親たる守り神4

「お父様!」


「ウルシュナ、無事で良かった!」


 シェルフィーネから降りてきたウルシュナがルシウスに飛びついて抱きつく。


「エ、みんなを見てやってくれ!」


「分かった!」


「リアーネはエを手伝ってやってくれ」


「おう!」


「ユディットは俺と周りを警戒だ。他にも敵がいるかもしれない」


 流される前の敵の数からするとまだ残っている可能性は十分にある。

 ジとユディットは剣を抜いたまま周りを警戒して、ようやく追いついたリアーネにはエの手伝いをお願いする。


 とりあえず集められた人たちをリアーネが並べて地面に寝かせておく。


「まだ見つけた人がいる。連れてくるからウルシュナもここで待っていなさい」


「えっ、でも……」


「ユディット、ついていってあげるんだ」


「分かりました!」


「ウルシュナはここで警戒の手伝いを頼む」


 ルシウスも波に流されたせいで疲れた表情を浮かべている。

 1人で行かせるのは心配なウルシュナの心情を察してジはユディットも行かせることにした。


 流された人を連れてくるのなら男手もあった方もいい。

 ルシウスはジの配慮に感謝の視線を送りつつ森の中に入っていく。


 騎士たちはルシウスのおかげで比較的近いところに流されたようで何往復かして騎士たちを連れてくる。

 ジのように沈んだわけではなく短い時間波に揉まれて流されただけなので波によるダメージはあっても飲んだ水の量は少なく済んでいた。


 エが治療してやると何人か意識を取り戻した騎士もいた。

 残って警戒する人と分けて何人かの騎士もまとまって流された人の捜索を始めた。


 正直な話では強敵だったゼデアックはもう倒されたし、魔法使い部隊と思われるローブの密猟者たちは壊滅している。

 ここで倒した密猟者を考えても残りの密猟者は少ししかいない。

 

 こうして波にさらわれたら魔物たちもしばらく近寄ることもないだろうし、ほとんど安全だろうと思われた。


「君たち!」


「あっ、タラテスアダルさん!」


 流されて行方が分からなくなっていた騎士たちも八割方見つけられ、エの治療を受けていた。

 そこにタラテスアダルがやってきてジたちを見つけた。


「大丈夫ですか?」


「ああ、こちらのみんなも……無事な人が多いようだな」


「スイロウ族たちは無事ですか?」


「何人か見つけて集めて寝かせてある。他のものを探していたらこちらから声が聞こえてきたから様子を見に来たのだ」


「スイロウ族もこちらに運んで治療しましょう」


 ゼデアックたちと戦っていたスイロウ族たちは比較的湖から遠めで波の正面でもなかった。

 そのために対策は講じられなくても被害については騎士たちよりも小さかったのである。


 騎士たちがスイロウ族を運んできて地面に寝かせる。


「エ、大丈夫か?」


「うん! まだまだ平気」


 ちゃんとエのことも気遣う。

 騎士の中にいる治療を担当する神官の騎士も今は手伝っているが、疲弊している神官の騎士よりもやはり力の強いエの治療の方がペースは早い。


 だがあまり無理をしないように適宜様子も確認しておく。


「あまり無理すんなよ?」


「大丈夫だって」


「お前が俺の心配してくれるように俺だってお前の心配するんだからな」


「ん……分かったよぅ」


 ジも大概無理してしまう方であるがエも責任感が強くてこうした場では無理しがちになる。

 心配していると言われてエが照れ臭そうに頬を赤くした。


「ルシウスさんも少し休んでください」


「お父様、お願いです」


「……そうするとしよう」


 ルシウスはずっと休みなく森の中を歩き回って仲間やスイロウ族を探してくれている。

 本人も万全な状態ではないのによくやるものであるとジは感心している。


 だがこのままルシウスにも倒れられては困る。

 ちょっと卑怯だけどウルシュナの背中も押して娘のお願い攻撃で無理に休ませた。


「しかしあの魔物はなんだったのか……」


 それなりに経験もあるルシウスでも初めて見るような強大な力を持った魔物だった。

 全力を尽くしてもわずかに傷をつけられるかどうかという相手である。


「多分あれは……」


「何か分かるのか?」


「いいえ、あの魔物がなんなのかは知りません。でも多分ですけどあの魔物は親です」


「親……だと?」


「はい。子供を守ろうとする親。もしかしたら密猟者たちはあの魔物が子供を産んで弱っているところを狙っていたのかもしれません」


 ジは水の底で見た卵のことを思い出していた。

 ジを警戒するように睨みつける中一瞬卵に目を向けたカメの視線は優しかった。


 卵を狙ったのか、あるいはカメそのものを狙ったのかジは知らない。

 けれど卵を産んだタイミングで密猟者が来たというのは偶然だとも思えない。


 卵を産んだタイミングで来たのには襲うに足る理由があったはずだ。


「……親か」


「なんであれ、こちらから手を出さなきゃあちらも攻撃はしてこないみたいです」


「そうなのか。ならばあまり近づないようにしておこう」


「でもまさかこんなことになるとはね……」


 スイロウ族を助けにいくといってこんなことになるとは誰が予想できただろうか。

 予想外の事件はありながらもなんとか密猟者は退治することが出来た。


 ただ密猟者の目的がなんだったのか、ルシウスは密猟者の死体を見ながら思ったよりも根が深そうな問題であるとため息をついた。

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