魔物研究家の知恵を借り1

 これからまた水事情が厳しくなるかもしれない。

 ジはルシウスにそう説明し、ルシウスはそれを国に進言した。


 細かな原理こそ不明であるがカメの体調によって水源地から産出される水の量が大きく変化してしまう。

 今回産卵や密猟者との戦いで力を使ってしまったためにしばらく水の量が少なることが予想されたのだ。


 食料と違って急な対策が難しいものではあるけれど早めに厳しい可能性があることを知っていれば多少の対策はできる。

 ジもこっそりとデカい水瓶をいくつか買って他の家にもしっかり水を備蓄できるように用意した。


 そうしていると本当に水が少なくなってきてしまった。

 早めに国から水が不足することが予想される旨のお達しが出て節約するように言われたものの急に水を使う量を減らすことも難しい。


 こんな時に割を食うのは大体貧民街なのである。

 せっかく寒さも和らいできたというのにここでまた水事情が厳しくなって乗り越えられない人がいると悲しい。

 

 水が無いならどこからか確保すれば良い。

 ジは水不足の時にそれを乗り越えるために何か知恵がなかったかと考えた。

 

 過去水が不足したことは何回かあった。

 そんな時には泥水でもすすって生きてきたけれど気合いと根性以外のちゃんとした方法で水を確保していた時期も確かに存在していた。


 ジはただ水を受け取る側だったのでどうやって水を生み出していたのか分からない。

 どこかで聞いたことがあるかもしれないと記憶を探った。


「クトゥワさんいますか?」


「いる。僕もいる!」


 結局どうやって水を確保していたのか思い出すことはできなかったのだけど別のことはなんとか記憶から引っ張り出した。

 ひどい水不足に陥った時に国が急にどこからか水を持ってきた。


 どこから持ってきた水かは知らないがそれに魔物研究家のクトゥワが関わっていると聞いたことをジは思い出したのである。

 ある種の賭けであるけれどもしかしたら今のクトゥワでも水不足に対処する方法を思いつくかもしれないと会いに来たのである。


 家に入るとキーケックが出迎えてくれた。

 相変わらずダボついた白衣を着たキーケックはジが来てくれて嬉しそうに両手を振っている。


「ああ、どうも会長殿。何やら色々大変だったようですがお元気そうで」


 ジの声を聞きつけて奥からクトゥワも出てきた。


「クトゥワさんも……元気そうですね」


「あ……お恥ずかしい。ちょうど朝食を作っていたんですよ」


 クトゥワは今ピンクのエプロンを身につけていた。

 意外と似合ってるなと思うのだけどクトゥワは少し照れたように頭をかいた。


 ピンクのエプロンだから元気そうだと思ったのではない。

 最初にクトゥワにあった時にはやせ細って肌や髪もボソボソとしていた感じであったのに今はかなりツヤツヤとしている。


 体調的にもかなり良いのだなと見ていて分かるのだ。

 その理由は分かりきっている。


 ヒスの存在が大きい。

 何かとキーケックとクトゥワの世話を焼いてくれるし、睡眠や食事を忘れているとしっかりと怒ってくれる。


 それでも足りなきゃジも動員されるので2人の生活も改善されつつあるのだ。


「会長殿も食べて行かれますか?」


「んー、じゃあお言葉に甘えて」


「やった!」


 クトゥワがどんなご飯を作るのか興味があった。

 一緒にというので食べていくことにした。


 キーケックはジも一緒だと喜んでいる。


「……これは何?」


 ヒスも部屋から出てきて4人で食卓を囲む。

 クトゥワが作った料理をジも運ぶのを手伝っていたのだけどその料理は見慣れないものなのである。


 赤い表面に白い丸い突起のようなものがある。

 奇妙な見た目をしていてなんなのかジには疑問だった。


「これはオクタスという魔物です」


 嬉々としてクトゥワは説明を始めた。


「海で取れる魔物なのですが見た目の奇妙さからあまり良くは思われていないのです。ですが一部の地域では食べられているようで、港町から魚類が多く運ばれてくるようになった流れの中でオクタスもこちらに来たのです。十分食用に耐えられるということで食べてみているのです」


「へぇ……」


 魔物研究家は単に魔物の利用法を研究するだけではない。

 こうしたこともまた研究しているのだ。


「実際これは切ったものですが調理する前はレッドクラーケンにも似ている姿からスモールレッドクラーケンなどと言われることもあるんですよ」


 クラーケンも2種類いる。

 白いクラーケンは足が十本あって、赤いクラーケンは足が八本ある、ということぐらいしかジは知らないけれども。


「物は試しです。一口食べてみてください」


 クトゥワに勧められてジはオクタスと芋を甘辛く煮たものを一口食べてみた。


「うん、美味しい!」


 オクタスは弾力のある歯応えをしていた。

 噛むと押し返してくるような強い弾力があってなかなか面白い。


 クトゥワの料理の腕も良く、味付けも非常に美味しかった。


「どうですか? なかなかいけるでしょう?」


「悪くないですね」


 年寄りの頃ならすごい大変かもしれないと思ったけれどアゴも若い今なら全然食べられる。

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