実験開始!5

「……なんだか震えてませんか?」


 水が枝から滲み出ていたのもわずかな時間だった。

 すぐに水は出てこなくなって、今度はコブが炎の中でブルブルと震えているようにリンデランには見えていた。


「……確かに震えていますね」


 リンデランだけではないジケやクトゥワの目にも確かにコブが震えているように見えた。

 嫌な予感がする。


 ジケがそう口にしようとした瞬間、コブは爆発を起こした。


「あっつ!」


 これまでよりもさらに激しく爆発したコブは大量の水を撒き散らしながら高く打ち上がった。

 降ってくる水は火に当てていたためなのかお湯になっていた。


 ジケはとっさにフィオスをリンデランの頭に乗せた。


「熱かった」


「ほんとだな」


「わざわざよかったですのに……」


「そうもいかないさ」


 体は防水服を着ているのでお湯も弾いてくれる。

 けれど頭は丸出しなのでお湯が当たれば熱いのだ。


 逆を言えば頭さえ守ればいいのである。

 最初はちょっとお湯がかかったけれどジケの機転のおかげでリンデランはほとんどお湯をかぶらなかった。


 リンデランは申し訳なさも感じるけれど自分を優先してくれた優しさに嬉しさも感じていた。


「火に当てるのは……中々危険かもしれませんね」


 なんとなく爆発の威力も高かった気がする。

 しかし確かめたいことがジケにはあった。


 もう一度コブを炎の中に突っ込む。


「気をつけてくださいねー!」


「わかってるよー!」


 ジケは板の裏に隠れないでコブを突っ込んだ炎のそばにいる。

 やがて熱されたコブの枝からポタポタと水が垂れ始めた。


 出てきた水を先ほどまで水を集めていたものと違う瓶に入れていく。


「そろそろ退却!」


 欲張りすぎて間近でコブが爆発すると痛い目に遭う。

 ジケは水の回収を切り上げて板の裏に戻る。


 タイミングよくジケが引いたところでコブがまた激しく震え出した。


「フィオス頼むぞ」


 またきっと激しく爆発するはず。

 フィオスはにゅーんと体を伸ばして広がっていく。


 ジケたち4人は集まってフィオスの中に包まれるようにして守られた。


「リンデラン?」


「あんまりお体伸ばすとフィオスに悪いですからね」


 出来るだけ近寄った方がフィオスも大きく包み込まなくてよくなる。

 そんな風に言い訳してリンデランはジケにピタリと体を寄せた。


「キーケック?」


「えへへ、お父さん」


 それを見てキーケックはクトゥワにギュッと抱きついた。

 どうせ炎に入れたらどうなるのかはわかっている。


 しっかり見届けることもない。

 そしてコブがまた爆発を起こした。


 今度は真横にコブが飛んでいき離れて見ていた騎士たちの方に行ってしまったので、騎士たちがちょっと慌てていたけれど怪我人はいない。


「クトゥワさん、これ嗅いでみてください」


 フィオスのおかげでお湯もかぶらずに済んだ。

 ジケは火に入れたコブから採取した水のニオイを嗅いでクトゥワに渡した。


「これは……!」


 クトゥワもニオイを嗅いで驚いた表情を浮かべた。

 なんと水のニオイがなかったからである。


 水にニオイがないのなんて当然であるが、なぜなのか爆発したコブから出てくる水は非常に青臭い。

 味もエグみのようなものがあって常飲するのには中々厳しいものがあるのだ。


 しかし枝から染み出してきた水にはニオイがないのである。

 青臭いニオイに囲まれて鼻がおかしくなったのかと騎士にも確認してもらったが、やはり水は無臭だった。


「……水!」


 勇気を出して一口飲んでみた。

 温められていたので少しぬるいがちゃんとした水である。


 味やニオイになんの嫌なところもないごく普通の水なのであった。


「希望が見えてきたな」


「火で加熱して出てきた水は普通のものと変わりないのですね。なるほど、確かにこうして普通の水が採れるのならケントウシソウのコブは有用かもしれませんね」


 クトゥワも水を一口飲んで驚いた顔をした。

 ジケがやろうとしていたことはなんとなくで理解していたがこうしてちゃんとした水が出てくるとハッキリとした。


「けれどこれでは効率がかなり悪いですね……」


 今回採取できた水はあまり大きくない瓶に半分ほど。

 コブが爆発するリスクや焚き火の燃料などのことを考えた時に水の量はあまりにも少ないと言わざるを得ない。


「そうだね……でも爆発で出てきた水を見ると採れた水の量はほんのちょっとだからもっと上手くやればもっと水が採れると思うんだ」


「なるほど。でしたらこのまま火に関連して試していってみるのがよさそうですね」


 今のままでは非効率的で何にも活かせないかもしれない。

 しかし火で熱すると普通の水が出てくることが分かった。


 これは小さいが確かな一歩である。


「……リンデラン、どうかしたか?」


「あ、いえ……」


 リンデランはケントウシソウから水を取り出す方法を真面目に考えているジケの横顔をぼんやりと眺めていてしまっていた。

 少しうつむくようにして考え込む姿はカッコいいな、なんて思っていた。

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