宝物庫から抜け出そう1
「それやめてくれよ」
「だってさぁ……」
リアーネの激しい貧乏ゆすりにライナスが顔をしかめる。
気持ちは分かるけれど視界の端で揺られていると気になって仕方がない。
ジケとニノサンが向こう側に行ってしまってからそれなりに時間が経っていた。
マザーケントウシソウが暴れなくなったので扉の向こうに行ったと思うのだけど、そこから音沙汰がなくてリアーネは心配しているのだ。
何をしているのか、無事を確かめる手段もない。
「ジケなら大丈夫だって」
リアーネは心配する一方でライナスはどっしりと構えていた。
ジケなら何があっても大丈夫。
きっと無事であると信じている。
どちらもちゃんとジケを思っているが故の方向の違う態度。
ユディットはその中間。
心配な側面もあるがジケなら危険なことも乗り越えて無事なはずだと思うからリアーネほど態度に出さないが、ユディットも時間が経つほど心配にはなってきている。
「まああのいけすかないヤツはどうでもいいんだけどさ」
いけすかないヤツというのはニノサンのことである。
あたかもジケの右腕みたいな顔をしていつもポーカーフェイスにジケのそばにいる。
「ライナスさんもいけすかないと思いますか」
「そりゃあな、なってたって顔良いしな」
気に入らない大きな理由はやっぱり顔である。
黙っていると余計に綺麗な顔をしているものだからライナスは気に入らない。
ユディットも自分の方が騎士としては先輩なのにニノサンの方が腕が立つ護衛みたいな顔をしているからライバル視している。
顔が良いのもやっぱり男しての嫉妬がある。
「はん……これだから男は」
「んだよーリアーネだって顔が良い方がいいだろ?」
「あっ? 私は別に顔はそんなに興味ねぇよ」
「じゃあどんなのが好きなんだよ?」
「やっぱ……頑張ってる男かな。自分のため、みんなのために努力を惜しまないような奴。あとは私のこと素敵だって言ってくれる奴かな」
「誰を思い浮かべているか丸わかりですね」
「るせぇ!」
リアーネが顔を赤くする。
頑張ってて、リアーネのことをよく褒めている男をユディットは一人知っている。
指摘されて顔を赤くするということはその通りなんだろうと思った。
「おっ、なんか来たぞ」
「んだありゃ?」
「フィオスなんでしょうけど……なんでしょうね?」
マザーケントウシソウをぼんやりと眺めていたライナスが視界の端で何かが動くのに気づいた。
貧乏ゆすりしているリアーネではなく、マザーケントウシソウの向こうから何かがライナスたちの方に向かってきている。
透き通るような青いボディのそれは一目見ればフィオスであることは分かる。
ただしその様子がちょっとおかしいのである。
「何か刺さってね?」
「体の中にも何かありますね」
遠目で分かりにくいがフィオスの体に横に長い何かが突き刺さっている。
さらには体の中にも何かがあるように見えた。
「フィオス、何があったんだ?」
マザーケントウシソウに狙われることもなくフィオスはぴょんぴょんとライナスたちの方に跳ねてくる。
近づいてみるとフィオスに刺さっているのが剣だということが分かった。
鞘ごと飲み込むように剣を持ってきたらしいがこんなものどこから持ってきたのだとみんなは顔を見合わせた。
ジケやニノサンの剣とは違っている。
「あとは……なんだそりゃ、宝石か?」
そしてさらにはフィオスの体の中には大きな宝石まで見えた。
ライナスたちがそれをどうしたらいいのかわからないでいるとフィオスが剣と宝石をぺっと吐き出した。
「お、おい、フィオス?」
そしてまたフィオスはマザーケントウシソウの向こう側に戻っていく。
「これどうしたらいいんだよ?」
フィオスがいきなり持ってきた剣と宝石。
剣はともかく宝石がすごく高そうなことは流石のライナスにも分かる。
とりあえず剣と宝石には触れないようにして待っているとフィオスがまた戻ってきた。
「おっ、今度は別のもん体ん中にあるな」
今度は盃だった。
宝石の横に盃を吐き出すと再びフィオスが戻っていく。
「……とりあえずジケは無事そうだな」
向こうで何かを見つけた。
ただそれを持ってマザーケントウシソウの攻撃をかわして戻ってくるのは大変だから攻撃されないフィオスを利用してものを送ってきているのだと気づいた。
今度はフィオスがなん往復もして手帳のようなものを何冊か持ってきた。
いつまでかかるんだろうと思っていたら突如としてマザーケントウシソウが動き出す。
何事かと思っていたら扉の方にコブを振り下ろしている。
「ジケ!」
マザーケントウシソウの後ろからジケとニノサンが飛び出してきた。
それぞれ三つずつ向けられたコブを巧みにかわしながらライナスたちの方に戻ってくる。
「ほっ!」
「はっ!」
タイミングを合わせてジケとニノサン同時にマザーケントウシソウの攻撃範囲から脱出する。
「はぁ〜! 疲れた!」
「こう回避だけしているのも大変ですね」
「ジケ、大丈夫か!」
「うにゅ! リアーネ、大丈夫だよ」
心配していたリアーネがジケの頬を手でムニッと挟んだ。
頭をぐりぐりと回して怪我の有無を確かめるけれどジケはもちろん怪我をしていなかった。
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