強力な密猟者3
「ふっ、勝つなどとは言っていないさ」
「なに?」
「言っただろう? 大事なのは生きるか、死ぬかだと!」
両手を突き出してウリドラが魔法を放つ。
「ならばここで死ぬのは貴様の方だ!」
ルシウスは剣に魔力を込めて引き絞り、一気に突き出した。
剣から魔法が放たれてウリドラの魔法とぶつかる。
「ほう、これを相殺するか」
「この力……一体何者なのだ?」
仮にどこにも所属していない人だとしてもこれほどの力があるならば多少は名前が知られているだろうとルシウスは思った。
しかしルシウスはウリドラのことを全く知らない。
「ふん、だから言っているだろう。俺の正体などどうでもいいとな」
「つまりは答えるつもりがないということだな」
「最初からそう言ってたつもりだ」
「まあいい。口を割らせてやろう」
どの道捕らえるつもりだ。
その後何者か聞き出せばいい。
ルシウスは剣を構えてウリドラをにらみつける。
「も、もう限界だ!」
「……なんだ?」
カメが一際大きな雄叫びを上げて鎖が全て引きちぎられた。
浮き上がっていたカメが湖の中に落ちて大きく波が立つ。
「ウリドラ様、拘束が解けました!」
「分かっている。潮時だな。出てこないグリッセントは諦める」
ウリドラは小さくため息をついた。
「ゼデアック、撤退だ!」
ウリドラがリアーネたちと戦っている密猟者に声をかけた。
リアーネ、ユディット、ウルシュナを含めスイロウ族を相手にしていたのにゼデアックたち密猟者は1人も倒されていなかった。
むしろ何人ものスイロウ族が倒されていて援軍が来なかったらやられていただろう。
今はタラテスアダルもリアーネたちに加わってゼデアックと呼ばれた男と戦っているが複数を相手にしてもゼデアックは一歩も引かない戦いを繰り広げている。
「撤退だと? そんなことさせるか!」
悠長に会話する時間など与えない。
ルシウスがウリドラと距離を詰めて剣を振り下ろす。
「くっ!」
なんとかルシウスの剣をかわし、黒い炎で手をまとうとルシウスに振りかぶる。
ルシウスは手を容易くかわして剣を振り上げた。
今度の攻撃はかわしきれずにウリドラの胸が浅く切り裂かれて顔をしかめる。
「ウリドラ様!」
周りにいたローブの連中もカメがいなくなったので自由になった。
ウリドラに襲いかかるルシウスに向かって一斉に魔法を放つ。
「総員攻めか……か」
ルシウスが号令を出そうとした瞬間固まった。
戦いの最中に気を抜くような相手ではない。
止まるような何かがあったのだとウリドラはルシウスの視線を辿るように後ろを振り返った。
後ろには湖畔に上がってきているカメと水の壁が見えた。
「なんだあれ……」
イナーズ湖は広い。
深さもあってかなりの水量を誇るのだが今その湖面は遥かに下がっていた。
周りの水を吸い上げながら隆起して巨大な壁となっていたのである。
カメの怒りのこもった目はウリドラを見据えていた。
「コイツ……本気かよ」
まだ水の壁は大きく高くなり続けている。
「全員、全力で逃げろ!」
ルシウスが叫んだ。
ゆっくりと水の壁がジたちの方に倒れ始めた。
このままどうなるのかは考えるまでもない。
その場にいた全員が危険を察知して走り出す。
「シェルフィーナ!」
エはとっさに魔獣であるシェルフィーナを呼び出した。
「ウルシュナ、リアーネ、ユディット!」
シェルフィーナは嫌がるかもしれないけれど今はそんな贅沢言っている場合ではない。
近くで戦っていた3人を呼び寄せて、ウルシュナを背中に、リアーネとユディットを鷲掴みにして飛び上がる。
「……ジー!」
「お父様!」
「なんてことだ……」
ジはウリドラと戦っていたために湖に近かった。
巨大な水の壁が倒れて波となり、森を飲み込んでいく。
密猟者だけではなくルシウスやスイロウ族、そしてジまで全てが水の中に消えていった。
カメが水の中から姿を表して頭を上げて咆哮した。
守り神と呼ばれるのにふさわしいほどの神かがり的な力であった。
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