あたたかい大人もいるんだよ2

 ヘギウスとゼレンティガムは比較的近い。

 ゼレンティガムの騎士もウルシュナもいるので門はサラリと開いてゼレンティガム家の敷地に入っていく。


「ようこそ、我が家へ」


 ヘギウス家に比べるとゼレンティガム家の方はジにとって馴染みが少ない。

 ウルシュナが馬車を降りると家の中から慌てたように執事やメイドが出てくる。


 リンデランのところに遊びに行ったのに急に帰ってきては予想外なのでしょうがないだろう。


「なんだ?」


「お父様、今時間大丈夫ー?」


「ん、ウルシュナか? どうしたんだ?」


 ウルシュナの案内でルシウスの執務室に向かう。

 ノックをするとルシウスの返事が返ってくるのでウルシュナが声をかけるとガチャリとドアが開いた。


「おや、リンデラン、それにジではないか。それと……新しいお友達かな?」


 リンデランはいても普通であるがジまでいるのを見てルシウスは驚いたような顔をした。

 さらにはフードを被った見慣れぬ子までいて不思議そうな表情も浮かべる。


「どうもお久しぶりです」


「久しぶりだね。元気そうで何よりだけど……わざわざ挨拶に来たって感じでもなさそうかな?」


 さすがルシウス。

 遊びに来て仕事中のルシウスに挨拶はしないだろうとすぐに察した。


「お父様にお話があるって」


「そうかい、中に入るといい」


「じゃあ私たちは部屋に行くから」


「事情は分かりませんけれど頑張ってください」


 ウルシュナとリンデランは気をきかせてウルシュナの部屋に向かう。

 ジたちはルシウスの執務室に入り、ソファーに座る。


 なぜかジをトースとエスクワトルタで挟んでの配置になる。


「それで何の用だい?」


 優しくルシウスが微笑む。

 戦いの時はパージヴェルにも負けないような気迫のある人だが普段は穏やかで優しい。


 余裕があって思慮深い、貴族のお手本のような人である。

 たとえジとの関係がもっと薄くても話を聞いてくれる人であったのではないかと思えるほどの人格者だ。


「2人とも、この人なら大丈夫だから」


 話す上では見てもらった方が早い。

 ジが促すとトースとエスクワトルタはフードを下ろす。


「獣人だね」


 すると誰でも目を向けるようなケモノに近い耳が現れる。

 ルシウスは少し驚いたようであったけれど決して差別な感情は見られない。


 兵力を抱える貴族は戦いに駆り出されることもある。

 ルシウスなら北方の蛮族との戦いに呼ばれたことだってあるだろうし、この国の貴族なら北方の蛮族が厄介な存在だと知っているのにマイナスな感じが一切ない。


 トースとエスクワトルタもルシウスの変わらない目に少しホッと胸を撫で下ろす。


「この国の民である獣人がいることはご存知ですか?」


「……ああ、知っている」


 北方の蛮族とひとまとめにされてあたかも全てが敵のように言われている獣人であるが全員が敵なのではない。

 スイロウ族のように国に下ることを決めた獣人もいる。


 ただ他の人のように町にいたりするのではなく居住地があってそこに住むことを許されているのだ。

 ジはトースたちに会うまでそのことを知らなかったけれどルシウスは知っていた。


「そんな彼らが今危機に瀕しているんです」


 ジはスイロウ族に何があったのかをルシウスに説明した。

 ルシウスはジの話に口を挟むことなく黙してしっかりと聞いてくれる。


「なるほど……そのようなことが。先日の犯罪組織の大騒ぎも君が関係していると聞いていたけれどここに繋がってくるのか」


「スイロウ族を助けてくれませんか?」


「うむ、同じ国に生きる同胞は助けねばならないな」


 ルシウスはなんの迷いもなく答えた。

 獣人だろうとこの国に住む国民であるなら仲間である。


「スイロウ族のために国の方に助けを求めようとしていたのか。……そうだな、そちらに言った方がいいかもしれない」


 頭の中でどうスイロウ族を助けるかルシウスは考えた。

 ゼレンティガムの騎士を送ってもいいかもしれないが密猟者の規模は話に聞く限り小さくはない。


 となるとこちらもそれなりの規模の数を送らねばならない。

 スイロウ族が住んでいるところまでは距離があっていくつもの他家の領地を通らねばならない。


 一定以上の兵力を持って通行すればいらぬ軋轢を生むし一々説明していくのも面倒である。

 そうなったらルシウスが個人で動くよりは国の承認を得た方が後々スムーズに事態が動くのではないかと考えていた。


「そうだな。助けを要請しに行こう。

 誰かいるか!」


「はい、お呼びでしょうか」


 ルシウスが声をかけると部屋の外で待機していた騎士が入ってくる。


「外出する。王城に向かうから家紋付きの馬車を出してくれ」


「はっ、分かりました!」


「ルシウスさん、ありがとうございます」


「ふふ、娘も君にはお世話になっているからな。君のお願いを断ったらきっと娘も妻も怒るだろうしな」


 ーーーーー


「ジ様はすごい人なのですか?」


 ルシウスが乗った馬車についてジたちも馬車を走らせる。

 リンデランとウルシュナはおらず馬車の中にはジとトースとエスクワトルタ。


 フードの奥からエスクワトルタがジのことを見つめる。

 エスクワトルタに細かな身分の差などは分からないが貧民と貴族の住む世界が違うことはわかる。

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