希代の盗賊が遺したもの11
喉も潤ったので改めて冷静に巨大なケントウシソウに目を向ける。
上下に根を張り、コブを6つ持ち、地下に生えている異常な個体である。
「奥に扉がありますよ」
攻撃範囲ギリギリのところから巨大なケントウシソウの向こう側をなんとか覗き込むと大きな扉のようなものが見えた。
「扉? なんだか終わりっぽそうな感じがあるな」
わざわざ扉をつけるということはきっと終わりだろうと思った。
そうでなくとも入り口かもしれない。
「どうしますか、アレ……倒しますか?」
アレとはもちろん巨大なケントウシソウのことである。
進もうにも巨大なケントウシソウが立ちはだかっている。
部屋の形は円筒形になっている。
枝の長さを見ると円になった部屋のほとんどコブが届く。
避けて通れるような場所はない。
向こう側にある扉のところまで行こうとするならば巨大なケントウシソウの攻撃範囲に入らねばならない。
仮に倒さずに扉に向かうにしても倒すにしてもコブをかわすことに変わりはない。
それなら倒してしまった方が安全なのではないかとユディットは思う。
「……うーん」
「どうかなさいましたか?」
しかしジケはケントウシソウを倒すことにあまり乗り気ではない。
なぜだろうとユディットは首を傾げる。
「もしかしたらだけどさ」
「もしかしたら?」
「あのケントウシソウ……他のケントウシソウと繋がってるんじゃないかと思ってさ」
「他のケントウシソウと繋がってるですか?」
「うん。多分だけど……あのケントウシソウは他のケントウシソウの母、みたいな」
クトゥワが調べたところによると記録が残されている限りの昔にはケントウシソウはこの辺りにいなかった。
ある時急にケントウシソウが生え始めて、いつの間にか群生地となっていた。
ケントウシソウも魔物であってどこからかやってくるということもあるだろう。
けれど最初の個体というものはどこかにあるはずなのだ。
巨大なケントウシソウや他にも地下で生きているケントウシソウを考えた時にどこからか水以外のエネルギーを得ているのではと考えられた。
「つまり他のケントウシソウがあの巨大なケントウシソウから生まれた物だとお考えですか?」
「その通り」
最初の個体。
それが目の前の巨大なケントウシソウなのではないかとジケは考えていた。
天井に張られた根は地上まで伸びていって、地上に生えているケントウシソウに繋がっているのではないか。
そして地上のケントウシソウからエネルギーを得て生きているのかもしれないと推測したのである。
「それにそうだと仮定すると説明をつけられることもあるんだ」
ケントウシソウが繋がっているとしたらここまでの不思議な行動について説明ができそうなものがある。
それはケントウシソウが狙う相手の優先順位をつけているということ。
みんなで同時に攻めた時にケントウシソウはライナスを優先して狙う。
ライナスがかわすことが下手くそなのは確かであるがなぜかケントウシソウはその情報を共有するようにみんなライナスを狙うようになった。
地上のケントウシソウがそうしたというのなら分かる。
見ていないように見えるケントウシソウでもどこかで戦いの様子を見ているのだとすれば理由も説明できる。
しかしこの地下にいるケントウシソウもライナスを狙う。
地上での戦いも見ていないはずなのに回避下手くそ順でみんなのことを狙うのである。
なぜそんなことができるのか。
ケントウシソウが繋がっていてある程度情報を共有しているのだとすれば納得もできる。
「なるほど……」
ジケの説明を聞いてみんなも一定の理解を示す。
「言うなれば……マザーケントウシソウ?」
巨大なケントウシソウから分かれて他のケントウシソウがいるとしたら巨大なケントウシソウは他のケントウシソウにとって母親のような存在だと言える。
「なら逆に倒してしまった方がいいのではないですか?」
全てのケントウシソウの親分なら倒してしまった方が後々のためになるとニノサンは思った。
ライナスも同意するように頷いている。
「倒しちゃったら他のケントウシソウがどうなるかなって思ってさ」
「どういうことですか?」
「今この辺りにはたくさんのケントウシソウがいるけれどそれがマザーケントウシソウのおかげだと仮定した時にマザーケントウシソウを倒すとどんな影響があるか……」
これからジケはケントウシソウから水を取り出そうとしている。
安定的な供給のためにはケントウシソウにはこれからもここで増え続けてもらう必要もある。
マザーケントウシソウが中心となって増えているのだとした時にマザーケントウシソウを倒してしまった時にこの辺りのケントウシソウが増えなくなってしまう可能性がある。
そうなるとジケにとっては非常に困ったことになる。
だからマザーケントウシソウを倒してしまってもいいのかという不安があったのだ。
「確かに……そのような懸念はありますね」
そもそも倒せるのかという問題は置いておく。
「じゃあとりあえずあの扉のほうに行ってみりゃいいんじゃないか?」
「……そうだな」
こんな時ライナスの単純な思考はありがたい。
扉の向こうが出口ならなんとかしてみんなで向こう側に抜けて地下から脱出すればいい。
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