希代の盗賊が遺したもの12
どうしても無理なら倒すという最後の選択肢を選んでもいいのだ。
とりあえず一応誰が狙われるのかをチェックする。
攻撃範囲ギリギリの位置を見極めてみんな横並びで立つ。
「いくぞ。特にライナス気をつけろよ!」
「もちろん、こんなとこでやられる男じゃないからな」
「3……2……1!」
ジケのカウントダウンで一斉に攻撃範囲に入る。
「だぁー! やっぱりかよ!」
6つのコブが狙ったのはライナスだった。
予想通りの攻撃にライナスはすぐに後ろに下がって攻撃範囲から外れる。
「これまでと同じだな」
狙われた順は今までのケントウシソウと同じだった。
ライナス、ユディット、リアーネ、そしてジケとニノサンの順で狙われた。
ちなみに魔獣で言えばニノサンのイレニアも狙われない。
光の性質を持つ精霊なので植物的なケントウシソウとの親和性が高いのかもしれない。
「やっぱり……これが1番かな」
とりあえずマザーケントウシソウの向こう側に何があるのかを確かめる。
行き止まりなら戻るしかない。
出口があるならどうにか出る方法を考える。
何にしてもマザーケントウシソウの向こうの扉を確かめることを優先する。
そのために突入するのはジケとニノサン。
ジケとニノサンはケントウシソウにおける攻撃順位が同じでコブを分けて同時に狙ってくる。
ライナスたちが入ると1人に6つ全てのコブが襲いかかるけれどジケとニノサンだけなら6つのコブを2つに分けた3つずつが襲いかかってくる。
誰か1人をおとりにするよりもリスクは小さくてやりやすい。
「ま、お前ならいけるか」
リアーネとユディットの護衛コンビはジケが行くことに不満そうだがライナスはニカっと笑って親指を立てた。
何の心配もしていない。
ジケならきっとやり遂げるとライナスは信じている。
「ちょっと言ってくるよ」
ジケもそんなライナスに笑顔を返して走り出す。
2人が攻撃範囲に入ってマザーケントウシソウはコブを振り下ろした。
通常のケントウシソウよりもコブは大きいのに振り下ろす速度は速く、耳が切れてしまいそうな風切り音がしている。
当たれば無事で済まない威力があることは確実。
それにジケたちはやや足場が悪い。
地面には水が張っていて移動を邪魔してくる。
それにマザーケントウシソウに近づくと水が深くなるかもしれない。
だから直線的に駆け抜けることをやめて円形の部屋の縁に沿うように移動している。
「はぁ〜すっげえな」
ライナスが思わず声を漏らしてしまうほどジケとニノサンはコブを回避していた。
同じように完璧にかわすのでマザーケントウシソウからは同じように見られているが、外から見ていると2人のかわし方が違う。
ニノサンは直線。
その速度を活かしてコブを素早く回避していく。
対してジケは曲線。
特別速くもないが魔力感知と経験を活かして少ない動きでコブをかわしていく。
まるでコブの方からジケを避けているかのよう。
ただコブの方も回転効率が悪かった。
コブは拳のように一度引き戻してから放たれるのでどうしても攻撃にはタイムラグが生じる。
マザーケントウシソウは大きい分枝も長い。
部屋の端にいるジケとニノサンを攻撃するのにコブを放ち、引き戻して勢いをつけてまた殴るという工程を踏んでいる。
だからほんの少し回転が悪い。
コブそのもののスピードは速いので全体としては通常のケントウシソウよりは速くなっている。
「ほら、こっちだ!」
機転を効かせたリアーネがひょいと攻撃範囲に入った。
一瞬動きの止まったマザーケントウシソウはリアーネの方にコブを向けた。
「へへ、残念!」
けれどリアーネもすぐに攻撃範囲から下がる。
マザーケントウシソウのここら辺の判断はまだまだ知能が低いと言わざるを得ない。
攻撃順位にとらわれている。
「んじゃ俺も!」
今度はライナスが攻撃範囲に入ってマザーケントウシソウを挑発する。
やはりマザーケントウシソウはジケとニノサンよりもライナスを狙う。
「では僕も……あれ?」
次はユディットの番だと前に出たけれどコブはユディットの方に飛んでこなかった。
マザーケントウシソウも学んだのかユディットを無視してジケとニノサンを攻撃し続けている。
「な、何でですか?」
流石に無視されるのも少し嫌な気分。
「半分越えたからかもな」
いつの間にかジケとニノサンは部屋の半分ほどまで達していた。
もし仮にマザーケントウシソウが何かを守るようにあそこにいるのだとしたら焦りのようなものもあるのかもしれない。
進行速度はジケの方が速かった。
まっすぐに進めばニノサンの方が速いのだが、回避の無駄のなさはジケの方が上なのである。
直線的に大きくかわしていくニノサンよりもジケの方が確実に前に進んでいっていた。
「よし!」
扉に近づくにつれてマザーケントウシソウの攻撃も激しさを増していき、ニノサンとジケの進行速度の差が広がっていく。
ジケの方が先に扉まで辿り着いた。
「ちょ、容赦ないな!」
扉に手をかけようとしたけれどマザーケントウシソウの攻撃は続く。
軽く触った感じでは扉は簡単には開かなそうである。
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