希代の盗賊が遺したもの6

「しかもこれは……厄介そうだな」


 ケントウシソウはジケたちが来たことに気がついてこぶを振りかぶり始めた。

 広いといってもそれはここまで通ってきた道に比べると広いというだけの話。


 所詮は地下の部屋であってケントウシソウがのびのびと出来るようなスペースはない。

 外でのケントウシソウはそれぞれぶつからず自分だけのスペースを確保していたのだけど、この地下の部屋ではケントウシソウがコブを伸ばせばぶつかってしまうような距離で密集している。


 つまりケントウシソウの攻撃範囲が重なってしまっているのだ。

 これまで複数人でバラバラの方向からケントウシソウに挑んでいたけれど、狭い部屋で密集するように生えているので回り込むこともできない。


 同時に複数のケントウシソウを相手にしなければならず面倒臭そうだなとジケは思っていた。


「コブぶった切っちゃダメか?」


「ダメ」


 コブを避けて幹を切り倒そうとするから面倒なのだ。

 リアーネは回収するつもりがないのならコブやコブに近い枝を切り飛ばしてしまってもいいのではないかと思った。


 ジケは否定するように首を振った。

 外ならばそれでもよかったのかもしれない。


 けれどここは閉鎖された地下空間である。

 コブの爆発が起きた時にその影響で崩れないとは限らない。


 面倒かもしれないがこれまでと同じく幹を切り倒していくのが安全である。


「見たところ奥の方に続いてますね」


 ユディットがケントウシソウを避けて部屋の奥を覗き込む。

 奥にまた道が続いているように見える。


「仕方ない……ケントウシソウを倒していこう」


 先に進むにはケントウシソウを避けるか、倒すしかない。

 ジケならケントウシソウのコブを全てかわしていく自信もあるが、他のみんな、特にライナスはちょっと厳しい。


 全員で戦ってケントウシソウを倒した方がリスクは少ない。

 体力は消耗するだろうけどケントウシソウを倒していくことにした。


「端のケントウシソウから順番に」


「分かりました」


「つっても大変そうだな」


 端のケントウシソウは壁際に生えていて、近くのケントウシソウはすぐそばにいる。

 それぞれのケントウシソウの攻撃範囲が大きく重なっている。


 戦う上でそばのケントウシソウから攻撃されることも避けられない。

 

「5人でいっぺんに戦おう。もし1人が狙われるようなら仕切り直しだ」


 2体のケントウシソウの狙いが1人に向く可能性もある。

 そうなったら一度下がって狙いが分散するまでやり直す。


 時間はかかってもリスクが低い方法を取る。

 ジケの提案にみんな頷いてそれぞれ武器を構える。


 ジケもフィオス盾と魔剣のレーヴィンを構えて精神を集中させる。

 それぞれ視線を交わして準備ができたことを伝え合う。


「行くぞ!」


 ジケたち5人で一斉にケントウシソウに襲いかかる。

 配置として回避が苦手なライナスは他のケントウシソウから遠いところに置いた。


「私がこっちを引き受ける!」


「頼んだ!」


 そばに生えていたケントウシソウはリアーネ1人を狙った。

 そして狙っているケントウシソウはコブを1つずつジケとニノサンに向ける分散型であった。


 リアーネがもう1体のケントウシソウを引きつけてくれている間にジケたちは壁際のケントウシソウを攻撃する。

 狙われているジケとニノサンで上手く攻撃をかわしてライナスとユディットで幹を切りつける。


 すると今度はコブの1つがニノサンからユディットに向かう。


「一旦退却!」


 ライナスとユディットの攻撃が決まってケントウシソウがメキメキと音を立てて倒れ始めた。

 ジケが声をかけるとケントウシソウを引きつけてくれていたリアーネも下がる。


「ふう」


「お疲れ」


「ありがと。でもまだまだだな」


 1体ケントウシソウを倒したけれど他にもたくさん残っている。


「まあみんなでやればいけそうだから頑張ろう」


 ケントウシソウの位置を見て、大体の攻撃範囲を予想して被っても2体になるようなところから片付けていく。

 どうしても3体が被っているところもあったけれどそれぞれコブを分散させることでケントウシソウを倒していった。


「後はあれだけ倒したら進めそうかな?」


 10体ほど倒した。

 全部倒すつもりだったけれどよくよく考えてみたら全部倒すこともなく、向こうの道に行くのに邪魔になるやつだけを倒せばよかった。


 ただケントウシソウの攻撃範囲の重なり合いもあったので最短距離のケントウシソウだけを倒していくわけにもいかなかった。

 それでも後2体ほど倒せばなんとなく通れそうな感じになった。


「おっしゃ、やるぞ!」


 ライナスが肩を回してやる気を見せる。

 なんだかんだライナスの対応力も高くてコブの回避にも慣れてきていた。


 2コブに狙われてずっと回避するのは厳しいかもしれないが、短い時間なら安定感が出てきている。


「真ん中の左から行こうか」


 目の前には4体のケントウシソウが並んでいる。

 通るだけなら真ん中のケントウシソウ2体を倒せば事足りる。


 ジケたちはど真ん中から攻めていき、真ん中の2体のケントウシソウだけが相手になるように戦うことにした。

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