スイロウ族はいずこ3

「……みんな」


 エスクワトルタはギュッとフィオスを抱きしめる。

 みんな無事でいることを祈って。


 程なくしてルシウスが戻ってくる。

 その顔は険しく、ジも不安が募る。


「誰かいましたか?」


「いや、誰もいなかった」


 ルシウスはゆっくりと首を振る。

 幸か不幸か誰もいなかった。


 スイロウ族も密猟者も。


「中を見てもらえるか? もしかしたらまた何か暗号のようなものがあるかもしれない」


 危険がないことは確認済みであるのでエスクワトルタが拠点の中に入る。


「うっ……なにこの臭い」


 中に入るとひどい臭いがしてエスクワトルタが顔をしかめた。


「焦げ臭いな」


 後から入ったジも思わず鼻をつまむ。


「物を焼いたのか?」


 臭いの正体は言うまでもなく物が焼け焦げた臭いだった。

 見ると穴の中に置いてあった物が黒く焦げていた。


 スイロウ族は拠点に物資もいくらか保管していた。

 数日過ごせるだけの食料や毛布などが置いてあったのであるがそれが燃えて臭いのである。


「……おそらく密猟者だな」


 スイロウ族がわざわざ物資を燃やすなんてしない。

 ならばこのようなことをした犯人は密猟者だ。


 ルシウスの見立てではここでも戦闘は起きていない。

 となるとスイロウ族が逃げられる先を潰すために物資を燃やしたのだろうと推測した。


 こんなことしなくてもいいだろうにという思いはルシウスの中にもある。

 これは確実に相手を追い詰めようとしているやり方でスイロウ族が危険であることがより浮き彫りになった。


「どうだ、エスクワトルタ?」


「ううん、何か行き先を伝えるものはないよ」


 拠点の中を見回したが家にあったような暗号はない。

 スイロウ族はここに来ていなかったか、密猟者からすぐに逃げたかということになる。


 物を燃やしている余裕があったことを見るとすれ違いでスイロウ族が逃げたのではなく、元々いなかったと見た方がいい。


「そうか……他にも拠点があるからここではなかったのだな」


 ルシウスは空を見上げた。

 空は赤く染まり始めている。


 もう夕刻。


「もう一ヶ所行こう」


 夜は凶暴な魔物が活発化することも多い。

 人にとっては暗くて視界の利かない夜は危険が大きいので早めに野営の準備を整えて動かないのが基本になる。


 けれど密猟者は確実に狩人としてスイロウ族を追い詰めている。

 リスクを冒しても行動の必要がある。


 ジたちは次に近い拠点に向かう。

 薄暗くなってきたのでエスクワトルタも目印が見えにくいようで目を凝らして探していた。


 今度あったのは黒く塗って艶消しした棒であった。

 先ほどは枝に直接色をつけていたのだけど棒は矢のような一定の太さの加工された物だった。


 枝だと視界に頼らざるを得ないが棒ならむしろジの方が見つけられる。

 魔力感知を広げて木の上に刺してある木の棒をジも探してエスクワトルタに協力する。


「あれは?」


「うん、そう。……見えてるの?」


 エスクワトルタは自分よりも素早く目印を見つけるジを不思議そうな顔で見つめる。

 もう日が落ちてきて暗くなってきた中では黒い棒などほとんど見えない。


「見えてないが感じることはできるからな」


 枝にはない一定の太さの棒は意識して魔力感知で探せば違和感があるから逆に見つけやすい。

 日が完全に地平線に沈んでいくと騎士たちが魔法で灯す明かりが頼りになる。


 暗くなってしまうとエスクワトルタよりもジの方が目印探しで頼りになる。


「ここの上」


「上?」


 目印を辿っていくと今までのものと違ったクロスした形の目印が現れた。

 エスクワトルタが立ち止まって木の上の方を見た。


 空もすっかり暗くてなにも見えないがジの魔力感知は木の上にあるものを感じていた。


「あれは家か?」


 背の高い木の枝葉の中に隠れるようにして家がある。

 小さいので小屋ぐらいの規模であるがいくつかそうした木の上の家がある。


「うん、あれが拠点」


「あんなところ……どうやっていくんだ?」


 家の位置はかなり高い。

 簡単に行けるような高さではない。


「いつもは身軽な大人が上に行って、ハシゴを下ろしてくれるの」


「身軽な大人って……」


 相当身軽な大人がいるんだなとジは思う。

 チラリと騎士たちの方を見る。


 騎士たちも誰が行くんだという雰囲気が出始めていて互いに目で牽制しあっている。

 騎士も運動神経は悪くないが飛んだり跳ねたりはあまり訓練としてやらない。


「バイミュート」


 ため息をついてルシウスが自分の魔獣を呼び出した。

 頭が鷲、体が獅子で大翼を持つ雄々しきグリフォンが現れる。


 自分で飛べないのなら魔獣に飛んでもらえばいい。

 しかし人を輸送できるほどの空を飛べる魔獣と契約している人はそんなに多くない。


「デラス、後ろに乗れ。もう1人ぐらいなら運べるから」


 颯爽とルシウスがグリフォンの背中に乗る。

 体の大きなグリフォンなら大人2人ぐらいは乗せられる。


 ルシウスはデラスを指名した。

 老齢の騎士ではあるがそれだけ経験が豊富でどんな事態にも冷静に対処できる人として信頼を置いているからであった。


「私の魔獣もいけますよ」


 エが魔獣のシェルフィーナを呼び出す。

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