強力な密猟者2
「しかし両手に武器を持ったところでどうなるというのだ」
少し手数が増えることはあるかもしれないがフィオスを槍にしたところで目覚ましい変化もない。
何かあるのかもしれないと警戒してジの攻撃をかわすが変わったところはない。
むしろ槍を手にしたことで動きが悪くなったのではないかと思えるほどである。
「くらえ!」
隙をうかがっていたスイロウ族が動き出そうとしたのを見てウリドラが手を向けた。
それを見てジは槍フィオスを逆手に持ち直して全力で投擲した。
「避けてください!」
これ以上スイロウ族が被害に遭うのは見たくない。
ウリドラが槍を回避してわずかに出来た時間でスイロウ族が飛び退いて魔法をかわした。
「チッ……このガキ……」
ウリドラはジの顔を見て違和感を覚えた。
スイロウ族を攻撃する隙を狙ったのだとしたら槍はかわされたので失敗である。
スイロウ族が攻撃を回避できたことは一定の成果はあったと言ってもいいが、それだって次に繋がるようなものではない。
なにどうしてジが笑みを浮かべているのかウリドラには分からなかった。
「うっ!」
カメが大きく鳴いた。
あまりの声の大きさに耳が痛くてジも顔をしかめた。
「ウリドラ様!」
ローブの密猟者が苦しそうにウリドラを呼んだ。
ウリドラが振り返るとカメが拘束している魔法の鎖が引きちぎられていっていた。
「な……何をして……」
ウリドラが抜けても魔法は十分に維持できるはずだった。
誰かが手でも抜かない限りはカメは抜け出せないはずだと仲間に目を向けたウリドラは驚きに目を見開いた。
1人倒れていた。
手を抜いたどころか急に1人いなくなったからカメが魔法の拘束を破壊しているのだ。
首には槍が刺さっていた。
「この……クソガキ!」
ウリドラは血走った目でジを睨みつけた。
ジが槍フィオスを投げつけた目的はこれだったのである。
もちろん回避せずに刺されてくれるというのなら歓迎であったが、かわされたのならかわされたで狙い通りだった。
ウリドラだけが視野を広く持って戦えるのではない。
相手がそうするというのならジだってそうしてやる。
戦いながら位置を調整してウリドラの後ろにローブの密猟者が来るようにしていた。
ジが槍フィオスを投げた時、その後ろにはローブの密猟者がいた。
視野を広く持っているとしてもスイロウ族とジを同時に見ていては仲間の位置までは気を配れない。
ウリドラがかわした槍フィオスは魔法の維持に躍起になっているローブの密猟者の首に突き刺さったのである。
「ぶっ殺して……」
「ウリドラ様、もう魔法が維持できません!」
「グリッセントは?」
「まだ出てきていません!」
「魔法はもう均衡を失っている。クソ、再度魔法を……」
「どこを見ている!」
カメに巻き付いた鎖は次々と弾け飛んでいる。
ウリドラの顔にもさすがに焦りの色が浮かんでいるけれど相手に考える時間は与えない。
ジがウリドラに切り掛かる。
なんとかかわしたが剣先がかすめてウリドラのローブが浅く切れた。
「全員魔法の維持をやめろ。まずはこのガキと畜生を殺してからだ!」
どの道もう壊れた魔法を維持することも元に戻すこともできない。
先に邪魔となるジたちを殺してしまうことの方が優先だとウリドラは手をジに向けて魔法を放とうとした。
「ヤバっ……」
チャンスだと思って襲いかかったけれどウリドラの反応が良すぎた。
ほとんど距離もなくかわせない。
「……今度はなんだ!」
またエに怒られるかもなんて思った瞬間光が飛んできた。
ウリドラが相殺してようやくそれが魔法だったのだとジも理解した。
「よく戦ってくれたな!」
ウリドラが魔法でシールドを張る。
直後剣がぶち当たってシールドに大きくヒビが走った。
「ゼレンティガムさん!」
「遅れて済まない!」
乱入してきたのはルシウスであった。
振り向くと密猟者を倒すために出発した騎士やスイロウ族たちも到着している。
こう言ってはなんであるがメインの部隊はこちらの方なのだ。
人数も多く質も高い援軍が駆けつけたことにジもホッとした。
「貴様、ただの密猟者じゃないな?」
ウリドラに向けて魔法を放ったのもルシウス。
不意の一撃を相殺し、ルシウスの剣まで防御した。
セコセコと密猟なんかを繰り返す連中の実力ではとても不可能である。
さらにはカメにかけられている鎖の拘束魔法もただの魔法ではない。
ルシウスは魔法が専門ではないけれど強い力を感じるカメを捕らえるのに使われている魔法はかなり強力なものであるはずだ。
薄々勘づいていたが単なる密猟者ではないウリドラをルシウスは鋭く睨みつけた。
「俺が何者なのか、そんなに重要か? 今大事なのはどちらが死ぬかだ」
「お前たちはもう逃げられない。この状況で抵抗しても死ぬのはお前の方だ」
「はっ、勝つつもりか。傲慢だな」
「状況が分からないのか? 分かっていないのなら愚か。分かっているのならお前の方が傲慢だろう」
駆けつけた騎士やスイロウ族を合わせるとジたちの方が人数は多くなる。
ルシウスやタラテスアダルを始めとしたスイロウ族の精鋭もいる。
こうした状況にあってもまだ勝てるだろうと思うのならそれこそ傲慢というものであろう。
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