一から鍛錬2

「うっ!」


「主人、大丈夫ですか!」


 反撃でヨロイヌに噛みつかれそうになって慌ててジケは回避した。


「大丈夫だ!」


 ここに来てわざわざ硬い敵を相手させるのもちょっといやらしいところだなと思う。


「こいつ!」


 ユディットが剣を振り下ろしてヨロイヌの頭を殴りつける。


「おりゃ!」


 今度はしっかりと魔力を込める。

 ジケの剣が魔力の軌跡を残しながら振られ、ヨロイヌの首を切り裂いた。


「ハァ……ハァ……」


 魔力の消耗が大きい。

 汗だくになりながらジケは膝に手をついた。


 みんなの協力で少しは魔力が増えたけどまだまだ魔力の少ないジケにとっては魔力を込めにくい剣は大変な武器だった。

 まだヨロイヌは3体しか倒していない。


 なのにもうだいぶ魔力の限界は近づいていた。


「ユディット、魔力のコントロールが甘い。しっかりと魔力を込めないとヨロイヌは倒せないぞ。そのしわ寄せがジケに来ている」


「す、すいません……主人も負担をかけてしまって」


「いいって。お互い様だ」


「そうだな。ジケも魔力のコントロールが悪くて適切な魔力量が見極められていない。無理に魔力だけを込めるから消耗するのだ」


「気をつけます」


 あっと言わせてやると思っていたがそんな余裕もなく自分の弱さが浮き彫りになった。

 剣が変わるだけでこんなに辛いのかと魔剣のありがたさを痛感する。


 確かに常にそばにいい武器があるとは限らない。

 昔ジケだって火かき棒で戦ったこともあるのだ、どんな武器でも適切に戦えるようになっておかねばならない。


 ただ、ジケに限ってはフィオスという相棒もいる。

 フィオスは魔剣にも負けず劣らずに魔力が通りやすく、なおかつ剣としても、あるいは他の武器としても優秀なのである。


 魔剣のレーヴィンが手元になくてもフィオスがいる限りは粗悪な武器な手を出す必要はないのである。

 けれど魔力のコントロールの練習にもなるのでしっかりグルゼイの意に従って鍛錬はやりきるつもりだ。


 ただもうちょっと魔力を増やさねばならないなと思った。


「もう一体ぐらいいこう。次はユディットが倒すんだ」


「分かりました。お任せください!」


 ここまで倒してきた3体のヨロイヌはどれもジケがとどめを刺して倒してきた。

 今度こそはユディットが倒さねばならない。


「あちらの方にいますね」


 今回はフィオスはお休みである。

 お留守番でもよかったのだけどなんとなく行きたいという感じがしていたので連れてきている。


 ただ武器にしてはジケの鍛錬にはならないのでスライムのままでニノサンが抱えている。

 フィオスを抱えたニノさんが遠くにヨロイヌを見つけた。


 何かの魔物を狩っていたのか2体がお食事中である。


「行けるか?」


「もちろんです!」


 ジケとユディットが走り出す。

 周りは草原で姿を隠すものはなく、ヨロイヌもジケたちに気がついた。


 しかしそれでもジケたちが接近する方が早い。

 必要な魔力を見極める。


 まるで血液のように体を巡る魔力をコントロールして剣に集める。

 ただ魔力にだけ集中するのでもない。


 体も適切に動かして戦わなきゃいけない。

 剣に適切に魔力を込められたとしてもそれだけでは何の意味も持たないのだから。


 重たく感じられる剣に振り回されないように腕と腹筋に力を込めて剣を振り下ろす。


「うー!」


 それでもまだほんの少し魔力が足りていない。

 かなり消耗してしまったこともあってヨロイヌを浅く切り裂いただけだった。


「お任せください!」


 飛び退いたヨロイヌにユディットが食い下がってついていく。


「食らえ!」


 ユディットが魔力をほとばしらせてヨロイヌを切り裂いた。

 その瞬間ジケは思った。


 ユディット怒られるな、と。

 もう一体もジケが注意を引きつけつつユディットが倒してみせた。


「ユディット……」


「どうですか、やりました……」


「やりましたではない! 何を聞いていたのだ」


 グルゼイが盛大にため息をついた。

 有り余る魔力に任せて切りつけるだけならバカにもできる。


 そうではなく適切な魔力を見極めてコントロールすることが今回の目的であるのに倒すことにばかり目がいってしまっていた。


「ユディットは無駄多すぎる。しばらくはこれを続けるぞ」


「う、はい」


「連帯責任でジケもだ……」


「……え、ちょっと師匠!?」


 ジケの護衛でもあるユディットの失敗はジケの失敗にも繋がる。

 どの道何かと理由をつけて鍛錬は継続させるつもりだったのでユディットの失敗は都合がいいとグルゼイは思った。


「良い師匠をお持ちですね」


「どこが……あ、いえ、良い師匠です」


 ニノサンは微笑んでいた。

 グルゼイは結構無茶なことはさせるが不可能なことはさせない。


 厳しい師匠であることは間違いないがジケを強くしようという気概を感じる。

 弟子のことをよく見てよく考えている。


 そんな思惑を態度には出さない不器用さはあるけれどジケもそれを分かっている感じがしていて良い師弟関係だと思う。


「ニノサン、お前もだからな」


「えっ!?」


 さらりと火の粉が飛んできてニノサンも驚く。

 ジケの護衛をやっている以上ジケのためにはユディットもニノサンも強くなってもらわねば困る。


 ニノサンも同じように戦わされることになる。

 なぜ最初の時はニノサンだけ外されていたのか聞いたところ、例の色々鈍い剣の用意が二本しかなかったからだとグルゼイは答えたのであった。

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