希代の盗賊が遺したもの7
「うわー! なんでだよ!」
突っ込んでいくとケントウシソウがコブを振った。
2体のケントウシソウがコブを向けたのはライナスだった。
コブが4つともライナスに襲いかかり、ライナスは必死にかわす。
「一度下がるぞ!」
思っていたよりも攻撃は激しくライナスが危ない。
ジケたちは一度後退して仕切り直す。
今度はユディットとリアーネがライナスよりも先に攻撃範囲に入る。
こうすればライナスではなく2人がターゲットにされると思った。
「えっ?」
ケントウシソウが引き絞った最初の一撃を放つ。
ユディットとリアーネはもちろんその一撃を警戒していたのだが2人にはコブは飛んでこなかった。
「なんてだよー!」
コブで攻撃した先はライナス。
先に飛び込んだ2人ではなく、なぜなのかライナスが狙われた。
「クソッ!」
油断していたわけではないが両方とも自分を狙うなどとライナスは思ってもみなかった。
コブの1つがライナスの頬をかすめて血が飛ぶ。
「再度撤退!」
「チッ……なんなんだよ!」
下がったライナスは苛立ちを見せていた。
どうしてライナスばかり狙うのか。
まるで回避が1番下手なのがライナスであると分かっているかのようだ。
「ほれ」
とりあえずフィオスをライナスの頬にくっつけて治療する。
「なんで俺ばっか!」
確実にライナスを狙っている。
これは怒るのも無理はない。
「ライナス抜きでやってみようか」
ライナスがいるとライナスが狙われるならライナスを抜いてやってみればいい。
ジケたちはライナスを抜いた四人で攻めてみる。
「俺ですか!」
すると今度はユディットが狙われた。
タイミングをずらしてみてもユディットが狙われる。
次はユディットとライナスを抜いた3人で挑んでみる。
狙われたのはリアーネであった。
「回避下手くそ順だな」
「ぐぬぬ……なんかそうまとめられるとムカつく」
何を基準にして狙われているかを考えた。
たどり着いた結論はケントウシソウのコブを回避するのが下手な順に優先して狙っているのではないかということになった。
最後にはジケとニノサンが同時に入るとそれぞれ2つずつコブが向けられた。
ジケもニノサンもほぼ完璧に危なげなくコブをかわすことができる。
つまりはこの2人は甲乙つけ難いのでそれぞれコブが向けられるのだろう。
ライナスが1番回避が下手くそで次にユディット、リアーネと続くのだ。
「えっ、こいつら戦い見てんの?」
「こうなると見ている……あるいは情報を共有している?」
どうやらこれまでの戦いを見ていて、しかもジケたちのことをちゃんと識別しているようである。
何も考えずに近付いてくるものを攻撃しているだけだと思っていたのにここで意外な知能のようなものを見せてくれたものである。
ニノサンはケントウシソウ同士が繋がっていてなんらかの経験を共有している可能性について言及した。
確かにそんなこともあり得ない話ではない。
「何にしてもあいつらはちょっと知恵を絞ってきてるな」
クトゥワに教えたら興奮しそうな情報であるが今はそれを検証しているような時間もない。
とりあえずケントウシソウを倒さねばならない。
「ライナスアンドユディットおとり作戦で行こう」
「なんだか気持ち良くない作戦名だな」
「主人のためなら」
コブ4つでも最初からニノサンやジケを狙ってくれるなら回避もできるけれどユディットとライナスだとちょっと厳しい。
しかしジケとニノサンそれぞれがケントウシソウを相手にするのもリスクが伴う。
そこでユディットとライナスにはおとりに徹してもらう。
作戦はこうだ。
まずはジケとニノサンとリアーネをアタッカーとしてユディットも一緒に突入する。
多分ユディットが狙わられるので少し耐えてもらう。
そうしたら次はライナスも入る。
するとおそらくターゲットはユディットからライナスに移るだろうから今度はライナスに少し耐えてもらう。
危なくなったらライナスが下がれば次はまたユディットが狙われる。
これを交互に繰り返しておとりとなってもらうのである。
回避が下手くそで狙われるからおとりにされるというところにライナスは納得いっていないようであるが、今のところ1番安全に素早く敵を倒す作戦は他にない。
ユディットはジケのためになれるならおとりでもなんでも立派にやり遂げてみせるつもりである。
「いえ、ライナスさんがいなくても俺が全てかわしてみせます! お任せください!」
「まあ、あまり無理はするなよ?」
攻撃範囲ギリギリのところで回避を続ければたとえかわしきれなくても逃げるのは難しくもない。
そんなに責任を負わなくてもいい。
最悪2人が攻撃から逃げてもジケたちは回避できる側なので逃げるくらいはできる。
「やったらぁ! ムカつくケントウシソウの攻撃しっかりかわしてやるから見てろ!」
ここら辺のさっぱりした感じもライナスの良いところである。
「んじゃ倒すぞ!」
「おー!」
まずジケたちが先にケントウシソウに向かって走り出し、ユディットが少し遅れてついていく。
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