親たる守り神3

 本当ならば全員殺したいところであるがそこまでの余力もないので誰か道連れにしてやろうと思った。

 こうなったのはジが悪い。


 ジはウリドラの一瞬の隙をついてローブの密猟者を一人倒した。

 そのせいで全てが狂った。


 カメが解放されて仲間の無事も確認できず、逃げることすら困難な状況に陥ってしまった。

 だからジだけは殺す。


 八つ当たりのようなものであるがゼデアックの目にはジしか見えていない。


「くっ、フィオスガード!」


 ジはとっさに抱えていたフィオスを突き出した。

 甲高い音がしてゼデアックの剣が折れて飛んでいく。


「なに……」

 

 フィオスは表面を金属化させた。

 ジの家の前に突き立てられた失敗作は今はもう無くなっている。


 一部は再加工してプレゼントにしたりしたが大きな部分はフィオスのおやつになってしまった。

 他にも色々金属も食べている。


 なのでフィオスはスライムとしての柔軟さもありながらアダマンタイトなどの金属の硬さを持つツヨスライムになっているのだ。

 それを知らずにゼデアックは全力で剣を振り下ろした。


 不意打ちでジの両手はフィオスで埋まっている。

 通常ならば防御することなんてできない。


 だから一刀両断するつもりで剣を振り下ろしたのに硬い何かに剣がぶち当たって、そして折れてしまった。

 手に持っていたのはスライムのはずなのにとゼデアックは理解が追いつかなかった。


「フィオスアタック!」


 そしてジはそのまま金属化しフィオスをゼデアックの頭に振り下ろした。

 要するに金属の塊で殴られたのと同じ。


 謎の衝撃を受けてゼデアックの視界に星が散る。


「リアーネ、殺しちゃダメだ!」


「分かってるよ!」


 奇襲なんて卑怯なマネをする。

 怒りの表情を浮かべたリアーネが思い切り剣を振りかぶっていた。


 剣の腹でゼデアックを殴り飛ばす。

 こちらもまた一切の容赦がなくぶっ飛んでいく。


「何が……あっ」


「あっ!」


 ゼデアックはおそらく密猟者たちのリーダー格の一人。

 それはカメも分かっていた。


 怒りの目をしたカメが足を振り下ろす。

 その下にはぶっ飛ばされたゼデアックがいた。


「……みんな、見ない方がいい」


 どうなったのかなど確認するまでもない。

 ジは顔をしかめて視線を逸らす。


 カメの怒りを買ってしまったゼデアックはカメに復讐されて無惨にやられてしまったのである。


「……す、すまない……」


 結果的にゼデアックは死んでしまった。

 ゼデアックが悪いのだし、殺したのはカメなのであるが間接的に原因を作ったのはぶっ飛ばしたリアーネだ。


 やってしまったとしょんぼりとしている。


「いいって。いなかったと思えばいいんだよ」


 あれは事故みたいなものである。

 リアーネは悪くないのでジも何があったのかは忘れることにした。


「とりあえずみんなを探そう」


 ここらにいないのなら流されたはず。

 エとウルシュナにはシェルフィーネで上から捜索してもらい、ジたちは地上から流されたみんなを探す。


「……戦いの音だ!」


 湖から離れていくと木々も多く残っていて流された木が引っかかっていて進みにくい。

 そんな中で耳を澄ませると金属がぶつかる戦いの音が聞こえてきた。


「ユディット、ジョーリオの糸、イケるか?」


「お任せください!」


 引っかかった木やぬかるみがひどくてなかなか前に進めない。

 ユディットは自分の魔獣であるクモのジョーリオを呼び出した。


 地面が進みにくいなら別の場所を行く。

 ジョーリオが糸を飛ばして木々の間に張っていく。


「ちょ、待って! それ、私苦手……」


「先行くからな!」


「ええっ!」


 ジとユディットは糸を蹴って跳躍する。

 基本的には粘ついて獲物を捕獲する糸を出すジョーリオだがさらりとして粘つきの少ない糸も出せる。


 ジョーリオの糸を使った空中移動でこれをユディットは糸跳びと名づけていた。

 新しい戦略や戦いとしてユディットが練習していたのだがジも面白そうだと糸跳びの練習に参加していたりもした。


 ちなみにリアーネもやったことがあるのだけど糸跳びが死ぬほど苦手だった。


「ルシウスさん!」


 戦いの音がしているところに駆けつけるとルシウスが密猟者と戦っていた。

 後ろには気を失った騎士やスイロウ族が数人見える。


 どうやら仲間たちを集めていたところを密猟者に見つかって襲われたようだ。

 気絶した仲間を守りながらの戦いではルシウスも分が悪い。


「一人ずつ引き受けるぞ!」


「了解です!」


 敵は3人。

 駆けつけたジとユディットが一人ずつ引き受ければちょうどいい。


「クソッ!」


「そのガキさっさと殺せ!」


 突如として駆けつけたジとユディットに対して密猟者たちは苛立ちを隠せない。


「こいつ……なかなかやるぞ!」


「うわっ、この野郎!」


 悪いけれどジはカメに治してもらったのでほぼほぼフルパワーである。

 ユディットも波には飲まれていないので消耗は少なく、対する密猟者たちは波にはもみくちゃにされてかなり体力を失っていた。


 3人の密猟者はジたちにあっという間に倒されてしまった。


「エー!」


「今行くー!」


「助かったよ。君たちも無事だったのだな」


 ルシウスは深くため息をついた。


「ルシウスさんもご無事で」


「迫り来る波になんとか魔法をぶつけて威力を弱めたんだ。何もせずにそのまま流されていたら危ないところだった」


 シェルフィーネが空から降りてくる。

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