終わり、甘えて、お別れ
ひとまず見つけられたスイロウ族たちの治療を終えてジたちは一度滝裏のスイロウ族たちと合流した。
滝裏の洞窟にも水が流れ込んできたが、端の方に避けていたらそのまま滝の方に流れていってみんな無事だった。
エの治療でマシになった人もいるがまだ動けない人もいる。
なのでこの滝裏拠点に人を集めて体を休められる場所にすることにした。
放置していたグリッセントもギチギチに縛り付けて隅に置いてある。
多くの人たちは見つかったけれど未だに行方不明になっている人もいるので動ける人たちが交代で探しに出た。
みんなの尽力もあってほとんどの人を見つけることができた。
ただ戦闘中に傷を負ったりなんかしていた人の中には耐えられなかったのか助けられなかった人もいた。
目の前でそうした人が出るのは悲しいことであるが戦いが起こった以上全員が無事とはいかない。
それでも起きた出来事の大きさから被害の数を考えるとかなり少ない被害で済んだのだとルシウスは言っていた。
そうして動ける人が増えてきたところで拠点をスイロウ族の元々の集落の方に移した。
やはり洞窟は少し気温が低くて冷えていて、床も硬いので休むのにも不適切であったからだ。
「疲れた! 疲れた疲れた疲れたー!」
数日間みんなを治療して回っていたエであるが限界を迎えた。
フラフラと歩いてきたエは急にジが抱えていたフィオスを取り上げるとジの胸に顔をうずめた。
こんな甘え方するのは珍しいと思いつつも、それだけ疲れているのだろうとジも受け入れる。
「だから無茶すんなって言ったろ? ほら、少し休めよ」
「ヤダ。このままがいい」
いつの間にか腰に手を回してホールドされている。
振り払うこともせず頭をポンポンと撫でてやる。
「ずいぶんと負担をかけてしまったな」
エが優秀なものだからつい任せきりになってしまったとルシウスも反省する。
ルシウスだって常に動き回って仲間を探していたので少しやつれた感じすらあった。
「立ったままだと疲れ取れないだろ? このままでもいいから少し座るなり寝るなりしよう」
「……分かった」
「………………エ?」
「このままでいいんでしょ」
移動するのに抱きつかれたままでは動きにくい。
しかしエは抱きついたままジを離さない。
仕方ないのでそのまま少しずつ移動する。
「んー……」
家の中に入ってきてベッドを使わせてもらおうと思ったのだけどエに抱きつかれたままでどうしようかと思案する。
「このままじゃどうしようもないぞ?」
「ヤダ」
「ふー……しゃーないか」
「ふぇっ!?」
もうこの際無理矢理でもエを休ませる。
ジもエの腰に手を回して支えると後ろに倒れながら体をねじる。
二人してベッドに倒れ込む形になった。
多少中途半端にベッドに乗ることになったがジが抱き寄せるようにベッドに乗せる。
ボッとエの耳が赤くなる。
わがままを言っている自覚はある。
でももう動きたくないぐらいの気分なのは本当だった。
こんな大胆なやり方してくるとは思わなかった。
「エ、お疲れ。少し寝ると……ふふ、お疲れ様」
ベッドに引き込まれた。
そんなことを言ったらリンデランはどんな反応するかななんて考えているといつの間にかエは眠っていた。
しばらくぎゅっと抱きしめられたままで脱出もできなかったのだけど、ふとエが動いて力が抜けた瞬間に抜け出した。
流石に密着してると意識もしてしまう。
ジの頬も軽く赤くなっていた。
ーーーーー
さらに数日後国の騎士なども加わった援軍が到着した。
その頃にはみんなほとんど回復していて、援軍の騎士と協力して事後の処理を行ったりグリッセントに引き渡したりした。
カメについてはスイロウ族やジの証言から手を出さずに様子見をすることにした。
どうやらカメの動向によって湖の水が増減して、その下流にある川に大きな影響を及ぼすことがあるようだった。
特に雨も降っていないのに洪水になったり水不足になったりする理由がようやく分かった。
今はカメが卵を産んで力を使ったので川の水が減っているのかもしれないとタラテスアダルが言っていた。
そして密猟者も密猟者ではなく、そんな卵を産んで弱ったカメを狙った連中がいて、森の案内やカモフラージュなどのために本物の密猟者を引き入れたのではないかと予想された。
生き残った密猟者はグリッセントしかおらず、この部分についてはよく調査が必要である。
力の弱ったスイロウ族だけでは危険かもしれないということで国の騎士がしばらく森に残って警戒することになった。
そしてジたちはやるべきこともないのであとは帰るだけである。
「ジ……ありがとう」
当然トースやエスクワトルタとはここでお別れになる。
トースはウルウルとしている。
「お父さんから色々聞いた。あなたとっても強い戦士だったのね」
ジの活躍はめざましいものがあった。
敵にも恐れずに向かっていき、相手が崩壊するきっかけを作ったのはジであった。
軟弱とまではいかないがスイロウ族の戦士たちに比べてジは細くて弱そうに見えていたけれどそれは間違いだった。
「……また会えるかな?」
「きっと会えるさ。落ち着いたら手紙でも書くよ」
「うん、ありがと…………うぉーん!」
我慢しきれずにトースの目から涙が流れる。
短い間であったがジは命を助けてくれた恩人であり、大切な友人となった。
獣人であるために頻繁に会うことは難しいかもしれない。
けれどトースが望むならどこかで会えるだろうと思ったのである。
「じゃあね。元気で暮らせよ」
「またね、ジ!」
互いに手を振って別れる。
過去ではあり得なかったような、獣人の友達ができたのであった。
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