みんな頑張った
「……どったの?」
帰りの馬車の中でふとウルシュナが発した疑問。
トースとエスクワトルタがいなくなって少し広くなったように感じられる馬車の雰囲気は少しだけおかしかった。
ただウルシュナの質問もいくつか解釈はできる。
「今回フィオスには助けられたからな。帰ったら良いもんでも食わせてやろうと思ってな」
膝に乗せたフィオスを眺めていたジはとりあえずフィオスを見つめていた理由を答えてみる。
今回もフィオスは大活躍だった。
湖に沈んだジを助けてくれた。
そして多分だけどカメと話して敵ではないと伝えてくれたのではないかと思う。
エスクワトルタを落ち着かせてくれていたりゴダンナを倒したりカメの治療だってしてくれた。
みんな頑張ってくれたけどフィオスの活躍を考えるとフィオスが1番だったのだとジは自信を持っている。
「ん〜そうじゃなくて」
ウルシュナはチラリとエに視線を向けた。
エはずーっと窓の外に視線を向けたままで動かない。
よく見ると耳が赤くなっている。
「まあ気にしないでやってくれ」
疲れてたから。
そう言い訳をしたけれどなんであんなことをしてしまったのかエにも分からなかった。
普通に休めばいいのに、疲れてフラフラしていたらジが目の前にいて抱きついた。
ジのニオイとか温かさとか声の振動とか色々心地が良かった。
ベッドに押し倒されて気づいたら寝ちゃっていたし恥ずかしくてたまらない。
もしかしたら心配だったからかもしれない。
波に飲まれるジを見ていてきっと大丈夫だろうと思っていたけれど、やっぱりジが生きていてくれてすごく安心もした。
そんな想いがちょっとだけ溢れたのかもしれない。
ただドキドキした。
同じ身長だったのに。
いつの間にか少しジの方が大きくなって、細っこかった体はガッチリとしていた。
男の子の体をしていて感触が忘れられない。
「ふぅーん?」
ウルシュナはその場にいなかったから何があったのかを知らない。
「ウルシュナ?」
「今回、私も結構頑張ったと思うけどなー」
ウルシュナはスッとジの隣に移動した。
「まあ頑張ってたな」
ルシウスを手伝い、ウルシュナも忙しく動いていた。
戦いでもしっかりと立ち回って動いて十分な戦力となっていた。
活躍としては地味であるが、こうした確実な動きを出来るのはリーダーとして必要な才能だ。
ウルシュナは誰かの上に立つのにもふさわしい才覚を兼ね備えているなとジは思ったし、そう褒めてやる。
「ん……あんがとう」
急に褒められてウルシュナも顔を赤くする。
人を伸ばすのにも褒めるのは大事である。
「そーいうこと普通に言えちゃうのもずるいっていうか……すごいよね」
ウルシュナは座席に横になってジの膝に頭を乗せた。
ジの膝とウルシュナの頭に挟まれてフィオスがむにゅっと潰れる。
「……言葉にしなくて後悔するより言葉にしちゃおうと思うようにしたんだ」
「ふーん……じゃあ」
ウルシュナは下から手を伸ばしてジの頬に指を押し当てた。
「私も……水に飲まれの見て、心配したかんね。よくエが怒ってる理由が分かったよ」
ウルシュナは顔が赤くなったことをごまかすように横を向いた。
「わっ、何すんのさ!」
「ジも疲れてるから!」
横を向いたらジトーっとした目をしているエと視線があった。
少し拗ねたように唇を尖らせたエはウルシュナの手を引っ張って自分の隣に座らせた。
エの調子も戻ってきたようだ。
「帰って寝たいところだな」
ジの馬車も揺れないわけじゃない。
既存の馬車よりもはるかに揺れないというだけでちょっとは揺れる。
田舎まで来ると道の事情も悪いので自然と振動も大きくなってしまう。
早く帰って安心安全の中、クモノイタの心地よいベッドで寝たいものである。
過去ではスイロウ族はどうなったのか。
密猟者が来て酷いことになってしまったのか、あるいはどうにかして事態を乗り切ったのか。
もしかしたらこんなことは過去になかったのかもしれない。
考えても仕方ないか、とジは無駄に思考を巡らせることをやめ、壁に寄りかかって目をつぶった。
なんとか今回も、ジの守りたい人たちは守りながら問題を解決することができてよかったと思いながら振動に身を任せて眠りに落ちたのであった。
ーーー第十章完結ーーー
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