
「実は……」
この宝石がパルンサンの宝物庫で見つけられたものであることをジケはサラっと説明した。
秘密にしてくれることは疑っていないが万が一もあるので経緯や場所など特定されてしまいそうなことは省いた。
「あの伝説の大泥棒の……」
「だとしたら納得もできますね」
長年宝飾品を扱ってきたバーヘンでも初めてみるようなサイズの宝石。
偽物の可能性もあると思っていたけれどバーヘンの鑑定眼は宝石が本物であると言っていた。
「サヘルローズ夫人のピンクダイヤモンドという話を知っていますか?」
「……知らないです」
バーヘンが重たく口にした話をジケは知らなかった。
さまざまな話を聞いてきたけれど初めて聞く、あるいは聞いたことがあるのかもしれないけど記憶にはなかった。
「我々宝飾品を扱う人の中では有名な話です。かつて貧民の女神と言われた女性がいました。それがサヘルローズという人で宝石の商売で大きな富を得ました」
質が良く綺麗な宝石を扱うサヘルローズの元には多くの宝石が集まり、手に入らない宝石はないとまで言われていた。
サヘルローズは取引で得たお金のいくらかを使って貧民救済活動をしていたので貧民の女神と呼ばれていたのである。
「しかし彼女が行っていた行為は善意によるものではなかったのです」
「どういうことですか?」
「彼女の魔獣はとんでもない能力の持ち主でした。それは人を宝石に変えてしまうというものだったのです」
「まさか……」
「そうです。サヘルローズは貧民を宝石に変えて売り飛ばしていたのです」
人を宝石に変える力で得た宝石を売って、そのお金で貧民たちの信頼を得て貧民たちを宝石に変えてさらに売り飛ばす。
仕事が見つかったとか言っておけば貧民がいなくなっても気にする人は少ない。
そうやってサヘルローズは巨万の富を得たのである。
「最終的には悪行がバレてサヘルローズは処刑されてしまいますがどれほどの人が宝石に変えられて、どの宝石が人だったのかは誰にもわかりません。ですが今ではサヘルローズが所有していたものでサイズが大きく綺麗なものはサヘルカースジュエリーとして高値で取引されています」
サヘルローズの悪行を暴いたのはパルンサンであると本人の遺した経緯には書いてあった。
貧民の子供を食い物にしていたと書いてあったが、食い物どころか宝石にしていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます