あたたかい大人もいるんだよ3

 それにもかかわらずジは貴族相手に堂々と助けを求めに行けている。

 自分はただ通ろうとしただけで追い出されたのにこの違いはなんなのか。


 やはりジが実はすごい人なのではないかとエスクワトルタは思った。

 獣人の世界では強いものが優れた男であるけれど獣人以外の世界では必ずしもそうではないということを大人から聞いたのを思い出す。


「まあ、俺も普通じゃない方だけど……周りに恵まれている方が強いかな?」


 回帰したということは強みであり凄いことかもしれないが結局ジ1人の力など高が知れている。

 ジ自身はあまり自分が凄いとは思っていない。


 どちらかといえば周りの人たちが凄い人たちなんだと思っている。


「あと凄いのはこいつかな」


 ジは自分の知る中で1番凄いやつを呼び出した。


「ひょ……」


「フィオス、俺じゃなくてこいつが凄いんだ」


 フィオスである。

 トースとエスクワトルタが驚いた顔をする。


 獣人には魔獣を持つという文化がない。

 道ゆく人でも魔獣を連れている人もいるけれどこんな風に目の前に出されるとビックリとしてしまう。


 ぷるるんとジの手の上に呼び出されたフィオスをエスクワトルタは見つめる。


「こいつは凄いんだぞ」


「これが? ……ジの方が凄いよ!」


 トースは不思議そうに首を傾げる。

 これが?というが馬鹿にしているのではない。

 

 とてもじゃないけれどプルプルとしたフィオスは強そうにも見えない。

 それなら色々と駆けずり回ってくれたジの方が凄いのだとトースには思えた。

 

 戦い的な強さは分からないが他者を思いやれる強さがジにはある。

 いきなり現れたフィオスよりも助けてくれたジの方が凄いのだと思うのは当然のことである。


「……ありがと」


 トースの純粋な瞳で真っ直ぐに目を見られてジは照れてしまう。


「ただ俺がこうしていられるのはフィオスのおかげなんだ。俺が凄いんだとしたらフィオスのおかげ、フィオスがいてくれるからなんだ」


 フィオスがジに褒められて微振動する。

 ジが凄いのだとしたらフィオスが凄い。


 フィオスが凄いからジも凄くあることができるのだとジは本気で思っている。


「ふぅーん……」


 トースにはちょっと分からない感覚だけど凄いジがそういうのならとフィオスをもう一度見る。

 まるで水を固めたような不思議な魔物。


「か……」


「か?」


「可愛い……」


 ずっと黙りこくっていたエスクワトルタ。

 その目はフィオスに釘付けだった。


「あの……触ってもいいですか?」


 フラフラと手を伸ばしては勝手に触ってはいけないと引っ込めるを繰り返す。


「もちろん抱いてあげて」


 フィオスの魅力が分かるなんて出来る子である。

 ジがフィオスをエスクワトルタに渡してあげると目をキラキラとさせて撫で始めた。


「お、おお」


 少し頬を赤くしてフィオスを撫でる。

 フィオスもエスクワトルタが自分に興味を持って撫でてくれているのを分かっているので大人しく撫でられている。


 嬉しそうにフィオスを撫でている顔を見ると年相応の女の子って感じに見える。

 トースも恐る恐る手を伸ばしてみてフィオスを触っているうちに王城に着いた。


 国の方針などを決める貴族会議にも出席するゼレンティガムは役人ではないが兵力を抱える大貴族として国防の一環も担っている。

 つまりはそれなりに上の役人にも顔がきくというわけだ。


 そしてある程度上まで話がいくとジの名前が通じ始める。

 ヘギウスやゼレンティガムとも交流があり、王様も気に入っている商会の不思議な子。


 役人の間でもフィオス商会としても名前が通っているし王様御用達馬車のお店としても有名なのだ。

 ルシウスとしても驚きだった。


 素早く話を通そうと思って知り合いの役人を呼んでもらおうとしたら宰相であるシードンが出て来たから。

 ルシウスはシードンとの面識はほとんどない。


 貴族会議や公の場などで顔は知っていても直接話す間柄ではないからだ。

 シードンだって暇な人では決してない。


 シードンに案内されて部屋に移動する間、エスクワトルタはギュッとフィオスを抱きしめて周りを警戒していた。

 王城は人が多いから仕方がない。


「珍しい組み合わせ……でもないのかな?」


 シードンはジとルシウスが一緒にいるのを見ても驚いた様子もない。

 当然知り合いであることは把握している。


 ただそんなに一緒に行動する関係でもないことも知っている。

 どうしたんだろうと疑問には思っていた。


「ここに直接来るということは緊急の要件なのだろう。小難しい挨拶はいつでも出来るから後回しにしよう」


 お茶を淹れるようにと指示は出したがそれすら来ていない。

 せっかちなのではなく必要に応じて状況を見定める能力がシードンは高い。


 正直な話ジのシードンにおける信頼はまだ高くはないが怪しいことをする人ではないことは確かである。

 ジがトースとエスクワトルタにうなずくと2人はフードを取る。


「む……スイロウ族か」


「知っているのですか?」


 シードンは驚いたように目を見開いたがジもシードンの口からスイロウ族という名前が出てきて驚いた。

 2人も驚いたような顔をしている。


 まさかシードンが知っているとは誰も思っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る