お宝チェック2

 この宝箱にも盗んだ経緯が書かれた紙が入っていた。

 黄色の魔剣は元々人斬りが持っていたものらしい。


 当時かなり有名だった戦士で道行く人に手合わせを無理やり挑んでは切り倒して去っていくというタチの悪いことを繰り返していた。

 パルンサンは人斬りが油断した隙を狙って剣を盗み出した。


 人斬りはそのあと仲間の仇討ちに来た連中にやられてしまった。

 使う人に罪はあっても剣に罪はないからよければ使ってくれと書いてあった。


「まあこれは宝石より分かりやすいな」


 ジケは剣を納めると台座の上に剣を置いた。

 宝箱はあと2つ。


「罠はなさそうだし俺も開けるよ」


 ニノサンは騎士であって召使いではない。

 宝箱を開けさせて中身を一々渡してもらうのと二度手間である。


 宝箱に罠はなさそうなのでジケがそのまま開けてしまうことにした。


「次の中身はなんだろな?」


「箱ですね」


「箱だな」


 宝箱の中には小さな箱が入っていた。

 手に取ってサクッと開けてみる。


「指輪……」


 中に入っていたのは指輪だった。

 宝石などが嵌め込まれていない遊びの少ない無骨な指輪であるが、よくみると何かの文字のようなものが刻み込まれている。


 それに魔力感知で見てみるとうっすらと魔力を感じる。


「魔道具だな」


 魔力を感じるということ、それにこんなところにあるということは魔道具なのだろうとジケは予想した。

 これにもまた経緯が書かれた紙がある。


 昔存在していた大きな犯罪組織のボスが身につけていたもので、周りの魔力を指輪が自分で吸収して溜め込み、1日につき一度だけ強力な防御魔法を展開することができる魔道具であった。

 たった一度でもほとんどの攻撃を防ぐことができるという能力は優秀で犯罪組織のボスはどんな時でもこの指輪を外すことはなかった。


 パルンサンは犯罪組織のボスに油を頭からかけてどうしても指輪を外さねば洗えない状況にして盗み出したそうな。

 指輪を失ったからだろうか、犯罪組織のボスは敵対組織に襲われて倒されてしまったなんて結末も書かれていた。


「これも良いもんだな」


 ジケは自分で使おうかなと思って指輪を人差し指に通してみたけれどまだちょっと大きかった。

 親指でどうにかというところだけど親指につけると当たるような違和感があって好きじゃなかった。


 紐でも通して首から下げるか、誰かに持たせようかなと思ってとりあえずポケットに入れておく。


「んじゃ最後!」


 ジケが最後の宝箱を開ける。


「…………なにこれ?」


「手帳ですかね?」


 最後の宝箱の中には10冊ほどの手帳のようなものが入っていた。

 これがなんなのか分からなくて先に経緯が書かれた紙を見ることにした。


「これは俺が歩んできた軌跡を記録したものだ。よかったらこれを使って本でも出してほしい。きっと売れるだろうから。俺は物を盗む悪人だったけれど常に信義に従って動いていた。志を持った悪人だったことを知らしめてほしい」


「歩んできた軌跡ですか……日記帳みたいなものですね」


 ニノサンが手帳を取ってパラパラとめくってみるとそれはパルンサンが残した盗みの記録であった。

 どんな相手からどんな物をどんな風に盗んだのかということが詳細に書いてある。


「あー……」


 ジケは思い出した。

 過去でもどこかでパルンサンを主人公にした盗みの物語の本が出ていた。


 かなりヒットしてパルンサンは正義の泥棒なんて呼ばれることになっていたのである。

 もしこの記録を元に本が作られたのだとするとここは過去においても見つけられた場所だったのかもしれない。


 しかし宝石や魔剣などの情報は出てきた記憶もないしパルンサンの宝物庫の噂も聞いたことがない。

 何かの理由でこっそりと誰かに見つかったのかもしれないとジケは思った。


「……割と面白いですね」


 内容は比較的淡々と描かれているが盗みのターゲットにした理由やその調査、盗み出した物や最後にターゲットがどうなったのかまで書いてある。

 ニノサンは盗みの記録ではあるが読んでいるだけでも面白いものだと思った。


「まあ……結局出口じゃなかったな」


 面白いものは見つかったけれど一番望んでいた出口は見つからなかった。


「だけどここが一番奥ってことは……」


 けれど希望はある。

 この場所が宝物庫の最奥だとすると今度は逆に辿っていけば入り口となる場所があるのではないかと推測できた。


 結構長いこと時間を取られてしまった。

 みんなも心配していることだろうしそろそろここを出るべきだなとジケはチラリと扉に開けられた穴に視線を向けた。

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