魔物研究家の知恵を借り2
他にも刺身とか酢漬けとか色々あった。
「クトゥワさん料理できるんですね」
「私も1人で暮らしていた時期が長いですからね。こうして魔物の研究をしていると色々手に入ることもありますし……ちょっとそういったもので糊口を凌いでいたことも……はは、情けない話ですが」
「ちゃんと自分で料理しようとしているのは凄いですよ」
「ありがとうございます。料理とまではいかなくても魔物を解体したりいじれるような手先は必要ですからね」
魔物を扱うのに今は生きたまま協力してもらう形で研究をしているが、中には素材などを扱うことやそのまま死体を解体して使えるところはないかと研究することもある。
料理で捌くのとは少し違うけれど解体する技術というのは魔物研究家として必要なのだ。
その過程で食べられないか調べることだってある。
真面目なクトゥワはただ食べられるかだけではなく調理までして試したりするものだから料理の腕もそこそこなのだ。
独特のコリコリ感なので苦手に思う人もいるかもしれないが、ジはオクタスが割と好きだった。
港町ボージェナルで食べさせてもらったマーマンの刺身につけた調味料も合いそうだなとジは思った。
「ごちそうさま!」
「満足いただけようで」
「お皿片付けますね。ほらキーケック」
「ん」
ヒスとキーケックでお皿を片付ける。
今はジもいるのでフィオスを渡してお手伝いもしてもらう。
「それで今日はなんのご用で?」
「用がなきゃダメかな?」
「そんなことはありませんが……入ってくる時に私がいるか尋ねたではないですか」
進歩尋ねたり、遊びに行ったりすることもジはやったりする。
別にプレッシャーをかけたりするわけじゃなくて純粋な興味とかキーケックに会いに来たりとかそんな理由である。
ただ今日はわざわざ入ってきてクトゥワがいるかどうかを尋ねた。
つまりはクトゥワに用事があったということは誰でも分かる。
「まあそうだね」
バレバレだった。
ジもクトゥワも笑う。
ただクトゥワは心の中で少しドキドキとしていた。
「また何か思いついたのですか?」
ジのアイデアはすごい。
目の前にあるものを見方を変えるだけで商品として価値のあるものに変えてしまった。
魔物の研究をしているが、それを日常の生活に当てはめて利用を考えるジの柔軟さにクトゥワは尊敬を覚えていた。
こうして会いにきたということはまた何かあるのかと期待せずにはいられないのだ。
「クトゥワさんなら何か知ってるかなと思いまして」
「何をですか?」
「ちょっと水を探そうと思ってまして」
「水……ですか?」
クトゥワは首を傾げた。
水を探すということは分かるのだけど、ジが何を目的としてクトゥワに質問しに来たのかはわからない。
クトゥワに地質学の知識はあまりない。
「水を溜め込むような性質を持つ魔物……あるいは植物みたいなものは知らないかなと」
「水を溜め込む性質ですか。むむ……そうした性質を持つ魔物もいくらかいます。例えば乾燥地帯にいる魔物には雨が降る機会が少ないので一回の雨でより多くの水分を体に保持します」
「乾燥地帯じゃなくてもっと……ここら辺にいるようなものない?」
乾燥地帯がどこにあるのか知らないけれどそこまで行く気にはならない。
過去の経験からするともっと手近の取りに行けるところに水はあるはずだ。
「ここら辺……ですか? うーん……」
クトゥワはアゴに手を当てて考える。
「あー、ケントウシソウというのがありますよ」
「ケントウシソウ? それはどんなの?」
「やや不思議な植物型の魔物です。人の胴ほどの幹に人の腕のように2本の枝が伸びていて、その先端に大きく丸く膨らむコブを持っています。地下に根を伸ばして水を吸い上げて枝先の膨らみに溜め込むんです。そして水でパンパンに膨らませたコブで攻撃してくるという変な魔物ですよ」
「どこら辺に生息してるから分かる?」
「この国だと西側に流れる川からさほど遠くないところに群生地があったと……いや、少し待ってください」
不確かなことは言えない。
クトゥワは自室に戻ってケントウシソウについて書いてある本があったはずだと探した。
「どこだったかな? キーケック、リンドンホルム著の魔物図鑑はどこに行ったか分かるか?」
「本棚の左上の2段目ー」
二階からの質問にキーケックも声を張って返す。
「フィオス優秀」
お皿を綺麗にし終えたキーケックがフィオスを抱えて席に戻ってきた。
フィオスが手伝ったのならお皿はピカピカになっているはずだ。
「何探してる?」
「んー、何か水不足に対して出来ることないかと思ってな。それに関して使えそうなこと聞いた気がするんだけど思い出せなくてちょっと相談してみようと思ったんだ」
「ジ、偉い」
「偉いか?」
「うん、色んな問題考えてる」
食糧不足も燃料不足もジはちゃんと考えてみんなが困らないように乗り切ろうとしている。
キーケックなんて日々の研究に忙しいのにその間にジは色々と走り回っている。
むしろ走り回ってくれているからこそキーケックも研究に集中できている。
これが偉いと言わずしてなんと言う。
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