お宝チェック1

「それでは開けますよ!」


 宝箱にも罠がある可能性はある。

 開けると中から矢が飛び出してきたり、毒が噴出されたりなんてこともある。


 ということでニノサンがリスクを負って開けてくれることになった。

 正面から体をズラし、そっと手を伸ばして宝箱に触れる。

 

 ゆっくりと力を入れて少しずつ宝箱を開けていく。


「…………大丈夫そうですね」


 ある程度開けてみても何も罠のようなものがないのでニノサンは一気に宝箱を開けた。


「罠はないな」


 ニノサンは身構えていたけれど幸い何もなかった。

 石板にもお宝はあげると書いていたのでここで罠があったら性格が悪すぎる。


「でっか……」


 宝箱の中にあったのは一つの宝石であった。

 ただそれも普通の宝石ではない。


 薄いピンクの輝くような宝石であるのだが、そのサイズがとんでもない。

 ジケの手のひらほどの大きさがあって、持ち上げてみるとずっしりとした重さが手にかかる。


 宝石の価値なんかに疎いジケとニノサンでも価値が高いことが一目で分かる。

 まともに買い取ってくれるところを見つければ一生遊んで暮らしていけるのではないかと思える。


「さすが……大泥棒だな」


 ジケもニノサンも言葉を失った。

 大泥棒が盗み出したお宝だから相当高価なものだろうことは予想できていたけれど予想を遥かに上回ってきた。


「これは……なんですか?」


 宝石を取った後、宝箱の底に紙が落ちていることにニノサンが気がついた。


「どれどれ? えーと……これは子供を食い物にした悪辣なクソババアが命よりも大切にしていた宝石を盗み出したものである。つまりこの紙は誰から盗んだかの記録ってことかな?」


 古くなった紙をジケが慎重に拾い上げて書いてある内容を読み上げる。

 どうやらこの紙はこの宝石を盗んだ経緯について書かれているようであった。


 ジケが手に持っている宝石はナルサと名前が付けられているようなもので、とある大富豪の女性が所有していた宝石だった。

 しかしその女性が富を得たのは貧しい子供たちを履いて捨てるように利用してきたからだったのだ。


 そこでパルンサンは女性が何よりも大切にしていた宝石を盗み出した。

 ついでに悪事の証拠も盗み出して通報までしたなんてことを軽快な文章で書いてあった。


「……悪い人だけど、悪い人じゃなさそうですね」


 単なる悪人が後世に伝えられるお話にはなかなかならない。

 パルンサンの話が残っている理由の一つとして義賊的な働きをしたこともあったから英雄視されていることもあるのだ。


 古い人の話なので他の話と合わさっているようなこともあるのだけど、パルンサンは実際に人を助けるような動きもしていたみたいである。

 その女性は宝石を盗まれたことで相当怒り狂ったが、悪事の証拠をバラされて逮捕されてパルンサンを追いかけることすらできなかった。


 結局女性は最後までナルサはどこだと叫びながら処刑されたらしい。

 紙には他の宝飾品も盗んだけれどそちらの方は売って子供たちの救済に充てたらしい。


 ピンクの宝石はあまりにも目立つのでこっそり売ることもできなかったようである。

 今ならそのことを知る人もいないのでいいだろうけど当時は処分できなくて保管していたようだ。


「なかなかの経緯ですね」


「ああ、なかなか面白いな」

 

 ただそんな高価なものを手に持っているのも怖くなった。

 ちょうどフィオスのクリーニングも終わったようで服を持ってきてくれたので、服を受け取る代わりに宝石をフィオスの上に乗せると沈み込むようにフィオスの中に飲み込まれた。


「綺麗だな」


「なかなか富豪の遊びしますね……」


 フィオスの中で宝石がクルクルと回ってキラキラと輝いている。

 フィオスのそのものの美しさもマッチしていて意外と悪くないなとジケは思っているけれど、ニノサンは貴重な宝石をフィオスに飲み込ませていいのかとヒヤヒヤしている。


 仮にフィオスが食べてしまったとしてもそれはそれで構わない。

 驚くだろうけど無くなったところで得しなかっただけでジケが損したわけではないのだから。


 一応服のニオイを確認する。


「どう?」


「大丈夫そうですね」


 やはりフィオスはすごいなとニノサンも思った。

 あれだけ強力なニオイがしていたのにフィオスの体を通すと綺麗になってしまっている。


 完全に捨てるしかないと思ったのにフィオスのおかげでまた着れるようになったのである。

 ジケは服を着て次の宝箱に向かう。


「剣ですかね?」


 次の宝箱も慎重に開けてみたけれど罠はなかった。

 中に入っていたのは一本の剣であった。


 ニノサンが剣を取ってジケに差し出す。

 受け取ったジケは鞘から軽く剣を抜く。


「魔剣だ」


 抜いた刃が明るい黄色の光を放っている。

 自らが魔力をまとう魔剣であった。


 ジケは自分の剣であるレーヴィンを抜いて黄色の魔剣に近づける。

 澄んだ鈴のような高い音が響いて剣同士が反発し合う。


 紛い物ではない本物の魔剣同士による反応だった。

 魔剣は魔力を放っている特性上魔剣同士でわずかに反発し合うのである。


 手にかかる反発具合から見るとレーヴィンの方が魔力は強いようだけど黄色の魔剣も強い力を秘めているようだ。

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