密猟者たちの目的2

 近くにいるのならこちらから探し出して先手を取ってもいい。

 待ち伏せすることもできるし、遠くにいるのなら一度捕らえられたスイロウ族を隠し拠点に連れ帰ってもいい。


 けれど誰の口からも密猟者の行方は語られない。


「アイツら俺らに聞こえないに離れたところでしか話さないんだ」


 密猟者はスイロウ族の耳の良さも分かっていた。

 スイロウ族のことを侮辱するような言葉は幾度となく口にしたが必要な会話は目の前ではしなかった。


 最初の頃はした奴もいたのだがそうした奴は次から見なくなったのである。


「何かアイツらの会話で使えそうなものは……」


「俺は何も聞いていない……」


 何も情報がない。

 タラテスアダルは悔しそうに頭をかいた。


「治療はしたが安静は必要だ。捕われていた人を連れて戻ろう」


 相手の警戒は非常に高まるだろうが何より助け出したスイロウ族の方が大切である。

 相手を探したり待っていたりするぐらいならスイロウ族たちを安全な場所に送り届けるのを優先すべき。


 迷っている時間も惜しい。

 今こうしている間にも密猟者は何かをしているかもしれないし、戻ってきているかもしれない。


「そうだな……一度も取った方が」


「伯爵様」


「なんだ?」


「こちらの者がお話したいと」


 スイロウ族の治療をしていた騎士がルシウスを呼んだ。

 治療を終えたばかりの若いスイロウ族がその横にいる。


「そのままでいい。何か聞いたのか?」


「……族長」


「話すんだ。その人の言葉は俺のものと思ってほしい」


 酷い暴力に晒されたのだ、信じられなくても仕方がないとルシウスはスイロウ族の態度に怒るつもりもない。


「俺は耳がいいです。何か聞こえないかと常に耳をすませていました」


「それで何か聞いたのか?」


「奴らが狙ってるのは湖の守り神です!」


「なんだと!?」


 ーーーーー


「心配してるのか?」


「にゅ……なにすんさぁ」


 ぷにっとウルシュナの頬にジの指が突き刺さった。

 フィオスほどではないしてもウルシュナの頬もプニプニとしている。


 ウルシュナがずっと隠し拠点となっている洞窟の入り口を見つめているものだから気になった。

 何を考えているのかは理解できる。


 密猟者の拠点を襲撃に行ったルシウスのことを心配しているのだ。

 ルシウスは強い。


 忙しい政務の間にも日々の研鑽を忘れず、貴族だけでなく戦士としての志も高い。

 けれどルシウスも人である。


 怪我もするし、ひどければ死んでしまうこともある。

 戦場で何が起こるのかは誰にも予想ができない。


 どこかに戦いに行く以上は大丈夫だろうなんて安心することはできないのだ。


「きっとお父様なら大丈夫。むしろやられる敵の方を心配するね」


「まあその方が正しいかもしれないな」


 だがそれでもルシウスがやられる未来など想像はできない。

 愛する妻と娘のためになんとしても無事に帰ってくることだろう。


「ただあまり気を張りすぎるなよ。疲れちゃうから」


「……うん、そうだね」


 けれども今ここで落ち着けるかというとそれも難しい。

 なぜならやはりスイロウ族の警戒心が未だに強いからである。


 洞窟の中を見ると騎士とスイロウ族ではっきりと分かれてしまっている。

 助けだと理解をして視線を向けていないスイロウ族も多いのだけど一部では警戒するような目を向けてくる者もいる。


 監視するような感じの視線にウルシュナはちょっと落ち着かない気分もしていた。


「ごめんなさいね、頭の固い人も多くて」


「ええと……」


「サタラと呼んでちょうだい」


 スイロウ族の老人がジとウルシュナに話しかけてきた。

 品の良い女性でやや腰は曲がっているが杖もなく歩いている。


 このサタラという女性はトースとエスクワトルタの祖母であった。

 現在のスイロウ族の中では1番年齢の高い人であるらしい。


 顔立ちとしてはトースの方と似ている感じがしている。


「偏見で相手を見てはいけないのだけど偏見は根深くて……」


「いいえ、おそらくこうした偏見はこちらの方が酷いでしょう。スイロウ族の苦労を思えばこれぐらいなんてことですよ」


「あら、うちの孫を助けてくれたと聞いたけど出来た子なのね」


 ジの大人な返事にサタラは柔らかな笑みを浮かべた。


「一つお聞きしても良いですか?」


「私に答えられるならなんでも聞いてちょうだい」


「どうしてスイロウ族はこんなところに住んでいるんですか?」


 豊かな自然はあるけれどその自然の分だけ生きていくにもコルモー大森林は厳しいところである。

 人里離れているという利点はあるけれどスイロウ族の能力ならもっと他でも生きていけそうだ。


 さらには北方に生きる他の獣人たちと違って王国に降ってまでここにいる理由も気になった。


「スイロウ族は元々古くからここに住んでいたのよ」


「古くから……ですか?」


「ええ、ここが王国の直轄地になる前は誰にも支配されない土地で、私たちスイロウ族が暮らしていたの」


「へぇ……知りませんでした」


 コルモー大森林が名前もなかったような時代からスイロウ族はここに住んでいた。

 けれど王国が力を持って勢力を拡大する中で獣人との衝突が起こったのである。

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