魔物研究家の知恵を借り3
「キーケックも偉いぞ。クトゥワの研究の手伝いも頑張ってるし、日々勉強してるじゃないか」
「えっへん」
ジに褒められてキーケックは胸を張る。
素直に認めるところもキーケックは可愛らしい。
「お待たせしてすいません。ありました」
クトゥワは分厚い本を二冊持ってきた。
ページをめくってケントウシソウを探す。
「こちらがケントウシソウの情報です」
ケントウシソウのページを開いてジの前に出してくれる。
そのページにはイラスト付きでケントウシソウの情報が書いてある。
イラストで見ると安い演劇の木みたいな感じのフォルムをしていた。
ざっくりと内容を読んでみるとクトゥワが説明してくれたようなことが書いてある。
枝先のコブに大量の水を圧縮して保有していて、この魔物図鑑でも水を取り出す試みは行われたらしい。
しかし硬いコブを絞ることはかなり難しく、さらに絞ったりした水は緑臭くて飲めたものじゃなくて結果として使えない扱いをされている。
「ええと……魔物の調査では中流域近辺から少し離れたところに生息しているようですね。ですが調査年月日が少し古い……このタイプの魔物がいなくなることはないでしょうが場所なんかは少しズレるかもしれません。ご希望ならもう少しこちらで調べておきますよ」
「じゃあお願いできますか?」
「分かりました。キーケック、ヒス、国立図書館と冒険者ギルドに行きましょうか」
「この図鑑借りてもいいですか?」
「どうぞお持ちください」
動き出すのは早い方がいい。
ジが何かを考えているのならと目の奥を光らせているクトゥワは早速2人を連れて出かけていく。
ジは図鑑を持ち帰ってケントウシソウのイラストを眺める。
「うーん……」
「何見てるの?」
お仕事を終えて教会から帰ってきたエがジが見ている図鑑を覗き込む。
「なにこれ?」
「これをどこかで見たんだ……けどどこで見たのか思い出せないんだよ」
おそらく過去で水を産出していたのはこのケントウシソウであるとジは思っている。
なんかこんな感じに近いものを見たような気がするのだ。
ただしそれがどこで、どのタイミングで見たものであるか思い出せなくてモヤモヤする。
「まぁーたなんかしようとしてるの?」
「まぁーたしようとしてる」
「ふぅーん。働きすぎだぞ!」
「ちゃんと休んでるよ」
エは図鑑をパタンと閉じた。
答えが出ないことで悩んでも仕方ない。
「そんな仕事ばっかりやってるとすぐにおじいちゃんになっちゃうよ」
「ふふ……確かにそうかもな」
どの道正確な知識はない。
忘れていることを思い出してもそれが役立つことかも分からない。
「なんか良いもんでも食いにいくか。スイロウ族のことではエにもお世話になったしな」
「本当?」
「ああ、ユディットやリアーネも頑張ってくれたしな。……なんだよ?」
「なぁーんでもない」
エが嬉しそうな顔をしていたのに一瞬でちょっと機嫌が悪くなった理由が分からなくてジは困惑する。
やっぱりこの鈍男は……とエは思った。
そういったお誘いなのかなと思ったけどそういったお誘いじゃなくて、期待して損したとエは思った。
わかってたけど期待しちゃうのだ。
「……みんなで行くんでしょ?」
軽くため息をついたエ。
何にしてもジの奢りで美味しいものが食べられるなら文句はない。
「それとも……2人だけで行くか?」
「えっ……?」
「まっ、たまにはそういうのも……」
「そうはさせない!」
ババーンとリアーネが家に入ってきた。
ユディットと鍛錬していたのだけどちょうど終わったようである。
「ジを独り占めにはさせない!」
「むっ、たまには良いじゃん!」
「それに2人だけで良いもの食べるなんて許さないぞ!」
申し訳ありません主人、とリアーネの後ろでユディットが遠い目をしている。
ジは人気者。
誰かがジのそばにいて、誰もがジといたい。
「ジー」
「ジー」
「タとケも行くか?」
「いいの?」
「もちろんだ」
さっきまでジとエしかいなかったのに気づけばリアーネたちに加えてタとケまで顔を半分だけ出してジを見ていた。
「ま、ワイワイするのもいいけど」
人が周りに集まってくるのもジの好ましい性質の一つだ。
時にジと二人きりを目論むこともあるけれど常に周りに笑顔が溢れているのもジなのである。
「俺は肉がいい、弟子よ」
「分かりました、師匠」
以前から目をつけているお店はいくつかある。
過去で後々有名になったお店や長く続いているお店で覚えているところもある。
今のうちから常連になっておけば良い関係を築けるかもしれない。
人脈を築くことも大切。
良い料理は人の心を開かせることにも役立ってくれるしお店が少しぐらい融通をきかせてくれれば相手に恩を売るようなことができる可能性もある。
今日は後に貴族街にも店を出すことになるが、今はまだ平民街に店を持っているレストランを予約して夜に賑やかに食事をした。
ちょっとお高いがジもみんなも料理の味に大満足であった。
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