友達と、そして護衛と戦って1

 ライナスは力と勢いがある感じ。

 ジケは全てを切り裂くような鋭さがある感じ。


 2人の戦いを見ていたキーケックはそんな風に評した。

 魔力を使わない戦いにおいてジケとライナスではジケの方が一枚上手であった。


 それもそのはずである。

 ジケには過去の経験がある。


 その分だけちょっとは戦い方の基礎があったし必死にもなった。

 さらにはジケは魔力が少ないということで魔力をそれほど使わない戦いというものも鍛えてきたのである。


 だからジケはライナスに勝利した。

 もちろん負けたライナスはすごく悔しそうにしていた。


 昔なら負けたことが悔しすぎて納得しなかっただろうライナスも素直に負けを認めて、またやるぞと切り替えていた。

 ライナスも肉体的にだけでなく精神的にも強くなっている。


「だぁー! 負けたー! 悔しいー!」


「へっへー、俺の勝ち」


「さすがジケ! 強い!」


 切磋琢磨する実力の近い相手との戦いは成長に良い。

 グルゼイの提案で夜の寝る前になるとジケとライナスは手合わせをしていた。


 ジケファンのキーケックが声援を飛ばす中で何回か対練を行う。

 今回もまたジケが勝ったのだけどライナスだってやられっぱなししではない。


 勝率こそジケよりも低いが時々ライナスも勝つことがあった。

 やっぱり負ければ悔しいし、なぜかキーケックも悔しそうにしている。


 でも勝ったり負けたりするというのもこれはこれで楽しいと思った。


「もう一回……!」


「いや、次は私とだ!」


 体がうずいたリアーネが剣を手に立ち上がる。

 流石のリアーネは強くてちゃんとライナスの鼻っ柱もへし折ってくれていた。


「フィオス頼むぞ」


 ぺっとフィオスがリアーネの剣にくっついてまとわりつく。

 そして金属化。


 これはリアーネの剣が切れないようにして安全に戦うための処置である。

 フィオス便利。


「いくぞ、ライナス」


「そうだな、ジケ! 今度こそ参りましたって言わせてやるよ!」


 ジケとライナスの2人でリアーネに向かっていく。

 ちなみに今使っているのはグルゼイの特製鈍剣。


 ちょっと前に使っていた魔力の通しにくいあの剣である。


「ふっ、そんな毎回正面から馬鹿正直に突っ込むだけじゃ勝てないぞ!」


 ライナスの剣を受け止めてリアーネは笑う。

 鋭い攻撃ではあるが真正面からでは通じるはずがない。


「ジケもそれじゃあ……」


 その隙にジケは横に回り込んでいた。

 だがリアーネにはもちろんお見通しで、ライナスの剣を弾き返すと素早くジケの方を向く。


 もうすでに試みたことのある攻撃パターンだったので対応されることは分かっている。


「これまで通りと思うなよ!」


「むっ!」


 これまでならそのまま攻撃を仕掛けて防がれていた。

 ジケはまだ剣を振らずにさらに一歩前に出た。


 リアーネの懐に入り込んだのである。


「やるじゃないか!」


 リアーネは大きな剣を振り回すので細かい動きを得意としていない。

 近付かれすぎると戦いにくいのではないかとライナスと作戦を練っていたのである。


「しかし背中がガラ空きだぞ!」


 下からの突き上げをかわしたリアーネがジケの背中に向かって剣を振り下ろそうとした。


「そっちこそ!」


 けれどもジケの方だって1人ではないのだ。


「おっと!」


 リアーネの後ろからライナスが迫っていた。

 いけると思ったのにリアーネは体をねじってライナスの剣がかわしてしまう。


「はああっ!」


「くっ……!」


「浅いか!」


 バランスが崩れたリアーネにジケが追撃を仕掛けるけれど脇腹を浅くかすめただけだった。


「ジケ!」


「うわっ!」


 攻撃を当ててしまったことでリアーネの目がちょっと本気になった。

 慌てて剣で防御しなきゃ危なかったのでと思うような一撃にジケが吹き飛ばされる。


「ヤバっ……」


 次にリアーネが目を向けたのはライナス。

 ちゃんとガードもしたしジケが復帰するのにそれほど時間はかからない。


 けれどそんな短い時間で十分だった。

 リアーネの鋭く重たい攻撃がライナスに襲いかかる。


 3回防いだ。

 これは今までで最高記録だ。


 しかしそれ以上防ぐことはできずにライナスの手から剣が弾き飛ばされてしまう。


「はい、ライナス終わりー」


 リアーネがライナスの首筋寸前で剣を止めて、エニが終了を宣言する。


「まだこっちは終わってない!」


 ライナスが離脱したからといってジケまで負けたわけではない。

 リアーネの攻撃による痺れが手に残っているけれどジケは素早くリアーネと距離を詰める。


 手数で攻める。

 ジケの攻撃をリアーネは冷静に防いでいく。


「ジケ頑張れ!」


 キーケックの応援にも熱が入る。


「一発食らっちまったからな……もう油断はしないぞ!」


 先ほど脇腹を攻撃がかすめた。

 鈍剣だから大事なかったが真剣、特にジケの魔剣だったなら意外と侮れない怪我になっていた可能性もある。


 戦場でそんな怪我をすれば死にも繋がりかねない。


「いくぞ!」


 リアーネは体ごと押し込むようにジケの剣を押し返して反撃に出た。

 剣が大きく強めの一撃が多いからといってリアーネの攻撃が遅いのではない。


 とんでもない風切り音が近くを通り過ぎてジケはヒヤリとする。

 リアーネの攻撃が続き、ジケは必死に回避する。


「そこまでー!」


 かわしきれない攻撃。

 なんとか剣で防いだけどクルクルと剣は飛んでいってしまった。


「リアーネの勝ち〜」


 エニが手を上げてリアーネの勝利を宣言する。

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