コブしを振るう植物モンスター1
「力強いな」
「そうでしょうとも!」
馬車、改め魔獣車を引くのはリアーネのケフベラスだけではない。
ユディットの魔獣であるクモのジョーリオも荷車を引く。
かなり大きなクモであるジョーリオはケフベラスよりも力強く荷車を引いている。
ジケたちは最後の町を出発してケントウシソウの群生地に向かっていた。
ここまで特に問題もなく進んできていた。
あとはケントウシソウを見つけて倒すだけである。
「実際乗ったのは初めてですがフィオス商会の馬車は凄いですね」
「ええそうですね。私も馬車酔いするのですが揺れが少ないせいか平気でしたよ」
ライナスは自分の魔獣であるセントスを呼び出して背中に乗っていて、代わりにドクマーが馬車に乗っていた。
あまり馬車が得意ではなかったドクマーであるがこちらの荷車もフィオス商会特製の揺れの少ない荷車である。
荷車なので椅子がなく直に座ることになるがそれでも他の馬車に比べれば圧倒的に楽チンである。
クトゥワも馬車に乗ると酔ってしまうたちなのであるが、今回は揺れが少なくてゆっくりと走っているので気持ち悪くなることもなかった。
道には一応立ち入り禁止の立て札が立てられている。
立ち入り禁止とはなっているが見張りなどいるわけじゃない。
地図上では立ち入り禁止区域として区切られているが実際の土地にそんな区切りはないのである。
見回りの兵士は一応いる。
入ったぐらいでは追い出されるぐらいだが薬草を取れば逮捕されてしまうかもしれない。
「見えてきましたね」
御者をしているユディットに言われて馬車の進行方向に目を向ける。
「ほぉ〜思ってたよりたくさんいるね……」
広い草原の一面に二つの大きなコブを持つ奇妙な木が立ち並んでいる。
想像していたよりも広い範囲に、そしてたくさん生えていた。
パッと見ではおかしな木なのであるがこれもれっきとした魔物なのである。
ある程度近づいたところで荷車を降りる。
荷車はそこに停めたままにして、ジョーリオもそのまま荷車に繋いだままにしておく。
これは一々ハーネスなどのつけ外しが面倒なこともあるし、魔物が荷車を襲うのを防止する番犬代わりをジョーリオに務めてもらうためでもある。
「これがケントウシソウ……」
大柄なリアーネと同じぐらいの高さの太い幹の上側から2本の枝が伸びている。
その枝の先に人の頭よりも2回りほど大きなコブが生えている。
遠くから見ているとなんともないのだけど近づいてみるとジケたちのことを認識しているように少し体を動かした。
「ユディット、警戒してちょっと近づいてみてくれるか?」
「分かりました」
ユディットは自分の魔剣を抜くと少しずつケントウシソウに近づいていく。
するとケントウシソウが大きく動き始めた。
まるで拳を振りかぶるように体をねじりながら拳を後ろに引き絞った。
ケントウシソウからミシミシと音が鳴って、ジケたちにも緊張感が走る。
そろそろケントウシソウのコブが届きそうな距離までユディットが近づいた。
いつ攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。
集中を最高まで高めてユディットはさらに一歩足を踏み出した。
「なるほど、拳闘士ね」
ケントウシソウは引き絞ったコブを一気に突き出した。
これは正面から受けてはいけないととっさに思ったユディットは横に飛んでかわす。
コブの勢いで風が起こってジケの前髪がふわりと上がる。
まだコブの届く範囲にいるユディットを攻撃しようとケントウシソウは素早くコブを振る。
ブゥンと音が振られるコブをユディットは冷静にかわしていく。
一発一発の威力は高そうでコブも速いけれど回転は遅い。
一々体をねじるのでその分次のコブが飛んでくるのに少し間があるのだ。
「もういいぞ、ユディット!」
「はい!」
ユディットが大きく後ろに飛び退いてケントウシソウのコブの範囲から脱する。
するとケントウシソウはまた体を大きくねじってコブを振りかぶった体勢をとる。
ユディットが離れていくと徐々にケントウシソウも力を溜めるのをやめた。
「なんというか不思議な魔物だね……」
見た目もさることながら生態も不思議な魔物であるとジケのみならずみんな思った。
基本的な生態は植物なのだろう。
しかし一度範囲内に敵が近づくとコブを使って見境なく相手を攻撃し始める。
なんでそんな生態になったのか疑問である。
「ご覧のとおりケントウシソウは山ほどいるのでいくら倒してくださっても大丈夫です」
地面に根を張って動かないということは非常にありがたい。
とりあえずは色々と試しつつ倒してみることにした。
「ひとまず根元からぶった切って……」
「ジケ」
自分の剣に手をかけたジケをグルゼイが呼び止める。
「し、師匠?」
「剣が違うな」
グルゼイはジケにスッと鈍剣を差し出した。
全くもって冗談なんて雰囲気もない。
「……はい」
移動しない敵ならむしろ修行にもいいだろうとグルゼイは思った。
ジケは大人しく鈍剣を受け取る。
ケントウシソウ相手なら鈍剣でもそんなに苦労もしなさそうだし師匠には逆らえない。
「お、お一人で大丈夫なのですか?」
鈍剣を手にジケはケントウシソウに近づいていき、ドクマーは少し焦ったようにグルゼイを見た。
「こんなことでやられる弟子ではないからな」
ジケのことを知らない人から見ればただの子供だが、ジケを知っている人からしてみればジケはただの子供ではない。
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