あたたかい大人もいるんだよ1

 ジはトースとエスクワトルタを伴って馬車に乗り込んだ。

 向かう先はヘギウス家である。


 国の助けを得るというスイロウ族の考えは間違っていない。

 こうした場合ちゃんと助けを要請すべきである。


 しかし正面から助けを求めても話を聞いてもらえるかも分からず、その上最終的に助けを出してくれると決まるまでには時間がかかる。

 ジであっても真正面からお城に行って話を聞いてほしいと言って聞いてくれるか怪しいものである。


 シードンだって役人の中でトップなので簡単に会える人ではなく、普通に行って会いたいと言ってもおそらく鼻で笑われるのがオチである。

 何回か会っているからと勘違いしてはいけない。


 王様だったりシードンはジのことを知っているけど一般的な役人や騎士たちはジのことをほとんど知らないことをジはちゃんと自覚している。

 そこでパージヴェルにお願いするのである。


 貴族の中でも位の高いパージヴェルの一声なら話は一気に通る。

 実際パージヴェルにお願いするなんてことも世間一般からするととんでもないことである。


 けれどもうパージヴェルは友人関係にあると言ってもいいぐらいには親しい間柄にあるとジは思っている。

 かなり年の離れた友人だがパージヴェルも似たような考えを持っている。


 下手な知り合いよりもよほど顔を合わせる機会がある。

 パージヴェルも不思議な関係だとは思うがこの関係を言葉にして表現するなら友人なのだろうと言うしかないのだ。


「ジ君!」


「よー、ジ!」


 お城ではジのことを知らない人が多いがヘギウス家ではジのことを知らない人の方が少ない。

 ジが訪ねていくとリンデランとウルシュナが迎えてくれた。


 アカデミーはお休みでウルシュナが遊びに来ていた。


「今日は……あれ?」


 ジに続いて馬車を降りてきたトースとエスクワトルタを見てリンデランは不思議そうな顔をした。

 深くフードを被った2人の顔はよく見えないけれど知らない人に見えた。


 ジの交友関係はそれなりに知っているけれどこのように顔を隠して会いにくる人にも思い当たりがない。


「パージヴェルさんはいる?」


「おじいさまですか? おじいさまは今日はいらっしゃいませんよ」


「あー、そうなのか」


「何かあったのですか?」


「少し頼みたいことがあったんだけどな」


 パージヴェルも暇な人ではない。

 高齢であるために家で書類仕事をしていることも多いが直接パージヴェルが出ることもある。


 今日はたまたまそうした日であったようだ。


「どれぐらいに戻るかは分かるか?」


「うーんちょっと分からないですね……ごめんなさい」


「謝ることないよ」


 リンデランは申し訳なさそうな顔をするけれど事前の約束もなく訪ねてきたのはジである。

 どんな人だっていきなり訪ねて確実に会えるとは限らない。


「何か相談事でもあったの?」


「ああ、そうなんだ」


「じゃあうちのお父様はどう? 今なら家にいるよ」


「ルシウスさんか」


 ウルシュナのゼレンティガムもヘギウスと並ぶ貴族である。

 ルシウスの方がパージヴェルよりもまだ若く、日中は家にいないこともあるのであまり候補として考えていなかった。


 パージヴェルは友人であるがルシウスは友達のお父さんという感じでちょっと距離があるような感じもジの中にはある。

 もしかしたらジの中身が年寄りな分パージヴェルの方が近く感じるのかもしれない。


「レッツゴー」


 いつ戻ってくるかも分からないパージヴェルを待っている時間もない。

 なのでゼレンティガム家に向かい、ルシウスに話をしてみることにしたのだけど馬車にリンデランとウルシュナも乗り込んできた。


 そりゃ私の家に行くんだからいいでしょ?と自信満々に言われては反論もできない。

 ヘギウスとゼレンティガムの騎士に囲まれてゼレンティガムに向かう。


 短い距離であっても警戒は怠らない。


「そんで、その子たちはだーれ?」


 ウルシュナが顔を見ようと下から覗き込もうとしてエスクワトルタが顔を逸らす。


「そっちの子はわからないけど君は顔を逸らさないでくれるんだね」


 相変わらずの人嫌いであるがトースは顔を逸らすことはしなかった。


「き、綺麗なお姉さん……」


 むしろトースは覗き込むウルシュナの顔から目が離せないでいた。

 頬を赤く染めて恥ずかしそうにモジモジとし始めてしまう。


「うふふ、ありがと」


 綺麗と言われて一瞬驚いた後ウルシュナが嬉しそうに笑った。

 ウルシュナもかなり美人だと言っていい。


 アカデミーでもモテる人を聞いて回ればウルシュナの名前もどこかで出てくる。

 リンデランも美人な顔立ちをしているけれどトースにとってはウルシュナの方がドキリとしたらしい。


「私はウルシュナ。君は?」


「ぼ、僕はトスクワアダル……ト、トースって呼んでください……」


「うん、よろしくね、トース」


 お姉さんとまで言われたウルシュナはいつになく優しい声色でトースに接する。


「トース!」


 正面にいるウルシュナには見えていないけれどローブの中に隠しているシッポが激しく振られている。

 エスクワトルタがウルシュナに鼻の下を伸ばすトースに怒るけれどトースのトキメキは止まらない。


 チラリとウルシュナの顔を見てはトースのシッポは勝手に動いてしまうのであった。

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