実験開始!4
「ぐーりーぐーりー」
キーケックがキリの先をコブに押し当てて穴を空けようとする。
コブは硬いので中々苦労しているが少しずつキリが突き刺さっていく。
「ぐーりーわああああっ!」
意外といけそうかな、なんて思っていたけどそんなことなかった。
急にコブが爆発してキーケックが吹き飛ぶ。
「キーケック、大丈夫かー!」
「あははっ! ちょっと面白かった!」
地面を転がったキーケックは笑っていた。
水が噴き出して体がちょっと浮き上がって飛ばされるのは新鮮な感覚だった。
上に乗っかったら高く跳べるかなとかキーケックはちょっと考えたりしていた。
差し出されたジケの手を掴んで立ち上がる。
「予想はしていたけど切るのもダメ、穴を空けるのもダメか」
それは他の人がやった実験でも試みていたので分かっていた。
切ったり刺したりコブに何かしらの外傷を与えると中の水の圧力で破裂してしまうようであった。
怪我をするような危険性こそ低いが何をしても爆発してしまう。
だがきっと水を取り出す手段があるはずだと次なる実験に移る。
「リンデランもいることだし協力してもらおうか」
せっかくだしリンデランの能力でも実験してみる。
「いきますよ!」
「ほい、お願い!」
リンデランが板の裏から杖の先をコブに向ける。
「えいっ!」
リンデランが魔法を使うとすぐさまコブに変化が現れる。
表面が白く凍り始めたのである。
リンデランが得意としているのは氷系の魔法。
いっそのことコブを凍らせてみたらどうだろうという実験である。
流石に凍らせるなんてことを試した実験はなかったので結果がどうなるかはまだ誰にも分からない。
「あぁ〜! ダメかぁ〜!」
なんの変化もなく凍りつくことを受け入れているように見えたコブだったが急に爆発した。
「リンデラン、危ない!」
「きゃっ!」
ジケがリンデランを抱き寄せるようにしてかばうと、リンデランが立っていたところにコブの破片が落ちてきた。
基本的には安全なのだけど危険がないわけじゃない。
硬いコブは爆発の勢いで飛んでいるのでそれが当たると結構危ないのだ。
斧で切ったりキリで穴を空けたりするときは傷つけた方向に水が噴き出して、コブは逆方向に飛んでいくので危ないことはなかった。
けれど凍らせるとどこに飛んでいくのか分からなくて危険が増すのである。
今回は上に飛んでいって降ってきた。
やっぱり狭い室内でなんか実験しなくてよかったと思う。
室内でやっていたらそこら中穴だらけになっていたことだろう。
「大丈夫か?」
「あっ、はい……」
リンデランは顔を赤くしている。
危ないところだったとかそんなことよりジケの顔が近くにあって胸がドキドキとしていた。
これだけでも実験を手伝ってよかったと思える。
「顔に水ついちゃった」
「ありがとうございます……」
リンデランの頬に水滴がついていたのでジケは親指で拭ってあげる。
触れられたところが急に熱くなったような気がして、リンデランは耳まで赤くしてうつむいた。
「僕もついてる」
「はいはい」
コブの破片を回収して用意してあった箱の中に集めるジケにキーケックが顔を寄せた。
キーケックの鼻先から水が垂れそうになっているのでジケがサッと指で拭いてやる。
「ありがと!」
するとキーケックはニッコリ笑ってコブを置いておく台座に溜まった水を瓶に移した。
「しかし凍らせるのもダメ、か」
そんな予想はしていた。
コブを凍らせて解決できるのならきっと魔法使いを雇ってそうしたはずだろうが、そんなことをしていたような感じはなかった。
ジケの中ではもうちょっとワイルドなやり方だったような気がする。
ただ明確にどんな方法たったのかは思い出せないのだ。
直接作業に関われば覚えていたかもしれないけれど、なんとなく作業の内容を聞いた程度だった。
水が嬉しかった記憶ばかりが強くてその周りのことの印象が薄くなってしまっている。
「切り替えてまだまだいくぞ!」
「おー!」
凍らせてダメなら燃やしてみる。
事前に用事してあった焚き火を盛大に燃やし始める。
「みなさんちゃんと隠れていますか?」
焚き火の横でコブを抱えたクトゥワが振り返る。
「大丈夫!」
ジケたちはしっかりと板の後ろに隠れてクトゥワに向かって手を振る。
「それでは」
クトゥワはコブを焚き火の中に投げ入れると走って板の後ろに避難する。
「ふう」
「経過観察……」
火に投げ入れたからといってすぐに爆発するとは思っていないが万が一の可能性もある。
ひとまず無事だったことにクトゥワは胸を撫で下ろした。
あとはコブがどうなるのかみんなで板の隙間から様子をうかがう。
最初のうちは特に変化もない。
「あっ、水垂れてませんか?」
リンデランがコブを指差す。
「本当だ」
これはちょっと予想外だとジケは思った。
なぜならコブそのものではなくコブに繋がっている枝の切り口から水がポタポタと垂れ始めたからである。
「おお、これが正解のやり方なのでしょうか?」
クトゥワはコブに訪れた変化を素早くメモしている。
しかしクトゥワもジケも油断はしていない。
ただ火に入れるだけのことを他の人が考えないはずはないのだから。
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