鼻をきかせて1

「1番遠い拠点に向かおう」


 日が昇る前に起きたジたちは次にどうするかを話し合う。

 少し険しい表情を浮かべていたルシウスが口を開いた。


 ここまで集落と二つの拠点を訪れたがどこも先に密猟者がやってきていた。

 図らずも形としては密猟者の後追いをするような感じになっている。


 いつか追いつけるのかもしれないが追いついた時には密猟者がスイロウ族に手を出してしまった後になるかもしれない。

 できることなら先回りしたい。


 今は現在の拠点から近い拠点へと移動して行っているがこれでは先回りできないとルシウスは判断したのだ。

 こうなったら次に近い拠点ではなく1番遠い拠点に向かった方が先回りできる確率が高い。


「確かに、その方がいいかもしれませんね」


 ジもむしろ密猟者に先回りされてしまっているような感じすらあった。


「エスクワトルタ、行けるか?」


「うん。ここから1番遠いところに行こうと思ったら一度集落の方に行ってからの方じゃないと」


「ではそのようにしよう」


 さらにルシウスにはもう一つ心配なことがあった。

 ジが感じた先回りされているということにも関わる。


 密猟者がなぜか拠点に先に来ているということが気がかりなのである。

 スイロウ族しか知らない緊急時用の拠点をどうして密猟者が先に見つけているのか。


 単に森を捜索して見つけたという可能性もあるが密猟者の痕跡を探しながら移動していたルシウスには密猟者もジたちも同じく目印を辿って移動いるように思えた。

 まるで拠点の場所を知っているみたいである。


 この心配が杞憂であればいいのだけれど。

 そう思わずにはいられない。

 

 ジたちは一度集落まで戻ってきた。

 ほんのわずかな期待もしたけれど相変わらず集落はがらんとしていた。


「えっと……あっち」


 集落から1番遠い拠点に向かっていく。


「今度のはかなり分かりにくいな」


 どの目印も分かりにくくしているがその中でも今回のものは中でも分かりにくい。

 木の幹の表面を四角く削って黒く塗っている。


 やはり黒く塗られるだけでも見た目上とても分かりにくくなるのだけど表面を削ったぐらいだと影だったり木の表面の模様との区別が困難である。

 仮に分かっていても見逃してしまうレベルに偽装された目印と言っていい。


 現れた魔物は騎士たちが素早く倒して拠点に近づいていく。


「あぁ……」


「君たちはここで待っていなさい」


 チラリと見えた拠点の様子にエスクワトルタが落胆の声を漏らす。

 遠くから見える拠点は集落と同じようにいくつか家が建てられているのだが見えている家のいくつかは壊されてしまっている。


 ルシウスを始めとした騎士たちが先行して様子を見にいく。

 ただ今いる地点からも人影は見えてはいない。


「ここにもいない……」


 戻ってきたルシウスは深いため息をついた。

 ここでもいないとなると最悪の想像もしなければならない。


 まだ拠点は残っているので希望は捨てないが、どこかで密猟者に追いつかれたとか大森林の魔物にやられてしまったとか覚悟を決めておく必要もあるかもしれない。

 密猟者の動きを推測するに近い拠点を順に回っていたはずでここの拠点は最後になるはず。


 にも関わらずここまで先に来ていた。

 状況は非常に良くない。


「だがしかし……」


 エスクワトルタが何かまた暗号は残されていないかと見て回っている間にルシウスは頭を悩ませていた。

 ここにも戦闘の跡はない。


 家は壊されているがそれだけであってこれまでと同じように拠点を利用不可能にするための工作のような感じがしている。

 それにここまでやってきたということは途中の拠点にもスイロウ族はいなかったという可能性も大いにありうる。


「拠点も捨てて逃げたんですかね?」


「あり得ない話ではないな」


 拠点の場所が密猟者にバレているような感じがある。

 もしかしたらスイロウ族もそのことに気がついて拠点を捨てて逃げたことも考えられた。


「何かあったか?」


「ううん……何もない……」


 建てられている家の多くが無惨に壊されている。

 何かヒントが残されていても家ごと壊されていてはヒントも見つけられない。

 

 小さい家ではあるがよく壊したものである。


「他に拠点はないのか? 本当に5つだけ?」


「……うーん」


 エスクワトルタは必死に思い出そうとする。

 何か大人が言っていなかったか。


 緊急事態の時にどうするのか教えられたことを記憶から引っ張り出す。


「……そういえば!」


「何か思い出したか?」


「もう一個秘密の拠点がある!」


「秘密の拠点?」


「一部の大人しか知らない……本当の本当に危ない時にだけ行く拠点があるって、お父さんが言ってた」


 5つの拠点は大人たちなら誰でも知っているもので目印さえ見つけられれば誰でも行ける。

 一方で防犯の都合から限られた人しか知らないような拠点もスイロウ族は用意していたのである。


「その場所は分かるか?」


「……ごめんなさい」


「いや、謝ることじゃないよ」


 ただしその拠点のことはエスクワトルタも知らない。

 もっと大人になれば教えてもらえたのかもしれないが子供のエスクワトルタにはまだ正確なことは教えてもらえなかった。


「でもまだ諦めるには早いよ」


 しかしジも諦めるつもりはなかった。

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