強力な密猟者1
「守り神様を放せ!」
「畜生が近寄るんじゃないよ」
ローブの密猟者の1人が振り向いて手をスイロウ族に向けた。
黒い閃光が走った。
次の瞬間、先頭を行くスイロウ族の目の前で爆発が起きた。
スイロウ族はかわすこともできずに爆発の直撃を受けて倒れる。
「ウリドラ様!」
「お前らはあの化け物に集中するんだ」
人を蔑んだような目をしたウリドラはめんどくさそうにため息をつくと両手に黒い炎を燃え上がらせた。
「あの畜生共は私が燃やし尽くしてやろう。散々逃げ回られてイラついていたんだ」
ウリドラが手を振るった。
それだけでスイロウ族たちの真ん中で黒い爆発が起きて何人ものスイロウ族が吹き飛んでいく。
「この野郎!」
「俺はなぁ……」
魔法使いなら接近戦は苦手なはず。
1人抜け出したスイロウ族がウリドラに迫る。
「お前らみたいなのを人だと認めていないんだよ」
飛びかかったスイロウ族に向けて手のひらを向ける。
黒い炎がほとばしり、スイロウ族が瞬く間に黒い炎に包まれる。
「業火に焼かれて死ぬといい」
「うわああああっ!」
「マズイ!」
炎を消そうと地面を転がるけれど全く火の勢いは変わらない。
あのままでは死んでしまう。
「フィオス、頼むぞ!」
ジは盾のフィオスを燃えているスイロウ族目掛けて投げる。
「ユディット、ジョーリオの糸で湖に向かって投げろ!」
「は、はい!」
投げつけられたフィオスは金属化したままスイロウ族の腰に巻き付いた。
ユディットがジョーリオを出して糸を飛ばす。
体は燃えているので糸をつけられないが金属化したフィオスは燃えないので糸もつけられる。
糸をくっつけたジョーリオはスイロウ族をそのまま投げ飛ばして湖に落とした。
炎が水に触れて爆発的に水蒸気が上がる。
「ここは頼むぞ!」
スイロウ族も強いが魔法に対する備えが浅い。
ジはその場をリアーネたちに任せてウリドラに向かう。
「死に急ぐか。ならば希望に沿えてやろう」
子供だからと容赦はしない。
ウリドラはゆっくりと手を前に突き出して魔法を放った。
黒い炎の玉が真っ直ぐジに向かって飛んでいく。
「ジ!」
かわそうともせず黒い炎の玉に正面から向かっていくジにエは悲鳴のような声を上げた。
「やはりガキ……」
ジは恐れもためらいもなく剣を振り下ろした。
魔力をまとった剣が綺麗な弧状の軌跡を残して振り下ろされて、黒い火の玉が真っ二つに切り裂かれた。
黒い炎の玉が二つに割れてジの左右を通り過ぎていく。
回帰したばかりの時ジはまだ未熟で、その上火かき棒しか武器がなくて、それで必死に魔法を切り裂こうとした。
それに今は持っている武器も魔剣で魔道具のおかげでもらえる魔力も増えた。
放たれた魔法に対して焦りもなく冷静。
「なに!?」
ウリドラからはジが魔法を突き破ってきたようにも見えた。
黒い炎のひりつくような熱さを感じながら切り裂いた魔法の間を駆け抜けてウリドラと距離を詰める。
「やああっ!」
ジはウリドラに向かって剣を振る。
「魔法使いだから動けないとでも思ったか?」
ジの剣は空を切った。
ウリドラは上体を逸らしてジの剣をかわした。
続け様に切りつけるがウリドラはそれもかわして魔法を放つ。
「なっ……!」
しかし魔法が向けられた相手はジではない。
ローブの密猟者たちに迫るスイロウ族に対して向けられたものであった。
「そう驚かずともいい。ちゃんとお前のことも見ている」
魔法使いは一般に接近戦が苦手だと言われている。
普通の魔法使いは体を動かすことが苦手な人も多い。
他の人が剣を振る時間を魔法の修練に費やすのだから仕方ないのだが基本的に魔法使いは近づかれて戦うことを嫌がる。
さらには魔法の発動には魔力のコントロールや集中力を要する。
戦っていては魔法を安定的に発動させることも簡単ではない。
魔法は威力が高い分近くに放つと自分が巻き込まれてしまう可能性があるとか色々な理由から魔法使いと戦うならまず接近するべきだと言われる。
しかしウリドラはジの攻撃をしっかり見切っている。
「くっ!」
加えて反撃まで繰り出す。
黒い炎をまとったウリドラの手をジは間一髪かわした。
当たらずとも火傷しそうな熱。
強い危険を肌が感じている。
「やめろ!」
「ならばやめさせてみるといい」
両手を素早く振り回しながらもウリドラはスイロウ族の動きを見ている。
魔法が直撃してスイロウ族が吹き飛ぶ。
ジのことを軽んじているわけではないがジが脅威になりきれていない。
「ガッ……!」
手の炎と魔法を警戒しすぎた。
一瞬の隙をついて飛んできた蹴りをかわすことができなかった。
「さっさと消えろ」
地面を転がったジにウリドラが魔法を放つ。
「まだまだ……!」
起き上がりながら魔法を切り裂く。
「フィオス!」
視界の端でユディットが水に落としたスイロウ族を引き上げているのが見えていた。
ジはフィオスを手元に呼び寄せる。
「スライム? そんなものでなにをするつもりだ」
「何でもできるさ!」
フィオスは槍の形に変形した。
「ほう?」
フィオスの能力にウリドラがわずかに眉を上げた。
スライムが形を変えるところなど初めて見たと感心したのだ。
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