親たる守り神2
「ありゃ……一体なんだ?」
「きっと長く生きた魔物だろうな。長く生きることで力を得てあそこまでおっきくなったんだ」
生まれながらにして神獣と呼ばれるような力を持つ魔物もいるが長い時間をかけて力を蓄えて神獣と呼ばれる存在にも匹敵する力を身につけた魔物がいる。
カメはそうした魔物なんだろうとジは考えた。
「あっ、そうだ! あいつは……いた!」
ひとまず大きな危機は乗り越えた。
ジは自分が吐き出されたのだからグリッセントも吐き出されたはずだと周りを見回して探す。
するとジたちから離れたところに倒れているグリッセントの姿を発見した。
「そいつ逃すな!」
グリッセントも気絶から目覚めたのか体を起こそうとしていた。
「逃すがボケナス!」
素早く走り出したのはリアーネだった。
「うわっ、容赦ないね〜」
リアーネは片手で体を支えてなんとか起きあがろうとしていたグリッセントの頭を思い切り蹴り上げた。
手加減しろとは思わないけれどあまりにも容赦のない一撃だった。
「……生きてる?」
「多分」
腕も切ってしまったし死なれては困る。
仕方なくエに軽ーく治療してもらい、手足を縛っておく。
「あと、見られてんの……なんか落ちつかねぇな」
湖に戻ったカメであったが目だけ出してずっとジたちのことを警戒するような目で見ている。
敵意はなさそうであるがあまりよく思われてもいないようだ。
「……多分守ってんだよ」
「守ってる? あの湖をか?」
「それもあると思うけど……」
きっとあのカメがここまで警戒しているのは湖の底にあった卵のせいだろうと思う。
ジたちが敵ではないと分かってくれているようだがそれでも卵を守るために警戒してるのだ。
「とりあえずもう少し湖から離れておこう」
近くにグリッセントの魔獣であるゴダンナも見つけたのでそれも縛って拘束して湖から離れたところに置いておく。
「他のみんなは?」
ジがみんなの安否を問うとエたちは顔を見合わせて首を横に振った。
「みんな、水に飲まれちゃって……どうなったのか分かんないの」
「カメが怒ったように地上に出てたし降りて探せなくてな。空から様子を見てたらジがカメの口から出てきたってわけなんだ」
「周りも見たら分かると思うけど……ひどいもんだよ」
ウルシュナに言われて改めて周りを見てみると景色は一変していた。
湖の周りにも森が広がっていたのに水に押し流されてかなりの数の木が無くなっていた。
残っている木だって倒れかけているようなものもある。
虚勢のためにグリッセントに仲間はやられただろうと言ったがやはり嘘でもなかった。
「どうしようか……」
ジのように水の中に沈んでしまっている人もいるかもしれない。
「…………あの魔物に聞いてみよう」
「えっ!?」
少なくとも密猟者よりは話が通じそうな相手な気がした。
ジのことを治療してくれたし、今も襲わないでいてくれる。
ジはフィオスを抱きかかえると慎重にカメの前に歩いていく。
「あの……」
ジが声をかけるとカメが威圧するように頭を上げた。
カメが暴れたらジにはどうすることもできない。
けれどここで威圧感に負けて引いてしまってはいけない。
大きく息を吸い込むと胸を張るようにしてカメの目を見上げる。
「水中に人はいませんか? もしいたら助けたいんですけど」
とりあえず声をかけてみる。
理解しているのかは知らないけど、すぐに攻撃してこないところを見ると理性的に考えていてジのことを敵だとは見なしていない。
「それに、水の中に死体があったら嫌でしょ? 多分卵にも悪いし……」
ヘラリと笑ってみるけれどカメからの反応がなくて冷や汗が噴き出してくる。
カメに話しかけてみたけど失敗だっただろうかと思い始めていた。
「お、おお……」
長い沈黙。
このまま踵を返してみんなのところに戻れば許してもらえるかなと遠い目をしていたら湖の中から水の球体に包まれた人たちが浮かび上がってきた。
話は通じていた。
本当にカメがジの言う通りにしてくれたことにジも驚く。
「……でも」
水の玉が弾け飛んで雑に地面に人が投げ出されていく。
見たところ騎士やスイロウ族はいない。
湖に近かったローブの密猟者たちが水に沈んでいたようである。
「ありがとうございます!」
ひとまず安心はした。
ジが深々と頭を下げてお礼を言うとカメは再び目だけを出して監視するような体勢に戻った。
軽く確認してみたところ生きている人はいない。
ジだってフィオスがいなかったら危なかった。
何もせずにそのまま沈んでいた人が無事なはずはなかったのである。
死体をそのまま湖のほとりに放置は出来ない。
ユディットとリアーネを呼んで死体をグリッセントのそばまで移動させる。
「一つ分かったのは他のみんなは湖に沈まず流されたってことだね」
湖の方に引き込まれてしまえばほぼ助からない。
けれど流されたのならまだ生きている希望はある。
「この……クソガキがぁ!」
ゼデアックと呼ばれていた男が地面から飛び出してきた。
「ジ!」
スイロウ族の精鋭たちを相手に優位に戦えるほどの実力を持ったゼデアックが狙っていたのはジだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます