密猟者たちの目的1

 スイロウ族だってただ追い詰められていただけではない。

 反撃に出ることも考えてスイロウ族は密猟者たちの拠点を見つけていた。


 ただ密猟者たちもまとまって動いていたので隙がなかった。

 スイロウ族たちもケガ人や拠点の防衛などを考えると大きく人数を割くことが出来ず反撃できないでいた。


 だが今はルシウスたち騎士もいる。

 ルシウスは騎士を半分に分け、スイロウ族たちと共に密猟者の襲撃に向かった。


 ただ密猟者の数も思っていたよりも多い。

 タラテスアダルの話によると密猟者というよりは密猟団と言った方がいいぐらいに規模のある集団であった。


 どこからそんな規模の密猟者が湧いてきたのか疑問であるが捕まえて吐かせればいい。

 タラテスアダルの案内で騎士たちも森を進んでいく。


「もうすぐ着きます……くっ」


 タラテスアダルは苦しそうな顔をした。

 スイロウ族が攻め込まなかったのにはもう一つ理由があった。


「やはりこのニオイは苦手だ……」


 密猟者たちが拠点を敷いた場所は臭い木の実が成る木の群生地近くであったのだ。

 嗅覚が優れているスイロウ族にとってはかなり辛い場所であるが普通の人ならそんなに臭くは感じない距離ぐらいに野営をしていた。


 上手く使えば魔物避けになる場所で、スイロウ族避けにもなっていた。


「やはりただの偶然ではないな」


 偶然だと考えるにしては出来過ぎである。

 この広い森の中で魔物もスイロウ族も嫌う木の実が成る木の近くに拠点を作っているのはたまたまではないだろう。


 意図的なもの。

 これが単に魔物除けなのか、スイロウ族まで意識してのことかは分からない。


 けれど少なくとも森についてはルシウスよりも知っていそうである。

 ルシウスは剣を抜いた。


 見えるテントの数は多い。

 やはり人数そのものはいそうだ。


「……人の姿が見えない」


 タラテスアダルが顔をしかめた。

 いつもなら複数人が見張りに立っているはずなのに今日に限ってはその姿が見えない。


 様子がおかしい。


「行こう!」


 嫌な予感がした。

 ルシウスたちが一気に密猟者の拠点に襲いかかる。


「な、なんだ!」


「くそっ、スイロウ族……騎士だと!?」


 拠点には数人の男たちがいた。

 しかしどいつも反応は悪い。


 襲撃されているのに武器を構えるのが遅く、あっさりとルシウスたちにやられてしまった。


「少ない……それに簡単すぎる」


 密猟者というのにふさわしい実力ではあったが違和感が多い。

 スイロウ族が密猟者を攻めあぐねていた大きな理由は密猟者たちの強さにあった。


 最初に罠のように待ち構えていたからだけではなく密猟者たちはちゃんと強かった。

 追ってくる密猟者に反撃に出たり襲いかかったこともあったのだが、負けて追い返されてしまっていた。


 だから助けを求めたのであるが今倒した密猟者たちはお粗末な実力としか言いようがない。

 それに人数は明らかに少ない。


 1人1つテントを使ったとしても余る。


「族長!」


 ルシウスたちが襲撃した方から反対側に捕らわれたスイロウ族たちがいた。

 木に繋がれたロープを切ってスイロウ族たちを解放する。


「治療を!」


 無事なスイロウ族もいたが酷い状態のスイロウ族も何人かいた。

 騎士の中で治療魔法ができる者が治療にあたる。


「何があってこんなことになった?」


 無事な若いスイロウ族の口輪を外してタラテスアダルが何が起きているのかを尋ねた。


「アイツら……族長たちがどこに隠れたのか吐けって……」


 ぼろぼろになったスイロウ族はタラテスアダルたちが隠れていた拠点の場所を聞き出そうと暴行を受けていた。

 しかし一般のスイロウ族たちでは正確な場所も目印も知らないためにただただ数人が酷い暴力だけになったのである。


「クソッ……クズどもめ……」


 タラテスアダルが怒りの表情を浮かべて拳を握りしめる。


「ニソンナアダルが……」


「まさか……」


「うぅ……!」


 間に合わなかった。

 他の仲間が隠し拠点の場所を聞き出そうと拷問を受けている時にニソンナアダルというスイロウ族は止めようと声を上げた。


 それが密猟者の気に障った。


「アイツら……ニソンナアダルのシッポを……!」


「なに?」


「俺たちの誇りを切り落としやがった!」


 スイロウ族にとってシッポやミミは誇りとも言えた。


「……ニソンナアダルは生きてるんだな? ニソンナアダル!」


「族長……」


「ニソンナアダル!」


 中でも酷く痛めつけられていたために真っ先に治療されたスイロウ族。


「平気か?」


「シッポが……」


 ニソンナアダルのシッポは根本から切り取られていた。

 何と非道なことをするのだとタラテスアダルは怒りに震えずにはいられない。


「シッポを失ったのは残念かもしれない。だがお前はまだ生きている。そのシッポは……仲間を守ろうとした勇気の証だ」


「……ありがとうございます」


「シッポがなくともお前を笑う奴などいないさ。とりあえず休め」


 かなりギリギリのところな状態のスイロウ族もいたが治療は間に合った。

 無理をさせなければ回復するだろう。


「誰か、密猟者がどこに行ったのか知っている者はいるか?」


 密猟者に捕われたスイロウ族は助け出せた。

 しかし肝心の密猟者の姿がない。

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