密猟者たちの目的5

「何が起きてるんだ……」


 カメが苦しそうに声を上げる。

 その体には魔力で作られたどす黒い鎖が絡みついていた。


「アイツらが密猟者だ!」


 イナーズ湖のほとりには獣人ではない人の姿があった。

 スイロウ族の1人が叫ぶ。


 この状況的にもそうではないかと思っていたけれど、ほとりにいる連中こそが今回の事件の元凶である密猟者たちであった。

 両手を上げてカメに向けているローブ姿の密猟者がいて、そいつらが黒い鎖を生み出しているようにジには見えた。

 

 カメの口に魔力が集まる。

 次の瞬間カメの口から勢いよく水が放たれてローブ姿の密猟者に襲いかかる。


 剣を持った密猟者が数人前に飛び出す。


「仲間もお構いなしなのか?」


 打ち出された水を数人がかりで弾き飛ばした。

 けれど飛ばした先にも密猟者の仲間がいて、密猟者たちが吹き飛んでしまう。


「やってられるか!」


 何人かの密猟者が叫びながらカメから逃げようと走り出す。


「あれ……仲間割れ?」


「分からん……とにかく奴らを止めるぞ!」


 逃げようとした密猟者をカメの攻撃を防いだ密猟者が後ろから切りつける。

 密猟者なんてやっている連中の結束力など高が知れているが逃げる仲間を後ろから切り捨てるなんて非道にもほどがある。


 状況もいまいち把握しきれていない。

 おそらくカメみたいな魔物が守り神と言われている存在であろうことはジにも分かる。


 エの魔獣であるフェニックスにも代表されるような一部の魔物は人との契約をしていなくても人に友好的だったり利益をもたらすものもいる。

 そうした魔物のことを一部の地域では神のように扱うことがあるのもジは知っていた。


 イナーズ湖の守り神。

 多分湖を守ってくれている魔物なのだろう。


 そんな魔物を密猟者がどうにかしようとしている。

 止めなければならない。


「邪魔をさせるな! 行け!」


「俺たちに戦えっていうのか!」


「ならあれの相手をするか?」


「くっ……いくぞお前ら!」


 ジたちに気がついた密猟者の一部が向かってくる。


「くそっ、なんだってこんなことに!」


 動きの速いスイロウ族がまず密猟者たちとぶつかる。

 スイロウ族たちは槍を主体とした戦い方で素早く切り込んでいく。


 まとまって向かってきていた密猟者たちはあっという間にバラバラになって統率が失われる。

 そこに騎士が攻め込んでいって次々と密猟者たちは倒れていく。


 ジも戦う。

 やや後ろ目に、エの方に密猟者が行かないように気をつけながら密猟者を切りつける。


「答えろ! お前らの目的はなんだ!」


 腕を切り付けられて剣を落とした密猟者の胸ぐらを掴む。

 こんなことをしている目的を問いただす。


 明らかにただの密猟者としての行動を逸脱している。


「ガキに答えることなんか……」


「俺はともかく、他の人たちは優しくないぞ」


 ジが子供だと見るや、見下したような目をする密猟者。

 しかしジにいきがったところでどうなるというのだ。


 何も吐かないというのならジだって容赦するつもりはないし、ジを振り切ったところで圧倒的劣勢な密猟者が逃げられはしない。


「……命は助けてくれ」


「いいから早く言え。時間が惜しい」


 密猟者は周りを見て唇を噛んだ。

 逃げようとした密猟者もスイロウ族に捕まっていた。


 スイロウ族たちの方が足が速くてどう頑張っても逃げられなさそうなことを察したのである。


「とは言っても俺たちも知らねえよ!」


「はぁ?」


「この森に獣人がいて、そいつらいなくなれば稼ぎ放題だからと連れてこられたんだよ! 獣人が強いとかあんなバケモンと戦わされるとか聞いてねえんだよ!」


 なんとなくチグハグな感じがあった。

 スイロウ族が勝てないような相手なのに今こうして戦っている密猟者は明らかにお粗末な実力の連中である。


 望んで戦っているような感じもなく、あっという間に制圧されてしまっている。

 密猟者の話を聞いて納得した。


 密猟者とひとくくりに考えてしまっているが、密猟者の中にも二つのグループがあったのである。

 一つは普通の密猟者グループ。


 密猟をして利益を上げることを目的とした人たちであり、あまり戦いには精通していない。

 もう一つのグループがある。


 それが今カメを拘束して、この戦いに参加していない連中だろうとジは思った。


「アイツらが黒幕だな」


 密猟者を集めたのはローブの連中だ。

 きっとカメが目的である。


「フィオス」


「お、おい……命は助けてくれるって……」


「そうだな。だから寝てろ」


 ジは盾になっていたフィオスにメイスに形を変えてもらった。

 サッと青くなった密猟者の頭を殴りつける。


 思い切り頭が揺れて密猟者がドサリと地面に倒れる。

 酷いダメージはあるだろうけど死んではいない。


 命を助けてやるけれど余裕もない状況なので無事な状態で拘束している暇もないのだ。


「チッ……役に立たない奴らだ。あとどれぐらいかかる?」


「まだもう少しかかります!」


「あの格好……騎士か。こんなに早く駆けつけているとはな。時間を稼ぐぞ! 倒せそうなら倒してしまっても構わん」


 密猟者たちがやられたのを見てカメを拘束しているグループも動き出した。

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