一から鍛錬1
申請を出してもすぐには許可が下りるものじゃない。
クトゥワにはケントウシソウに関してどういった研究実験が行われていたのかまとめていてもらうことにしてジケは待つしかない。
「人との戦い方も大事だが魔物と戦うことも大事だ」
あまりジケは町から外に出ないのでそれほど機会が多くはないけれど町中でも魔物が入り込んでくることもある。
グリッセントのように魔獣を出して戦う人も一定数いる。
ゴダンナがやられた時にグリッセントにもダメージがあったように諸刃の剣ともなり得るが、魔物の強い力を切り札をしていることもあるので魔物と戦う技術も必要ではある。
だいぶ前に実戦的な訓練として冒険者活動をしたけれど色々とあってあまりそうした訓練はできなかった。
今周りの環境はちょっと良くない。
周りというのは町の周りである。
虫によるモンスターパニックの影響で魔物をめぐる環境も大きく変わった。
ケントウシソウはほとんど影響を受けていないらしいが影響を受けた魔物は多い。
というかほとんどの魔物が影響を受けている。
一時期冒険者という対魔物の職業がかなり厳しくなるほど魔物が町の周辺にいなくなっていた。
けれど時間が経って植物などが生えてくると魔物が戻ってきた。
しかし以前と同じナワバリをそのまま取り戻せるわけでも、ナワバリが以前と同じ状況にまで戻っているわけでもない。
人との関係だけでなく魔物同士の関係でもさまざまなことが巻き起こっている。
そのせいで普段魔物が出てこない街道沿いにまで魔物が出てきたりもしているのだ。
行商などを行うフェッツなんかはそれで大きく苦労している。
だが一方で冒険者としての仕事は色々と増えたのである。
これをグルゼイは好機と見た。
対魔物の経験を積む良い機会だと思ったのだ。
町から出て少し歩いてきた。
ユディットもお供兼鍛錬対象として連れてこられている。
もう1人のお供はニノサンである。
ちなみにニノサンとグルゼイだがどちらが強いかと戦ったことがある。
結果はグルゼイの方が強かった。
ジケにも捉えきれないようなニノサンの速度もグルゼイの前では通じなかった。
高速移動するニノサンの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけて勝負は決した。
以来ニノサンもグルゼイには逆らわない。
ユディットほど教わるような感じではないが、速度だけでは勝てない相手にぶち当たることも増えてきたのでニノサンなりにも強くなる方法は模索しているようだった。
「武器はこれを使え」
グルゼイは持ってきていた剣をジケとユディットに渡した。
すらりと抜いてみるとなんの変哲もないただの剣である。
少し重たい片刃の剣は遊びもない。
なぜこの剣を使うのか理由が分からない。
「お前らは良い剣を持っている」
「そうですね」
ジケもユディットも魔剣と呼ばれる魔力を持った剣を使っている。
世の中一般の剣とは比べ物にならないぐらいに良いものである。
「良いものを使うのは悪くはない。だが良いものに頼ってしまうと己の成長を妨げてしまうことがある。道具の良さではなく己の能力で戦うことに今一度立ち返るのだ」
魔剣はそれだけでも強力。
しかし良い道具を使って、それに頼りきりになってしまっては己の成長は望めない。
ジケとユディットが今現在そうであるとは言わないが原点回帰して能力を磨くのが今回の目的なのである。
やたらと剣が重たく感じられるとユディットは顔をしかめた。
ジケの使う魔剣のレーヴィンはやや軽めの部類である。
対してユディットの魔剣はスザンといい、持った感じでは普通の剣と近いものがある。
重たく感じられるのは実際に剣が重ためのものであるからだ。
「う……」
そして今度は剣に魔力を通そうとしてジケが顔をしかめた。
レーヴィンに比べて遥かに魔力を通しにくい。
「少し特別な剣だからな」
普通の剣でも魔力の込めにくさは感じるだろう。
けれどもグルゼイが用意した剣は特別に魔力に対して鈍いものとなっていた。
全くもっていやらしい師匠である。
「ちなみにそいつは切れ味も悪い。しっかりと魔力を込めねば魔物を倒し切れないぞ」
グルゼイはニヤリと笑った。
剣を放り投げて帰りたいところであるがそんなことをしたら後でどうなるか分からない。
それに挑戦を突きつけられているようでちょっとムカつくとジケは思った。
ならやってやる。
お前らにできるかな? とほくそ笑むような笑みを驚きの表情に変えてみせてやる。
「それでこそ俺の弟子だ」
反骨心ありげな表情を見てグルゼイは目を細めた。
やれるものならやってみるといい。
師匠と弟子のプライドバトルが始まった。
ヨロイヌという魔物がいる。
見た目的にはウルフ系の獣の魔物であるのだが、全身が硬質な毛で覆われていて非常に硬い魔物である。
「りゃあっ!」
ジケがヨロイヌを切りつけると金属がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響く。
刃が通らなくてヨロイヌの表面を滑ってしまった。
返ってくる衝撃で手がわずかにビリビリと痺れたような感覚に襲われる。
瞬間的に込める魔力が足りなくて斬撃をうまく作り出せていないのだ。
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