コブしを振るう植物モンスター2

 ゆっくりと近づくジケ。

 近づくほどにケントウシソウはミシミシと音を立てて力を溜めていく。


「ジケさん……!」


 一歩踏み出したジケにケントウシソウのコブが迫る。

 ボッと音を立てて突き出されたコブにジケがそのまま殴られたようにドクマーは見えて息を呑んだ。


 けれどジケは吹き飛ばされもしていなかった。

 もちろん当たってなどおらず、ギリギリのところでかわしていたのである。


「ほっ!」


 とりあえず魔力もあまり込めないでコブに繋がる枝を切り付けてみる。


「ん、硬い!」


 鈍剣なこともあるがケントウシソウは思っていたよりも繊維が詰まっていて硬く、剣の刃が少ししか食い込まなかった。

 続くコブが迫ってきて冷静にかわしながらもう一度切り付けてみる。


 やはり同じく硬くて刃が滑ってしまう。

 ならばと今度は幹の方を狙ってみるがこちらも硬かった。


 今のところコブでひたすらに殴りつけてくるだけでガードなどをするような気配はない。


「んじゃまずは一本!」


 ケントウシソウに体力があるのか知らないけどジケには体力の限界というものがある。

 あまり長々とかわし続けていては疲れてしまう。


 コブの速さやケントウシソウの硬さは分かったので今度は倒すことを試みる。

 魔力を込めて幹を切りつける。


 感触を確かめながら切り付けるたびに魔力を増やしていく。


「おりゃ!」


 振り下ろされたコブをかわしてケントウシソウの幹を深く切りつけるとメリメリと音を立てながら倒れていく。


「ふぅ……」


 ケントウシソウは両コブを振り上げたままの体勢で硬直したように折れて倒れて動かなくなった。


「意外と大変だ」


 コブの攻撃は慣れれば割とリズミカルなのでかわしやすいが硬いので何回も切り付けなきゃ倒せない。


「そんで、このコブを持って帰ればいいんだっけ?」


「ああ、そうだけど幹の部分の何かに使えないかな?」


 ジケがクトゥワを見る。

 どうせなら色々と使えないか試してみたいものである。


「あまり活用を検討されてこなかったようなので記録も少ないですね。燃料にしようとした人はいたみたいですが、どうにも水分量が多くてうまく燃えないみたいです」


「なるほどね。じゃあ乾燥させてみようか。一部切り出して工房に持っていってみよう何かに使えるかもしれない」


 タダで倒して持っていっていい魔物であるしこの際目指せ収益化である。

 乾燥もすぐには終わらないだろうがうまく乾いて燃やせれば安定的な燃料供給になるかもしれない。


「んーと、たとえば何かの魔獣で乾燥させちゃうとか」


 そしてここでも何か魔獣の力を使えないかクトゥワを刺激しておく。

 もしかしたら過去には見つからなかった何かの方法をクトゥワが見つけ出すかもしれない。


「じゃあとりあえずコブは取るぞ」


 そのまま運ぶにしてはちょっと大きすぎる。

 幹を持っていこうと思ってもコブは取り外さないと邪魔になる。


 リアーネが自分の剣を抜いて振り上げた。


「あっ、待ってください! ケントウシソウのコブは少し枝を残さねば……わぶっ! …………遅かったですね」


 ケントウシソウに関する情報は少ない。

 けれど全く何もないということでもない。


 情報の中の一つにコブの採取についてのこともあった。

 コブはコブだけ切り取ってはいけない。


 なぜならコブだけを切り取ると爆発してしまうから。

 ただ爆発としても死傷者を出すようなものではない。


 不思議なものでコブの中に蓄えた水が一気に外に放出されて爆発したようになるという話なのである。


「……すまねぇ」


「いや、しょうがないよ」


 近くにいた誰もがものすごい量の水を浴びた。

 もっと慎重になればよかったとリアーネはしょんぼりしているがコブを取ろうしてこんなことになるなんて誰も想像できない。


「青臭いですね……」


 全身水浸しなのだがただ濡れただけじゃない。

 ニオイを嗅いでユディットが顔をしかめた。


 すり潰した植物のような青臭さが辺り一面に漂っている。

 これがケントウシソウのコブから水を取るのが難しい理由なのである。


 単純に水というだけならいくらでも取りようがあるのだけれどケントウシソウから出てくる水は非常に植物っぽい青臭さがあるのだ。

 そのために飲むことはおろか、ニオイが気になるようなことには使えないのである。


 ちょっとコブに手を出しただけでこれなのだから研究を諦めるわけである。


「エニ?」


「なーに?」


「なにじゃなくて」


 みんなケントウシソウのせいでびちょびちょなのだがエニはほとんど濡れていなかった。


「人を盾に……」


「いいじゃん、たまたま横にいたんだから。えへへっ」


 なんだかクトゥワがコブを取ることを止めようとしている。

 そう思ったエニは咄嗟に横にいたジケの後ろに隠れたのだった。


 ジケが盾となってエニはほとんど濡れなかった。

 いいんだけど、なんだかちょっと納得いかない。


 エニは舌をペロッと出して笑う。


「まあ無事ならいいか……」


「私が事前に言っておくのを忘れたばかりに……」


「いいんですよ。死ぬようなことじゃないですし、ケントウシソウの水がどうして使えないのかよく分かったから」


 青臭くて使えない。

 しかしどうにかして綺麗な水のまま取り出すか、綺麗な水にする処理方法があるはずなのだ。

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