スイロウ族はいずこ4

 高位の魔獣であるフェニックスが現れて周りが明るくなる。

 騎士たちの口からも思わず感嘆の声が漏れる。


「2人ぐらいなら運べますよ」


「……ならお願いしよう」


 何があるか分からない以上人は多い方がいい。

 ルシウスがうなずいて運ぶ騎士を選び出す。


「……背中じゃないのか」


「知らない人を背中に乗せるのは嫌みたいだからね」


 ルシウスを乗せたバイミュートが飛び上がり、続いてシェルフィーナも飛ぶ。

 騎士の輸送方法は足1本につき騎士1人鷲掴み。


 連れ去られているみたいな少しばかり情けない運ばれ方であるがどんなであっても仕方ない。

 騎士もジも背中に乗せてもらえることを想像していた。


 嫌ならしょうがないかと上に騎士を運んで戻ってきたシェルフィーナを見る。

 目が合ったジに対してシェルフィーナが頭を下げた。


 シェルフィーナは不思議とフィオスだけでなくジに対しても頭を下げるのだ。

 ジもそれに応じて頭を下げた。


「…………ジなら背中に乗せてあげそうね」


「ちょっと飛んでみたいし興味はあるな」


 今はそのタイミングじゃないけれど機会があるならシェルフィーナに乗って空を飛んでみたいなとは思った。

 流石のフィオスといえど空は飛べない。


 上に助けに行くことはできないので騎士たちは緊張の面持ちでルシウスを待っている。


「おーい、こっちだ!」


 上からルシウスの声がした。

 けれど見上げてもそこにルシウスはおらずみんながキョロキョロと声がどこからしたのか探す。


「こっちだ、こっち!」


 ルシウスが魔法で火を燃やして目印にする。

 上がったところから少し離れたところにルシウスはいた。


 上にある家は1つだけじゃない上手く隠れるようにしていくつも家があるのだ。

 その中の1つにいつの間にか移動していたのである。


 ジたちが家の下に移動すると上から縄ばしごが降りてきた。


「上には敵はいない。……スイロウ族もいないがここは安全そうだ。もう暗いからここで休ませてもらおう」


 完全に夜になった。

 エスクワトルタが目印を見つけることも厳しくなってしまったので次の拠点に移動するのも難しい。


 騎士たちだって一日中移動して疲れているしトースなんかはもう睡魔と戦っている。

 緊張状態にある中でよく大人についてきていたものである。


 周りの状況や疲弊具合を勘案するとリスクの方が大きくなりすぎている状態。

 幸いこの木の上の拠点はそれほど荒らされていなかったのでルシウスはここで休むことにした。


 今から下で野営の準備をするよりもひとまず拠点を使わせてもらった方が安全に休むことができる。

 木の上の拠点は燃やすと森にも火が広がる可能性があるためか燃やされなかった。


 その代わりに上に用意されていた縄ばしごがことごとく壊されていた。

 ルシウスはたまたま壊されていなかった縄ばしごを見つけたので下ろしたのであった。


 広い家ではないのでみんなで雑魚寝するしかない。

 ジたちはトースやエスクワトルタも含めエとウルシュナといった子供で1つ家を与えてもらえた。


「……疲れてたんだね」


「そうだな。こんな状況じゃ無理もないよ」


 トースは明らかに眠気に襲われていたがエスクワトルタもずっと集中して拠点への目印を探していた。

 常にスイロウ族のみんなのことを心配して気も張り詰めていた。


 トースとエスクワトルタはフィオスを間に挟んで寄り添うようにして寝てしまった。

 ウルシュナも魔物との戦いに何回か参加していたので疲れがあった。


 なので意外と疲れていたウルシュナもすぐに寝入っている。


「でもさーこの国にもこんなところ、あるんだね」


「ああ、俺も初めてだよ」


 基本的にこのような巨大な森林に来ることなどない。

 首都に住んでいる限りわざわざ来る場所ではないのでエの目に映る景色は珍しいものであると感じていた。


 遊びではないが初めて来る場所に感心してしまう。


「……ジと一緒だとこういうことあるよね」


 ジは知らない世界を見せてくれる。

 危険なこともあるのだけどそんな時はジが守ってくれるし、それもまたエの知らない光景の話だったりする。


 ジといられるだけでも少し心躍る。

 そしてジと一緒に旅をして冒険しているのだと思うと、もっと心躍ってしまう。


 冒険なんて面倒なことしたいと思わないのにジがいるだけでこうも違う。


「俺もほんとはまったりしていたいんだけどな」


「なんかトラブル引き寄せてんじゃない?」


 ニッと笑ってエがフィオスにやるようにジの頬をつつく。

 ジも抵抗しないで突かれるのを受け入れながら確かにトラブルは多いなと思う。


 でもトラブルだっていくつかはジそのものに降りかかったものではない。

 けれどトラブルが降りかかった人に頼られるようなこともなぜか多いのだ。


「やっぱりジが助けようとしちゃうし、結局助けられちゃうからね」


 なんだかんだと困っている人を無視できない。

 そしてジはどんな問題でも解決してしまう。


 ジが変わってしまうかもしれないと思ったこともある。

 でも道端で死にそうになっていたエを助けてくれた時とジは変わらない。


「うり」


 いつまでつついてるんだと反撃でジもエの頬をつつく。


「ふへへ……」


「どうしたんだよ?」


 エが怒ってさらに反撃してくるかなと思っていたけれどエはヘラっと笑った。

 変わらないジが嬉しくて。


「ううん。そろそろ私たちも寝よ?」


「そうだな。明日も早い……」


 ジとエはゴロリと床に寝転がった。


「明日こそ、助けられるといいな」


「きっと助けられるよ」


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