友達と、そして護衛と戦って2
「だめかー!」
ジケも負けた。
ライナスが草の上に体を投げ出して寝転がる。
「まあ2人ともその年にしちゃ強いけど、このおねーさんには敵わないかなぁ〜!」
胸を張って笑うリアーネ。
戦いの時の鋭い目つきとは全然違っている。
「大丈夫、ジケ? 怪我してない?」
「ああ、大丈夫だよ」
思い切り力で弾き飛ばされたので剣を持っていた手が痺れているけれど治してもらうようなことではない。
リアーネは直接剣は当てないようにしてくれていたので怪我らしい怪我もしていない。
「ほんと? 怪我してたら治したげるから言ってね」
「ありがとう」
「エーニー、俺もいるよー?」
さささっとライナスも寄ってくる。
「だいじょぶ?」
「態度違う!」
「オナジダヨー」
どう見たって怪我はしていない。
してたなら治してあげるつもりだけどしてないのに寄ってこられたとてどうしようもない。
「よかったらリアーネの方治してやってくれ」
「ん、私か?」
「脇腹に剣かすらせちゃったろ? リアーネだって女の子なんだからちゃんと診てもらえよ」
剣先がかすめた手応えはちゃんとあった。
そんなに大きなダメージがあったように見えないけれど当たったのだから診てもらうべきだ。
「ふふっ、私のこと女の子、なんて言うのはジケぐらいだよ」
嬉しそうに微笑むリアーネ。
一回年寄りになった影響だろうか、リアーネもまだまだ女の子だとジケは普通に思っている。
こういうところがいけないとリンデランあたりに怒られるんだろうなとジケは思った。
一応、とエニが診てみると脇腹の剣がかすめたところが赤く筋になっていた。
リアーネはそれを見て、勝てこそしないが追いつかれるのもそう遠くないかもしれないなと笑っていた。
エニが治療をするとすぐに赤みが引いて治ってしまうようなものだがしっかりとリアーネに届いていたのである。
少し休憩したら次はユディットとも戦う。
ユディットはリアーネほど強くもないがジケよりは弱くないという感じである。
割とジケに近い方の実力ではある。
なのでユディットとは一対一で戦う。
ユディットとしては守るべきジケに負けるわけにはいかないとかなり必死になっているのだけど時々ジケが勝ったりもする。
「素晴らしいですね」
木に寄りかかるグルゼイにクトゥワが声をかけた。
ジケ周りにいる人として近いところにも住んでいるがグルゼイとクトゥワはほとんど会話もしたことがない。
生活リズムも違えば、クトゥワなんかはそれほど外に出ることも多くないのでしょうがない。
「若い世代が共に切磋琢磨しながら賑やかに過ごしている。眩しい光景です」
「そうだな」
グルゼイはチラリと一瞬だけクトゥワに視線を向け、またすぐにジケたちの方に戻した。
「ああした若いものがこれからの未来を作るのでしょうね」
「……そうだな」
「特にジケ君は未来を担う人物になってくれそうです。うちのキーケックもその時にそばにいてくれれば嬉しいですねぇ」
「あの子は不思議な子だがジケが好きで、ジケもあの子のことを気に入っている」
「おや、そのように見ていてくれたのですか」
「弟子の味方になってくれることのことはちゃんと見ている」
決してクトゥワの方を見ないがグルゼイはぶっきらぼうに答えた。
クトゥワのためにキーケックを見たことなどないがジケの周りにいる人が信頼に足るのかはグルゼイ自身でもしっかりと見ている。
怪しいものがうろつくようならジケのためにもグルゼイが手を汚すことも厭わないつもりだから。
今のところそんなことにはなっていない。
キーケックのことも当然にグルゼイはチェックしていた。
不思議な性質の持ち主であるがジケとキーケックは互いに信頼している。
ジケのことを裏切るような子ではないとグルゼイも思っていた。
「グルゼイさんも、良い師匠ですね」
「さあな」
人嫌いで、少し怖い印象。
それがクトゥワがグルゼイに抱いていた印象なのだが話してみるとそうでもなかった。
よく弟子に心を砕いている、とても優しい師匠である。
その証拠にグルゼイはジケの戦いから目を逸らさない。
「ちなみにうちのキーケックは……」
「やめておけ。あの子はそっち向きじゃない」
「……ですよね」
ちょっとぐらい身を守れてもとは思わなくもない。
しかしキーケックが剣を持って戦う様も父親であるクトゥワですら想像できない。
グルゼイの目から見てもそうなのだろう。
クトゥワは軽く肩をすくめると子供たちの戦いに視線を向けた。
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